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圭志達の前を歩く静は、騒ぎもせずおとなしく手を繋がれている明に小声で話しかけた。

「明、アイツに睨まれたくなければ余計な事言うな」

「そう言うことは、もうちょっと早く言ってくれ…」

圭志は気付いていないが、先程うっかり言いそうになった言葉に対して言うんじゃねぇ、と京介に睨まれた明はその眼光の鋭さを思い出し軽く身震いするとうなだれた。

「何もあんなに睨まなくても…」

「明は分かってないな。それだけ黒月に本気だって事だろ。あの京介がな」

ちらりと後ろを歩く二人に視線をやって静は愉快そうに笑った。

「佐久間、お前等はいくつカプセル手に入れたんだ?」

振り返った静に圭志がそうだ、と言って聞く。

「ん?いくつだっけ明?」

「えっと…全部で6個。紫が4個に緑が1個、赤が1個」

袋の中を覗いていた明は急に静に肩を掴まれて後方へ引っ張られる。

「なっにす…」

次いですぐ横の草むらからガタイの良い生徒が4人現れた。

後ろを歩いていた圭志達も静の後ろで立ち止まると、現れた4人に視線を向けた。

「何の用だ?」

京介が、手錠を外してすでに失格になっているのであろう4人組に 低い声で言い放った。


「何の用だ、か?もちろんお前を潰しにきたに決まってんだろ」

「この機会を利用しない手はねぇぜ」

「俺達はお前等生徒会が嫌いなんだよ」

「そう言うこと」

手錠で繋がれたままの圭志達を見て、男達は自分達に分があると思い一番手近にいた明と静に襲いかかる。

「うわっ!!」

「明、下がれ!!」

静は明の前に出ると男の拳を左手で受け止め、脇腹めがけて右足を振り上げる。

「ぐっ…」

男達は仲間がやられても慌てるでもなく笑った。

「神城、後ろ!!」

明が静にかばわれながら、視界の隅に後ろの草むらから2人の男が飛び出してきたのを捉えて叫んだ。

「生徒会ってのも大変だな」

左側に立っていた圭志が後ろを見ずにしゃがむと、その隣にいた京介が右に振り返って圭志の頭上にパンチをくりだした。

相手の拳が京介に届く前に京介の拳が男の顔面を捉え、男は後方に倒れ込む。

どさりと倒れる音にほっとしたのもつかの間、明は静に腕を掴まれ前のめりに倒れそうになる。

「左足を振り抜け!!」

しかし、なんとか踏ん張った明は静に言われるがまま左足を振り抜いた。

「っ…」

明の手加減なしの左足は男の急所に入った。

それを見て、男の仲間と蹴った明は少し青ざめた。

「ごめ…」

とっさに明が謝ってしまうほど倒れた男は顔を歪ませ冷や汗をかいていたからだ。

「ナイス明」

一方で指示をだした静は明の肩を叩いて笑い出す始末。

動きの止まった男達に京介と圭志が反撃に出た。

後ろから襲いかかってきた残りの一人に圭志が足払いをかけ、バランスを崩した男の腹に京介が左拳を振り下ろす。

「――っ」

そして、男は腹を抱えて倒れこんだ。

「てめぇ!!」

さすがに仲間が三人やられて、男達の顔つきが変わる。

「フン、たわいもねぇ奴」

「こんなんで本当に俺達に勝てると思ってんのか?」

京介が嘲笑して言えば、圭志が呆れたように男にそう投げ掛ける。

「なんだとぉ!!」

顔を怒りで真っ赤にさせた男達が明と静の横を素通りして二人に襲いかかる。

「挑発してどうすんだよ」

静は明の肩に手を置いたまま男達を止めるでもなく笑いながらただ眺めていた。

「調子に乗ってんじゃねぇ!!」

「ふざけやがって!!」

襲い来る男達を気にもせずに京介と圭志は軽口をたたく。

「俺は生徒会の人間じゃねぇ」

「そう言うわりにやる気満々じゃねぇか」

応戦の構えをとり、楽しげに口端を吊り上げた圭志に京介も笑って言う。

「そりゃ、久々に暴れられるからな」

そう言って圭志は男の左拳を右手で受け止め、左からの右拳を後ろに下がって避ける。

手錠で繋がれた京介も右手を引っ張られ一歩後ろに下がる。

「ちっ、やりにくいな」

京介が悪態をつくと、圭志が京介の後ろに立ち背中合わせの形をとる。

「これならやりやすいだろ?」

圭志は肩越しに京介を振り返ってにやりと言った。


そして、京介と圭志は向かってきた男達をぼろぼろになるまで攻撃し、その内の一人で明るい茶髪の男の胸ぐらを京介が掴み上げた。

「奈良崎、俺に歯向かってただですむと思うなよ?」

京介は凶悪な表情でそう言うと転がっていた男達にも視線をやる。

「山口、斎藤、鈴木、田中、会田。お前等、学園に強制送還のち寮内で謹慎処分だ。詳しい処罰は俺が学園に帰ってから決めてやる」

不遜に言い放った京介は傍観していた静と、おろおろしていた明に指示を出す。

「風紀と宗太に連絡して処理してもらえ」

「了解」

「わかった」

明が携帯を取り出して自分以外の風紀メンバーに連絡する。

静も携帯片手に、転がっている男達を袋から取り出した紐で縛りあげていく。

「もしかしてお前、生徒全員の顔と名前把握してんのか?」

圭志は暴れて汚れた服を叩きながら言う。

「まぁな。覚えといた方が何かと便利だし」

奈良崎を気絶させて放すと、京介は足で静の方へ転がす。

「はっ、お前敵多そうだもんな」

「そうなんだよ。京介って彼氏持ちの可愛い子にまで手ぇ出す見境無い奴だからその彼氏に恨まれてんの」

男達を一通り縛り上げた静は二人の会話に割って入る。

「皆すぐ来るって」

通話を終えた明も会話に加わる。


「俺はあいつ等が抱いてくれって言うから抱いてやってんだ。それに、俺のトコに来るって事はその相手に引き止めるだけのものが無かったってことだろ」

京介は悪びれもせず偉そうに言う。

「まっ、そうだな。俺はそれでも彼氏持ちは抱かないけど」

京介の言葉にそう返した圭志は静にあれ?と不思議そうな顔をされた。

「黒月ってそういうの気にするタイプだったのか?俺はてっきり京介と同じで誰でもいいのかと…」

「んなわけねぇだろ。俺をこんな獣と一緒にすんな」

じろりと静は圭志に睨まれた。

静の隣にいた明は話についていけず、いやついていきたくないのかも知れないが黙っていた。

「俺が獣だっていうならお前を今夜、ベットの中で指一本動かせない状態にしてやるぜ」

京介は意図的に声を低くし、圭志の耳をぺろりとひと舐めして甘い言葉をつむぐ。

「〜〜っ」

弱点を攻められた圭志はぴくんと肩を跳ねさせるが意地でも声は出すまいと唇を噛み締めた。

「くくっ、今夜が楽しみだな」

「いいねぇ、京介は。俺も明と遊びたいな」

静は嘘臭いほど爽やかな笑みを明に向ける。

会話には参加しなかった明だが、しっかり内容は聞こえていたため静の遊びが何を指すのか瞬時に理解して怒鳴り返した。

「馬鹿言ってんじゃねぇ!!誰が遊ぶか!!!」


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