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異様な雰囲気に陥っている食堂内の空気を吹き飛ばすように、入り口の方からさわぎの中心になっている2人に声がかかる。

「はい、そこの2人ストーップ!!それ以上先はここじゃぁヤバイよ。まぁ、君達にそういう趣味があるなら止めないけど」

その声に圭志達を見ていた皆が食堂の入り口を振り返る。

そこには、生徒会のしるしである黒に金のラインのネクタイを絞めた、青みがかった黒髪の男が立っていた。

ノンフレームの眼鏡の奥の瞳は、圭志達を捉えると楽しそうに細められ、口元は笑みの形に吊り上がった。

「きゃ〜、佐久間さんだ!」

「会長と副会長が揃って見られるなんて…」

男は生徒達ににっこり笑って手を振りながら食堂の奥に向かって歩き始める。

「誰だ、あの胡散臭い笑み振り撒いてる奴?」

男の登場でやる気を削がれた圭志は胡乱気な目で男を見やる。

同じように邪魔が入って不機嫌になった神城も自分達の方に向かって歩いてくる男に視線をやる。

「アイツは佐久間 静(サクマ セイ)。生徒会副会長だ」

静は2人の前まで来ると立ち止まり、まず圭志に向かって口を開く。

「お前が京介の言っていた編入生の黒月か」

「京介?」

圭志は初めて耳にした名前に首を傾げる。

あれ?という顔で静は視線を神城に移した。

「俺だ。そう言えばまだ名乗ってなかったな」

今頃気付いたとばかりに神城こと神城 京介(カミシロ キョウスケ)は圭志に自分の名前を告げる。

「それから俺のことは京介って呼べ。いいな?」

口を開きかけた圭志を無視して京介は静に話しかける。

「で、お前は何しに来た?」

「京介を呼びにだよ。生徒会室前の廊下で宗太に捕まって、京介を縄で縛ってでも連れて来いってさ。じゃないと俺に被害がくる。何したんだか知らないけどあれは相当怒ってたな」

「チッ、面倒くせぇ」

京介は舌打ちすると小さく吐き捨てる。

そんな京介にやれやれと肩を竦めると静は圭志の後ろ、椅子に座ったまま赤くなって固まっている明に気付いて口元に笑みを浮かべた。

「こんな所にいたのか、明」

圭志と京介の間を通り抜けて静は明の横に立つ。

2人は何気無く静を目で追い、静が何をしたいのか見守った。

透もその横に座っていたが静が来たのに気付くと、椅子から立ち上がって数歩テーブルから離れた。


静は明に顔を近付けて囁くように言う。

「お前、俺にはキスさせてくれないくせに黒月にはさせたんだって?しかも聞いた話じゃファーストキスだったとか」

明は静に間近から顔を覗きこまれて椅子ごと後ずさると、顔を左右に激しく振る。

「違う!!させたんじゃない、されたんだ!!」

明の慌てぶりに静はクスクスと笑う。

「知ってる。俺が本人の口から聞きたかっただけだ」

静はそれだけ確認すると明から離れ、京介の元へ足を向ける。

「お前、本当はその確認のためだけに来たんだろ?」

「まぁね。京介の件はついでかな」

先程とは逆に京介がやっぱりな、と肩を竦める。

「それはそうと京介の用はすんだのか?」

「あぁ、そうだった」

静の言葉に、京介は本来ここに来た用事をすませることにした。

「圭志」

「何だよ?」

急に自分の名前を呼ばれて圭志はぶっきらぼうに返す。

「お前を一週間後に行われる交流会の俺のパートナーに指名する。もちろんお前に拒否権は無い。詳しい内容が知りたければ明に聞くか生徒会室まで来い。わかったな」

京介は偉そうに一方的にそう言うと、圭志の返事も待たずに背を向けて歩き出す。


「は?何勝手に決めてんだよ!?待て、おいっ!!」

圭志は意味が分からないながらも、言うだけ言って去って行こうとする京介の背に文句の言葉を投げつける。

しかし、京介は圭志に見向きもせずに食堂から出て行ってしまった。

後に残された静も京介を追う様にして食堂を出て行こうとしたが、食堂の入り口で一度立ち止まると圭志達の方を振り返る。

「そうそう、言い忘れてたけど明。黒月としたキスはファーストキスじゃないから安心しろよ。ずっと前に俺が貰っておいたから。じゃぁな」

静はそれだけ言うと右手をひらひら振って今度こそ食堂を出て行った。






あの後、悲鳴やらなんやらが飛び交う食堂から抜け出した圭志と明は寮の圭志の部屋に来ていた。

透とは午後の授業があるからと途中で別れた。

そして、午後の授業をサボった圭志と無理矢理サボらさせられた明は現在テーブルを挟んで向かい合う形で座っていた。

「で?一週間後の交流会って具体的に何だ?」

(大勢の生徒がいる中でわざわざ俺を指名してきたんだ。絶対何か裏がある…)

圭志は正面に座る明に剣呑な眼差しを向けて問う。

「…あの、さ。その前に俺を睨むの止めてくれないか?」

明はそう言って居心地悪そうに身じろいだ。


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