明くんのお仕事(静×明、京介×圭志)


明の仕事=風紀副委員長の務め。
その中に、明のもっとも苦手とする仕事が一つある。
それは…風紀を乱す輩の取り締まりである。

風紀強化月間に入り、明は放課後の校舎内を一人トボトボと歩く。
他、顔の知られていない役員は二人一組でそれとなく見回りだ。

「委員長がいれば俺一人で見回らなくて済むのに…」

はぁと明は憂鬱そうに呟き溜め息を落とした。

ぼやいた所でどうにもならない現状に、明は自分を奮い立たせ、チェックポイントである空き教室の扉に手をかけた。

ガラリ、

「…異常なし」

ホッと胸を撫で下ろし、開いた扉を閉める。

そうして次々と確認していき、自分の受け持つ階も残すところ僅かになった明は少しだけ浮上した気分で目の前の扉を開けた。

ガラリ、

「……ん…ゃ…」

「嫌って割りにはコッチは喜んでるぜぇ」

「ひっ…ゃだ…ゃ…」

「そうそう、抵抗しなきゃ俺等が気持ちよーくしてやるよ」

とうとう遭遇してしまった。

「〜〜っ」

明は顔を真っ赤に染めて固まる。後ずさった足がドアにぶつかり、音を立てた。

「誰だ!…って、副委員長じゃ〜ん。ラッキー!混ぜてやるよ」

少年を床に押さえつけていた男が立ち上がり、明の方へやってくる。

「…お、お、お前等何してるんだ!犯罪だぞ!」

それでも明は何とか上擦った声でそう言った。

「ははっ、噂通り可愛いねぇ副委員長さんは」

しかし、男達は笑うだけで止めようともしない。
明の目の前で立ち止まった男は、明の腕を掴むと強引に中に引っ張り込もうとする。

「ちょっ…!」

「来いよ。一緒に可愛がってやる」

「へぇ…何やってんのかな、明くん?」

しかし、それは新たに現れた人物の登場で遮られる。
後ろから明の肩を抱くように現れたのは静だった。
その声に、明はばっと振り向き、静の顔を見たとたん安心したように息を吐いた。

「静…」

いつもは何だかんだと言っているが、いざという時、静が頼りになるのを明は知っていた。
静は明の腕を掴んでいる男を不快そうな眼差しで見やり、肩に回していた手とは逆の手で素早く叩き落とす。

「俺の可愛い明くんに汚い手で触るな。そっちの連中も汚いもん見せてんじゃねぇよ。さっさと失せろ」

完全に静に抱き込まれ、視界を塞がれる。

「うわっ!ちょっ…離せよ静!」

顔を赤くしたまま、じたばたと腕の中で暴れる明に静は口元を緩め、目の前に立つ男と奥で犯罪紛いの行為をしている奴等には厳しい視線を向ける。
声には出さないがその目がさっさと消えろと告げていた。

視界を塞がれた明の耳がバタバタと慌ただしい複数の足音を拾い、遠ざかっていく。

「まったく、お前はあぶなっかしくて見てらんねぇな」

パッと解かれた拘束、教室の中を見渡せば、いつの間にか誰もいなくなっていた。

「…あ。クラスと名前確認するの忘れた!どうするんだよ静!」

「その前に言うことがあるよな明」

間近でにっこりと見下ろされ、明は思わず一歩後ずさる。

「うっ…、あ、ありがと」

「どういたしまして。…それで、アイツ等のクラスと名前だな。それなら俺が覚えてる」

「え!?」

パッと明の顔が輝く。
単純というか素直というか、分かりやすい明の態度に静はクスリと笑った。
そして然り気無く明を誘導する。

「教えてやるから一度風紀室に戻ろうぜ。どうせ調書も作るんだろ」

「うん。でもまだ見回ってない教室が…」

迷う明に静は携帯電話を取り出し何処かへと電話をかける。
短いやりとりの後、静はパチンと携帯を閉じて行くぞと言った。

「だからまだ…」

「他の奴に頼んでおいた。それよりあまりここでごねてると忘れるかも」

眼鏡の奥の瞳が愉しげに細められる。

「それは…困る。…分かった、早く戻ろう」

静の言葉を真に受けた明はぐいぐいと静の背中を押して歩き出させる。

「どうせならこっちにしろよ明」

パシッと背を押していた手をとり、静は上機嫌で先を歩き始める。

「〜っ、普通に歩くのに手を繋ぐ必要ないだろ!」

「明は俺に逃げられてもいいんだな?なら、離すけど」

「それは…」

うんうんと明が羞恥と義務の間で葛藤している間、静は愉しげにその様子を見つめていた。






おまけ(京介×圭志)

「最近、佐久間の奴生徒会室に顔出さないけどいいのか?よく渡良瀬が文句言わねぇな」

そう言って圭志は隣に座る京介の右手をとる。

「あぁ、アレだろ。風紀が強化月間に入ったから校舎内彷徨いてんだろ」

京介はとられた右手の行く先を目で追いながら口を開く。

「意外と過保護だな。だから渡良瀬が何も言わないワケだ」

京介の右手の人差し指に唇を押しあて、ちろりと舌先で触れた。

「…っ!そう言うことだ」

「痛いか?ちょっと血が滲んでるな。紙って意外と殺傷力あるんだよな」

圭志の視線は京介の右手人差し指からテーブルの上へにある書類へと移動した。

「…コホン。それよりいちゃつくなら生徒会室から出て行って下さい」

わざとらしい咳に、そちらを向けば宗太が椅子から立ち上がっている。

「せ、先輩。僕は別に…」

その後ろで皐月がほんのり頬を赤く染め、困ったように宗太の制服の袖を引いていた。

「いいえ、皐月が気にせずとも…はっきり言って私の気が散ります」

宗太に睨まれ、圭志は京介の右手を離すと肩を竦める。

「京介、俺そろそろ…」

「少し待ってろ。こんなのすぐ片付けてやる」

だったら始めからそうして下さいと宗太は文句を口にして、皐月の頭を優しく撫でてから椅子に座り直した。


end.


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