その時、明くんは…?(静×明)

九琉学園
第三章 14以降のサイドストーリー(静×明)


保健室から静に肩を抱かれるようにして退出した明は校舎内にある風紀室にいた。
ソファに足を組んで座る静の前に紅茶を出し、明は室内をうろうろと歩き回る。
十分も前に室内の片隅に設置されている放送用機材で速水の呼び出しをかけたのだが…。

「……来ない」

「少しは落ち着けよ」

涼しげな顔でカップを傾ける静にチラッと視線をやって明はすぐに視線を反らした。

「………」

実は明が落ち着かない理由は他にもあった。
何と言ってもこの部屋には今、明と静の二人しかいない。
咄嗟だったとはいえ何であの時俺は静に助けを求めたんだろう?
しかも今思えば顔から火が出そうなぐらい情けない声で。ううっ…。
別に何があるってわけじゃないど、早く来てくれ速水!と、明は思っていた。

しかし、三十分過ぎても一夜は一向に現れない。

「もしかして校内にいねぇのかもな」

二杯目の紅茶を飲み干した静がのんびりとした口調でそう言う。

「え?それじゃぁ寮の方に行かないと」

そわそわと落ち着かない心を持て余した明は静の使っていた茶器を手早く片付け、ソファの側に戻ってくる。

「なぁ、明」

「な、なに?早く寮に行かないと…」

ソファに座ったままの静に腕を掴まれ、明の動きが止まる。その後、流れる様な動作で掴まれた腕を強く引かれ、明はバランスを崩して静の上に倒れ込んだ。

「うわぁ!!」

「何をそんなに焦ってるんだ?俺といるのがそんなに嫌か?」

そして、耳元で吐息と共に言葉が吹き込まれる。

「べべべ別に二人きりだから落ち着かないとか思ってないからなっ!分かったら離せっ!!」

耳にかかる吐息が擽ったくて、いやそれ以上に恥ずかしくて明は目が回りそうになった。
自分が何を口走っているかさえも良く分からない。

明の返事に眼鏡の奥の瞳を細めた静は唇に満足気に弧を描く。

「へぇ、俺を意識してくれてんのか」

「そんなこといいから早く離せよっ!!」

ガッチリと掴まれた己の腕に、知らぬ間に背に回された静の腕。
思わぬぐらい至近距離にある静の整った顔立ちに明は顔を赤くしてバタバタと暴れる。

「黒月には悪いが嬉しい誤算だ」

ふっと小さく呟いた静は必死に逃げようとしている明の頬に唇を寄せた。
途端、明は面白いぐらいに固まる。
目を驚きに見開いて口をパクパクさせる。

「これぐらいのスキンシップで固まってたら先に進めないぜ?」

「なっ!?だ、れが…んぅ!!」

頬に押し付けた唇を僅かに横にずらし、静は明の唇を奪うように己の唇と重ねた。
一秒だか二秒だか触れた時間は短かったが明には長く感じられた。
すっと離れていく静を、明は魂が抜けたようなぽかんとした顔で見つめる。

「…ぅ…あ…」

「明?」

声をかければ虚ろだった明の焦点が間近にあった静の目とピタリと合う。

「っ!?わぁぁぁ!!!」

次の瞬間、明は叫んでいた。
すぐ側で大声を出された静は眉を寄せて一瞬怯み、明はその隙に逃げ出す。

「明、お前な…」

「おっ、おお俺に近づくな!!」

静から距離をとった明は扉に背をピッタリとつけ赤い顔に涙目で静を睨み付ける。

「耳がいてぇ…」

「そんなの自業自得だろ!バカ静っ!!俺は帰る!」

背にしていた扉を開くと明はそう言い捨てて風紀室から飛び出していった。
残された静は明の捨て台詞に呆気にとられ、バタンと扉の閉まる音で我に返り笑った。

「っは、ははははは!バカ静って、…捨て台詞にしちゃ可愛すぎるだろ明」

はぁ、久しぶりに笑った。と、よいしょとソファから立ち上がった静は飛び出していった明の代わりに風紀室の鍵をかける。

まずは一歩か。京介の方はどうなったのかねぇ?

静は保健室に置いてきたひねくれ者同士の二人を思い浮かべながら生徒会室へと足を進めた。


end.


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