09


「ちっ、邪魔な奴が来た」

京介は視界に捉えたその姿にトリガーに掛けていた指に力が入ったが、向こうが自分達を探していた様なので銃を降ろして指を離した。

「佐久間と明か?」

木に背を預ける形で後ろを振り返れない圭志は自分の背後に視線を向けている京介に確認する。

「そうだ。邪魔が入ったな」

「入らなくても俺はヤらせなかったけどな」

「おっ、いた。京介!」

静が京介に気付き、明を引きずるようにして近付いてきた。

そして二人の立ち位置を見て、表情がにやにやしたものに変わる。

「もしかして俺達お邪魔だったかな?」

「うわっ!?二人とも何してたんだよ!?」

明は顔を真っ赤にさせて言う。

それはそうだろう。京介の足が圭志の足の間にあり、体は密着したままで傍目にはアレな体勢に見えた。

「そう思うなら素通りしろ」

圭志から体を離して京介は静に言う。

「いやいや覗き見ぐらいはさせろよ」

「「今すぐ失せろ」」

静の発言に京介と圭志は同時に言い放った。

「あれれ?何か二人とも機嫌悪くね?京介は分かるとして、黒月も。あっ、もしかして黒月もヤりたかったとか?」

ふざけたことを言う静に圭志は無言で蹴りをくり出した。

くりだされた強烈な蹴りを避けながらなおも静はへらへらと喋り続ける。

「いや、でも食堂でいちゃついてたみたいだし、もうすでに京介にヤられてんのか?」

「…今すぐ死ね」

圭志は速水属性の静にやつあたりの意味も込めて攻撃する。

「静も黒月もこんなことしてる場合じゃないだろ〜!!」

静から離れられない明が、顔の横ギリギリを通過した蹴りに青ざめながら叫んだ。

「圭志、その辺で止めとけ。こいつを殺った所で意味は無い」

暴れる圭志の腰を引き寄せて京介も止めに入った。

「ちっ…」

「それで、何しに来た?」

「宗太から京介達が黒いカプセルを集めてるって聞いて持って来てあげたんだよ」

静は明に視線を向けると、明はそれに頷いて肩に掛けていた袋から黒いカプセルを五つ取り出した。

「くれんのか?」

腰から京介の手を外し、圭志は静を見る。

「もちろん。そのためにお前等を捜してたんだから」

静は僅かに目を細めて圭志に頷くと、次いで京介に視線をやり薄く微笑む。

その笑みに京介もフッと小さく返すと、口を開いた。

「これでお前のモノは全部だな」

「そうなのか?」

「あぁ、間違い無い。俺達が用意したんだからな」

明から全てのカプセルを受け取り、圭志は開けて中を確認する。


カプセルの中には写真が二枚入っていた。

一枚目は圭志が私服姿で寮内を歩いている普通の写真。

二枚目は食堂での京介とのキスシーンの写真だった。

「いつ撮ったんだこんなもの」

圭志は眉間に皺を寄せその写真をびりっ、と縦に裂くと細かく千切ってその場に捨てた。

「あ〜ぁ、折角俺が綺麗に撮ったのに」

ひらひらと地面に落ちる紙片を眺めながら静が残念がる。

その横で明が静をたしなめるよう袖を引く。

圭志は静を無視して他のカプセルを開けた。

命令券、食事券、キス券、白紙…。

「京介、これは?」

白紙の紙を京介に見せて聞く。

「自由券と同じだ」

「二枚もいらねぇだろ」

出したものをもう一度しまうと袋に入れた。

「そうそう、黒月にコレもやるよ」

静はポケットから白と金色のカプセルを圭志に投げてよこす。

そのうち金色のカプセルを京介がキャッチして圭志の手に渡る前に静に投げ返した。

「おいっ、何投げ返してんだ」

「いらねぇだろあんなもん」

「お前は知ってても俺は中身知らねぇんだよ」

白いカプセルを京介に押し付けて圭志は金色のカプセルを手にする。


中を見るとそこにはまたしても写真が…。

ぴらりと裏返すと意外な人物が写っていた。

それは、何処かの一室で、2-Sの担任である藍人と竜哉が何やら真剣に話し合っている様子だった。

「……理事長?」

「そっ、俺が偶然見かけて撮ったやつ。この二人何か怪しいだろ?」

静が質の悪い笑みを浮かべて言う。

「はっ、くだらねぇ」

それを京介は吐き捨てるように言って圭志の手から写真を奪うとくしゃくしゃにしてしまった。

「何すんだよ」

非難の声を上げた圭志に京介はフンと鼻を鳴らして無視すると、今まで黙っていた明が口を開いた。

「そ、それよりさ、その白い方は何が入ってるんだ?」

雰囲気が悪くなる前に明が慌てて話を反らす。

そして、皆の視線は京介が手にしている白いカプセルに移った。

「これか?これは…」

京介が自分のものが入っているカプセルを開けて、中から紙を取り出して、見せた。

「会長の仕事助手(一日)?」

「と、写真が一枚」

「誰がんなの喜ぶんだ。用は雑用だろ」

写真一枚とこの紙を受け取った人物の労力を考えてもあまり良い条件とは言えない。

だが、京介の側に一日とはいえ一緒に居られるなら雑用だろうが何でもやる生徒は大勢いるのだろう。

そこまで思って圭志はこの紙を書いたであろう、いや確実に書いた人物、宗太の苦労が少し分かった気がした。


明も圭志と同じことを思ったのか、ため息交じりにぽつりと溢した。

「苦労してんだな…」

誰がとは言わなかったが圭志には分かった。

しかし、当の本人と明の横にいた人物は怪訝そうな顔をしただけで圭志は自覚ねぇのか、と言ってやりたくなったが面倒くさくなりそうだったので心の中で呟やくに止めた。

「そういえば黒月、自分の集めてどうするんだ?」

明が表情を一転させて、なぜか不思議そうな顔をして圭志に聞いた。

「自分のものにするに決まってんだろ。変な奴に渡るよりその方が安心だしな。っても、一つは夏樹にあげたけど」

「夏樹?…あぁ、高原か。じゃぁ、透にも会ったのか」

「あぁ。んで、俺が自分のもん集めんのに何か問題でもあんのか?」

「え?黒月、知ら…」

明の言葉が不自然に途切れる。

「明?」

それを不審に思い圭志は尋ね返すが、明はやっぱ何でもないと若干青ざめて首を横に振った。

そこへ京介が口を挟む。

「あと少しで終了だ。俺達はもう戻るがお前等はどうすんだ?」

「そうだな、明どうする?」

「……戻る」

心なし引き吊った顔で静に返答する明は視線を圭志達から外して言った。

「じゃ、一緒に戻るか」

静は明の手をとって、来た道を戻り始めた。


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