08


京介は最後に圭志の口端から伝い落ちた唾液をぺろりと舐めとり、唇を離した。

それにやりすぎだ、と文句を言いたかった圭志だが、力の抜けきった状態の今はくたりと京介に体を預けたまま息を整えることしかできなかった。

「これで納得したか?」

京介は自分にもたれかかる圭志が抵抗できないのを良いことに、その腰に左手を回して河合を見やる。

「…っ、はい」

恥ずかしさのあまり京介を直視できない河合は地面に視線を落として頷く。

「分かったならそのカプセルを渡せ。それから、今後圭志には手ぇだすな」

「…はい」

河合は自分の勘違いだったんだとうなだれて、京介に黒いカプセルを手渡した。

そんな河合に、一応クラスメイトである情けか京介は夏樹に渡された緑のカプセルを投げる。

「河合、代わりにこれやるから好きに使え」

渡された河合はそんな京介の行動に驚いた。

「河合先輩、もらっといたら?わざわざ会長様がくれるってんだから」

「…うん」

緑のカプセルを大事そうにポケットにしまう河合を横目に、一夜は京介に抱き締められている圭志に言う。

「黒月先輩って攻めかと思ったら受けだったんスね?意外だなぁ。しかも結構色っぽい顔しちゃって…。今度俺の相手もして下さいね?」

「ふざけんな…」

圭志は京介の腕の中からふらりと身を起こすと一夜を睨みつけた。


一夜の言葉に圭志のみならず河合も反論する。

「何言ってんの、一夜君!?黒月は京介様のだって!!」

「俺、人のモノでも気にしないし」

一夜はにっこり笑って圭志と京介の方を見る。

「ちょっと!!」

それに慌てたのはやはり河合で、一夜の服を引っ張って抗議する。

「だってあの来るもの拒まず去るもの追わずの会長様が執着してる人だよ?気になるじゃんか。それに、あぁ言う強気美人は組み伏せて鳴かせてみたいなぁ」

圭志を見る一夜の瞳に妖しい色が灯る。

そんな視線を真っ向から受け止めた圭志は嫌悪の表情を浮かべ、吐き捨てる。

「誰がてめぇなんかに抱かれるかよ」

「会長様には抱かせるのに?」

一夜は暗に圭志の首筋に残されていたキスマークを指して言う。

「あれは…」

違う、と否定しようとした圭志の言葉に京介の言葉が被さる。

「そうゆうコト。こいつを抱いていいのは俺だけだ」

「何勝手な事言ってんだ京介!!」

怒鳴る圭志を無視して京介は一夜を冷ややかな目で見据えた。

「速水。俺のモノに手ぇ出してみろ、学園に居られなくしてやるぜ」

しかし、一夜は京介の射る様な鋭い視線に怯えるでもなく肩を竦めるとおどけた仕草で返す。

「おぉ、怖い怖い。じゃぁ、会長様の居ない時にでも遊びましょうね黒月先輩」

一夜は本気か冗談か分からないことを告げて、河合とこの場から去って行った。

「京介…誰がお前に抱かれたって?」

「いずれそうなるんだ、別にいいだろ」

至近距離から圭志に睨みつけられても京介は気にもせずしれっと答えた。

その上、今だ圭志の腰に回されていた左手が妖しく動き始める。

尾骨にそって徐々に下に下がり、臀部で止まるとズボンの上から割れ目の辺りを中指でなぞり押し上げる。

「〜〜っ」

先程のキスで仄かな熱を灯され、敏感になっていた圭志はぞくりと体を震わせて、とっさに右手で京介の手を掴んだ。

「や、めろっ」

「くくっ、感じたか?」

京介は目を細めて、顔を歪ませた圭志を見る。

「誰が感じるかっ」

「そうか?俺はこのままヤってもいんだぜ?」

強気な姿勢を崩さない圭志に対し、京介はにやりと楽しげに口端を吊り上げた。

「…何で俺を抱こうとする?学園には可愛い奴らがいんだろ」

「まぁ、いるな。でも俺が何をしてでも欲しいと思ったのはお前が初めてだぜ」

「だから、何で俺なんだよ」

「初めて会った時にも言ったよな。その意思の強い瞳、誰にも屈さない態度。崩してみたくなった。それに…」

京介は圭志の耳元に唇を寄せるとぺろりと耳朶を舐めて口に含む。

「〜〜っ」

ぴくりと圭志が反応して掴んでいた右手に力が篭った。

「お前、耳弱いんだな」

「…っあ、ばか…やめっ」

口に含んだまま喋り続ける京介に圭志は掴んだままの左手をぎりぎりと握り締める。


しかし、京介は痛みに顔を顰める事もなく口を開く。

「それに、お前はアイツに似てる…」

「だっ…たら、そいつにやればいい…だろ!!」

(俺はそいつの身代わりじゃねぇ)

圭志はそういって京介の足を思いっ切り踏みつける。

「っ、相変わらず過激だな」

踏まれる直前に避けた京介はそれでも圭志から手を放すことは無かった。

「でも、そんな所も似てて俺好みだ」

「何だそいつにも嫌われてんのか?」

京介の意外な言葉に圭志は思わず聞き返してしまった。

「さぁ?初対面でキスしたら頬に強烈な平手打ち食らったぐらいだ」

「……お前最低だな」

(絶対嫌われてんだろ、それ)

「フン、なんとでもいえ。それより今は自分の心配をしたらどうだ?」

京介は圭志を手近な木に押し付けると足を封じて、再び顔を近付ける。

「くっ、冗談じゃねぇ」

あくまでも抵抗する圭志は京介に頭突きを食らわせようとした。

だが、そこで背後から人が近付いて来る足音が聞こえ圭志は動きを止めた。

京介もそれに気付き圭志から手を放すと、圭志の肩越しに銃を構えた。

「たしかこの辺にいるって聞いたんだけどいないねぇ」

「ちょっ、もうちょっとゆっくり歩けよ。腕が痛い」

「だから手を繋ごうって言っただろ」

「絶対嫌だ。お前変なことすんだろ!!」

「だから変な事って?」

聞き覚えのある声と言い合いに二人は警戒を解いた。




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