皐月(宗太×皐月+α)


放課後の生徒会室ではいつもと何ら変わることのないメンバーが黙々と仕事をこなしていた。

「京介、これにも判子をお願いします」

会長机の前に立ち、宗太は持っていた紙束を机に置く。

「それから、今から皐月と会議で使うプリントを印刷しに行ってきますがくれぐれも逃げ出さないように」

そう言うと皐月を連れて宗太は生徒会室を出ていってしまった。

「はぁ〜、相変わらず厳しいな宗太は」

沈黙を守って、二人のやり取りを見ていた静が副会長席からそう言う。

「ちっ、てめぇが捕まらなきゃ」

紙束を積まれた京介はその中から一枚紙を取り、片手に判子を持って悪態をつく。

「それより、俺まで巻き込むんじゃねぇよ」

「黒月、仕方ないよ」

そして、二人が捕まった時一緒にいた圭志と明はソファに座り書類整理を手伝わされていた。
こちらを睨んできた圭志に静はペンの後ろでコツコツと机を叩いて口を開く。

「まぁ、捕まったのはわざとなんだけど」

「「あぁ?」」

その言葉に圭志と京介が同時に反応する。
明は静が何を言おうとしたのか気付いているようで圭志の対面に座ったまま黙々と作業を続けていた。

「俺がこんな事するハメになったのはてめぇのせいか。で、何でまたンな真似したんだ」

「くだらねぇ理由だったら絞めるぞ」

じろりと二人に睨まれても静はたじろぐでもなく、軽い口調で返す。

「黒月はともかく、京介。今日は何月何日だ?」

「は?」

それが何だと言う顔をした京介に静はやれやれと首を横に振った。

「まったく、今日は五月十日で皐月ちゃんの誕生日だろ。だから今日はあの二人を早く帰してやれって言ってんだ」

そうだったかと、言われて思い出した京介と初めて知った圭志はへぇと呟いた。

「佐久間がそんな気の効いた事するとは…」

「何か裏がありそうだな」

驚く圭志と顎に手を当て思案する京介に静はフッと笑う。

「今日、宗太に恩を売っとけば数日は仕事をしなくてすむだろ?」

宗太の性格を考えた上で静はそう嘯く。
誕生日を二人きりで過ごせれば宗太もしばらくの間、何も言ってこないだろうと。

「でもさ、元々この仕事は二人がさぼったからできたものなんだよな」

明が紙の束を揃えて言う。

「それは気にしない方向で。何はともあれそういうことだ、京介、黒月」

「なるほど。そうすりゃ皐月が喜んで宗太の機嫌もよくなるってか」

「そういうことか。仕方ねぇ、誕生日に一日中仕事は皐月が可愛そうだから協力してやるよ」

結局二人は静の言い分を聞いてそう頷いた。
例えそれが相手の為ではなく、巡りに巡って自分達の為だとしても。

―ガチャリ

「ちゃんと仕事してますか、京介?」

皐月と共に戻ってきた宗太はコピーしたプリントを抱えて開口一番にそう口にした。

「あぁ?何で俺だけなんだ」

「貴方が一番さぼるからですよ。身に覚えが無いとは言わせませんよ。…あ、皐月。それはこっちに置いて下さい」

「はい。先輩これは?」

「それは私の机に」

皐月には優しく言い、宗太はコピーしてきたプリントの束を圭志達の前に置いた。

「すみませんがこれを人数分ホチキスで纏めて下さい」

そう言って宗太は自分の席に戻る。

「宗太」

紙に判子を押しながら京介はちらりと宗太を見て呼び止める。

「何ですか?」

「お前、今日はもう帰っていいぜ。皐月と一緒にな」

言われた言葉に宗太は驚き、京介に疑いの眼差しを向ける。

「何言ってるんですか?まだ仕事は終わってませんよ?」

すかさず二人の会話に静が口を挟む。

「宗太、後は俺達が片付けとくから京介の言う通り皐月ちゃんと一緒に帰ったら?」

「そうだよ。今日は俺達も手伝っとくし。な、黒月?」

パチリとホチキスで紙を留めて明も静に同意する。

「まぁ、今日ぐらい良いんじゃねぇの?こいつらがやるって言ってんだし、その方が皐月も喜ぶだろ」

皐月の方を見ればえ?と困惑した表情を浮かべ、宗太の方をじっと見つめ返す。
そんな皐月に柔らかい笑みを浮かべた宗太は…そうさせて貰いましょうかと頷いた。

「では、貴方がたの好意に甘えて今日は先に失礼させて頂きます」

「おぉ、そうしろ」

京介は紙から顔を上げぬままそう言って、宗太は戸惑う皐月を連れて一足先に帰寮した。




 

生徒会と風紀委員専用の部屋が並ぶ東寮7階。
その部屋の一室、宗太の部屋に連れてこられた皐月はソファにちょこんと座り、目の前に差し出された物にキラキラと瞳を輝かせた。

「宗太先輩すごいっ!!美味しそうです!!」

「皐月は甘い物が好きでしたよね?だからチョコレートケーキにしてみたんです」

目の前に差し出された物、それは皐月の誕生日を祝うために宗太が昨日の夜あらかじめ作って置いたチョコレートケーキだった。

「誕生日おめでとう、皐月」

ふわりと笑った宗太に皐月も満面の笑みを浮かべて返す。

「ありがとうございます、先輩。僕すっごく嬉しいです!」

ケーキを皿に取り分け、フォークを渡す。

「うわぁ、何か食べるのもったいないなぁ」

中々手を付けようとしない皐月に宗太はくすりと笑みを溢す。

「これぐらい皐月が言えば私はいつでも作ってあげますよ?」

「……っ」

顔を赤くさせた皐月は思いきって一口食べる。

「んっ、美味しい!」

へにゃりと笑い、また一口分切ってフォークに刺すと宗太の方に向けた。

「くれるんですか?」

「はいっ!先輩にもこの美味しさを味わって欲しいです」

にこにこして皐月は頷く。
それに宗太も優しく笑って、自分の作った物ですけどとは無神経な事は何も言わず、差し出されたケーキを口に含んだ。
それを交互に繰り返して食べ終えた皐月は始終満足そうにして隣に座る宗太に寄りかかる。
宗太はそんな皐月を抱え上げ、膝の上に横抱きにして座らせると皐月の額に、瞼に、鼻先に、頬にと順にキスを落とす。

「先輩…っ」

「生まれてきてくれてありがとう、皐月。愛しています」

貴方と出会えた事に、共にいられる事に、感謝と最上級の想いを込めて宗太は皐月の唇に己の唇を重ねた――。



end.


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