一週間目の朝(京介×圭志)
薄暗い部屋に窓から光が差しこむ。
「…んっ」
それを嫌うように圭志はモソモソと動く。
「…起きたのか?」
腕の中で動き始めた圭志に京介は視線を落とすが、聞こえてくるのは規則正しい寝息だけだ。
京介はその様子にふっと柔かい笑みを溢して圭志を抱き寄せる。
薄く開いている唇にそっと触れるだけのキスを落とした。
「…んっ、…きょう…」
寝ている圭志の唇が己の名を呼ぶ。
そのことにまた愛しさを感じて京介は笑みを深くする。
「…圭」
圭志の髪に指を絡め、サラリと梳く。
それを何回か繰り返していれば圭志の瞼がピクリと震え、赤みがかった黒い瞳が瞼の下から現れる。
「ん…、ぁさ?」
眠そうに瞬きをして京介の顔をぼんやり見つめる。
「今日、出かけんだろ?」
「ん…、あぁ」
寝起きの圭志の反応は二種類ある。
不機嫌な時と、どこかぼんやりして幼い表情を見せる時。
ぼんやりしている時の圭志は大抵素直に何でも答える。例えば…
「俺のこと好きか?」
「ん、好き……、ぁ?」
意識が覚醒してきたのか圭志は途中で首を傾げる。
そこの辺りで京介はにやけそうになる顔を引き締めて圭志を起こしにかかった。
「圭志、起きろ。出かけんだろ?」
「あ…、そうだった」
次第に瞳に力強い輝きが灯る。
圭志は京介から視線を外し、起き上がろうとして身動きできないことに気付く。
「…腕、退けろ」
はっきりとした口調で告げる圭志を、京介は少し残念に思いながら圭志を腕の中から解放した。
そんな事を思っているとは知らない圭志はベットから降りるとチラリと京介を振り返り、そっけなく言う。
「おはよ、京介」
それだけ言うと圭志は寝室から出て行ってしまった。
バタンと閉められた扉の向こう側にいる圭志を想って京介は笑う。
「くくくっ、いい加減慣れろっての」
お前から落ちてきたんだぜ?
互いの気持ちが通じあって一週間。
俺への気持ちを認めたくせに今だ抵抗があるのか、そんな自身に戸惑っているのか圭志はそっけない。
それでも同じ部屋で同じ時間を過ごしている。それが何よりの証。
京介は温もりの残るシーツに触れ、自然と込み上げる笑みをそのままに扉の方を見て呟いた。
「そんなもの気にする暇もないくらいこれから嫌って程愛してやるぜ。覚悟しろよ、圭志」
その視線の先、壁一枚隔てた部屋で圭志ははやる鼓動と熱を持て余し、常ならぬ困惑した表情を浮かべていた。
end.
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