おまけ


理事長室へと呼ばれた藍人は竜哉から直接数枚の書類を手渡される。

「これは?」

理事長席から立ち上がりながら竜哉は藍人に柔らかく微笑みかけた。

「今度編入してくる生徒の資料。藍人のクラスに入ることになったから」

宜しくと、ソファに移動して座った竜哉の後を追いその隣に腰かけた藍人は手渡された資料に目を通し始める。
編入生の名前を見て藍人は眉を寄せた。

「黒月 圭志…?」

「そう。圭志くんは京介くんと同じ、俺の可愛い甥っ子だよ」

「可愛いって…お前。神城の何処が可愛いんだ?アレはどう見ても生意気の部類だろ。まぁ容姿は整ってて格好良いだろうが」

難しい顔をした藍人にそれでも竜哉はにっこりと笑う。

「俺の予想では二人を会わせたら何か起こるかもしれない」

「何かってな…」

「だから頼りにしてる、藍人」

「……お前、去年もそう言って俺を神城のクラスの担任にしただろ」

ぱさりと手にしていた資料を机の上に投げ、藍人は隣で微笑む竜哉に体ごと向き合う。

「そうだったか?」

とぼけているのか、本気で覚えていないのか首を傾げた竜哉に藍人は瞳を細めた。

「頼りにされるのは嬉しいがそれだけじゃ割りに合わないぞ。…竜哉」

「な…っン…!」

素早く竜哉の背に腕を回し抱き寄せると、後頭部に右手を挿し込み藍人は竜哉の唇を塞いだ。

「ふっ…ぁ…」

ぴちゃりとわざと水音を立てて、共に重ねた夜を彷彿とさせる濃厚な口付けを竜哉に送る。

「…ンッ…ぅ…」

奥へと逃げようとした舌を絡めとり、口内を優しく愛撫すれば竜哉の鼻から甘く抜けるような息が漏れる。

「ン…藍…ッ…」

藍人に向かって伸ばされた指先がダークブラウンの髪に絡み、藍人はくんっと軽く髪の毛を引かれた。
弱々しいその抵抗に満足したのか藍人は凭れてきた竜哉の体を抱き止め唇を離した。

「はっ…っ、お前、な…」

「文句なら聞かないぜ」

「こういうのは夜だけにしてくれ」

ゆっくりと藍人に凭れていた身を起こした竜哉は少しズレたことを言う。
そんな竜哉に慣れているのか藍人は愛しい者を見る眼差しで返す。

「夜なら良いのか?」

「今日の仕事は昼までだ」

「じゃぁ、今夜は久し振りに外泊にするか。お前の気に入りそうな店、予約取っておく」

「無理はしなくていいからな」

夜の気配を綺麗に払拭し、触れるだけ軽い口付けを交わす。

「してねぇよ。今夜部屋に迎えに行く」

「あぁ…楽しみにしてる」

机の上に放り出された資料を再び手に取り、藍人は竜哉の頼みを受け入れた。

「どっちにしろ先に惚れた方が負けっていうしな」

「藍人?」

「何でもない。…これから大変になるな」

そう呟いた藍人に竜哉は身を預け、小さく笑った。

(本当に、お前は頼りになる最高に良い男だよ…)


おまけ end.


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