06


暫く進むと、開けた場所に出た。

と、そこに休憩している二人組の後ろ姿を見つけた。

「あれは…」

銃口を向けた京介を制止して圭志が前に出て静かに近付く。

近付いたことで京介もそれが誰だか気付き、警戒を解いた。

そして圭志がその二人組の片方に話しかける。

「透。お前こんな目立つ所にいたらやられるぜ」

「うわっ!?圭ちゃん!!」

「圭志先輩!?」

圭志の声に二人が驚いて振り返った。

片方は知っての通り明の幼馴染みの透だった。

しかし、もう片方の黒髪に色素の薄い灰色の瞳の小柄な少年は見たことがなかった。

圭志が名前を聞こうと口を開きかけたがそれは京介によって遮られる。

「三澄のパートナーは高原か」

圭志と一緒にいる京介に気付き、高原と呼ばれた少年が京介に軽く会釈をする。

「京介先輩、お久しぶりです」

「圭ちゃん、紹介するね。この子が僕のパートナーで一年生の高原 夏樹(タカハラ ナツキ)君」

透の紹介に夏樹は圭志を見上げてにっこり笑う。

「初めまして圭志先輩!!僕、透先輩から先輩の事聞いて一度会ってみたかったんです!!実際こんな間近で会えるなんて嬉しいです!」

純粋な想いを寄せてくる夏樹に圭志はフッと笑みを見せると先程回収したカプセルを袋から取り出し夏樹に渡す。

「これはお前にやる。まっ、これが無くてもいつでもデートしてやるけどな」

「えぇっ、いいんですか!?ありがとうこざいます!!」

「あ〜っ!!夏樹だけずるい〜。圭ちゃん僕にはないの?」

「お前とはいつだって会えるだろ?」

ブーブー文句を言う透の言葉を圭志は聞き流す。


「それよりお前ら、それと同じ黒いカプセル持ってるか?」

「もしくは誰かが持ってるのを見たとかねぇか?」

圭志が夏樹に渡したカプセルを指して聞くと京介もその言葉を補足するように言う。

二人はう〜んと首を傾げ、同時にあっ!と声を上げた。

「「河合 充が一つ持ってた!!」」

「河合?どっかで聞いた名前だな…」

聞き覚えのある名前に圭志が首を傾げると、横に立つ京介が意味ありげに呟く。

「明の親衛隊長だ。そんな奴がお前のカプセル持ってるとはよほどのモノが入ってるんじゃねぇか?」

「あぁ、あいつか。確かそんな名前だったな…」

「圭ちゃん、河合のとこ行くなら気を付けてね。たしか河合と一緒にいたの速水(ハヤミ)だから」

「速水?」

圭志は今度こそ知らない名前に聞き返す。

と、それに答えたのは京介だった。

「速水 一夜(ハヤミ イチヤ)。今年高等部に上がった、中等部からの問題児だ」

「何でまたそんな奴が河合と組むんだ?」

「さぁな。ただ分かってる事は速水が静と同じで楽しいことが大好きな気分屋だってことだ」

たち悪ぃ、と圭志が静を思い浮かべて吐き捨てると、透も明の事を思い浮かべて苦笑する。

「じゃさっさと河合を探しに行くぞ」

京介が圭志にそう促すと、何か思い付いた夏樹が慌てて袋に手を突っ込む。

「あの、京介先輩!!よければこれ持ってって下さい」

そう言って緑のカプセルを渡された。

京介はカプセルを受け取り、中を確認するとにやりと質の悪い笑みを浮かべた。

「サンキュ、夏樹」







二人と別れた後、圭志は先程夏樹に貰ったカプセルに何が入っていたのか京介に聞く。

「命令券だ。明に一つ言うことを聞かせることができる。ただし一日だけな」

「そんなもんまであるのかよ。まるっきり人権無視だな」

「それもゲームの一貫だ。……それよりもいたぞ、河合と速水だ」

京介は数メートル先に佇む二人を見つけ木の陰に隠れて指差す。

圭志も京介の指差す方向をじっと凝視する。

色素の薄い茶髪が辺りをきょろきょろと見回している。

その横に立つ派手な赤髪が問題児の速水 一夜であろう。背は河合より高く宗太と同じぐらいある。

こちらはただ一点を見据えている。

そして一夜が河合に耳にうちして見据えていた方向を指差す。

河合はそれに頷くとペイント銃片手に草むらに入り、一発打ち込んだ。

ベチャという音と悲鳴が同時に圭志達の元まで届いた。

「速水は指示を出すだけみたいだな。…京介、先にあれをどうにかできねぇか」

圭志は河合が所持している銃に視線を向けたまま言う。

「やっと俺を名前で呼んだな」

だが、京介は全く違うことを、間近にある圭志の耳元で囁くように言った。

「あぁ?んなこと今はどうでもいんだよ。できるのか、できないのかどっちだって聞いてんだ」

「できないことはないぜ」

京介はただし、と付け加えて言う。


圭志はその内容を聞いて嫌な顔をしたが、河合が何の券を持っているのか分からないため渋々頷いた。

「河合に理不尽な命令されるよりはいいだろ?」

「どっちにしろ俺にとっては良くねぇ」

なんで俺がこんなことでお前にキスしなきゃなんねぇんだ、と圭志は不機嫌な顔をして文句を垂れる。

「恨むんならお前に銃の腕がないのと河合がカプセルを手に入れたことを恨め」

京介は逆に機嫌を良くして圭志の横で銃を構える。

照準を河合の持つペイント銃に合わせて引金を引く。

銃から発射されたペイント弾は狙いをたがわず河合の持つ銃に着弾すると銃は赤く染まり使い物にならなくなった。

圭志達に背を向ける形で立っていた二人は背後からの強襲に慌てて振り返る。

そして数メートル先の木陰から姿を現した二人を見て目を見開いた。

「黒月!!」

「これはこれは、会長様と噂の黒月先輩」

片方は圭志に敵意を向けて、もう片方は楽しげに肩を揺らして言った。


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