White day(京介×圭志)


・設定はSt.Valentine's dayの続きみたいになっています。よければSt.Valentine's dayを読んだ後に読んでもらえると更に楽しめるかも…?




その日、神城 京介は生徒会室の会長席に座り珍しく悩んでいた。

「どうするかな…」

静かな室内に京介の呟きがもれる。
その様子に室内で作業をしていた宗太が首を傾げて聞いた。

「珍しいですね、京介が悩むなんて。どうかしたんですか?」

京介はちらりと宗太に視線を向けただけで答えようとはしなかった。
そして再び室内には沈黙が落ち、紙を捲る音とペンを走らせる音だけがする。

「会長、これ終りました」

机に向かって黙々とペンを走らせていた皐月が紙の束を揃えて立ち上がり、会長机の上に乗せた。

「あぁ。それなら皐月はもう終わって良い」

「はい」

皐月は自分の席に戻ると宗太の方を見た。
宗太はそれに気付くともう少しで終わるからちょっと待ってて下さいね、と微笑んで返す。
そんな二人をなんとなく眺めていた京介はぽつりと溢した。

「お前等、相変わらず仲良いよな…」

突然京介にそんな事を言われて宗太と皐月はお互い顔を見合わせて不思議そうな顔をする。

「京介?本当にどうかしたんですか?」

「会長、もしかして黒月先輩と喧嘩でもしたんですか?」

二人はいつになく心配そうに京介を見てきたが、京介自身は二人の心配そうな視線に、俺はそんなに変か?と心の中で反論しつつ、ため息を一つ。
色の違う前髪を右手で掻き上げ、口を開いた。

「別に圭志と喧嘩なんてしてねぇよ。ただ今日はアレだろ?だからどうするかなって考えてただけだ。大したことじゃねぇ」

その言葉に京介が何を悩んでいるのかに気付いた二人は納得したように頷き合う。

「そっか。今日はホワイトデーですよね!会長も黒月先輩に何かあげるんですか?」

「さすがの京介も恋人にあげる物となると悩むんですね」

「そうじゃねぇ。何かあげる以前の問題で、何かやった方がいいのかって考えてるんだ」

「えっ!?あげないんですか!!」

京介の何もしない的な発言に皐月が驚いて声を上げると、それに賛同するように宗太からは非難の視線が京介に向けられる。

「聞いた話では先月黒月君にチョコを貰ったんでしょう?それなのに何も返さないとは…。恋人として最低ですね」

「いいだろ別に。どうしようと俺の勝手だ」

「いいや、それは駄目だろ京介。お前は先月美味しい思いをしただろ?…俺のお陰でな」

生徒会室にいなかったはずの静がいつの間にか入り口に立って口を挟んできた。
京介は静の言葉に眉を寄せると静をいぶかしげに見た。

「何でお前がそこまで知ってる?しかもお前のお陰って何だ」

「あれ?黒月に聞かなかったのか?チョコに含まれてたアレ、俺が提供してやったのに」

圭志が京介にチョコをあげたとしか知らない宗太と皐月は黙って話を聞いていた。

「あぁ、そういうことか。お前、俺達で試したな?」

「試したとは人聞きの悪い。黒月に協力してやったんだ。でも、結果的に京介も楽しめただろう?」

「まぁな、いつもじゃ見れない圭志が見れたことは確かだ」

「そうだろう、そうだろう。俺も明に…」

「とにかく、よく分かりませんが京介が黒月君にチョコを貰ったのは事実。お返しはするべきです」

話がそれていきそうになったので宗太がすかさず口を挟む。

「そうそう。たまにはそういうことして優しくしてやんなきゃ、黒月に愛想つかされるぜ」

入り口に立つ静も一転してにやにやと笑って宗太を援護する。
しかし、それに対し京介は自信満々に返した。

「それは絶対にない。アイツ、あぁ見えて俺のことすげぇ好きだから」

「会長!それなら尚更黒月先輩に何かあげた方がいいですよ!絶対喜びます!」

皐月は机に両手をついて身を乗り出すと真剣な表情で京介を見る。
三対一じゃ流石に分が悪いと思ったのか京介は席を立つと言う。

「ったく、分かった。やればいいんだろ?」

頷く三人にそれなら今日の仕事はもう終了だ、と言って解散させた。





その夜ーー

圭志がリビングのソファでテレビを見ているとガチャンと鍵の外される音がしてこの部屋の主が帰ってきた。

「よぉ、遅かったな」

圭志は顔だけ向けて帰ってきた京介を迎える。

「あぁ。ちょっと外まで行ってきたからな」

「外?一体何しに行ったんだ?」

京介はそれに答えず一度寝室に行くと、ラフな服装に着替えて戻ってくる。

「で、何しに行ったんだ?」

大抵の物は学園を出なくても手に入るはずだが、態々外に行ったという京介が気になって圭志はテレビを消すなり隣に座ってきた京介に聞いた。

「何だ?俺が外で浮気でもしてきたんじゃねぇかって心配か?」

「んなわけねぇだろ」

茶化す京介に圭志は即答する。
その言葉は以前ならそのままの意味でとっていた京介だが、恋人同士になった今は違う。
京介は圭志の真意を読み取るとくくくっ、と笑ってポケットからリボンの掛けられた四角い箱を取り出した。

「これを買いに行ってたんだ」

そう言って京介はその箱を圭志に手渡す。

「やるよ。先月のお返しだ」

圭志は手渡された箱と京介を交互に見て、不可解なものを見るような顔をする。

「お前、変なもんでも食ったか?」

「そうか、いらないなら返せ」

くしくも二人は先月と同じようなやりとりをしていたが気付くことはなく。
圭志は疑わしく思いながらもリボンを解いて箱を開けた。

すると箱の中にはメタリックブルーにホワイトの十字の線が入った指輪が一つ鎮座していた。

「京介、これ…」

圭志は思わぬ中身に呆然と呟く。

「持って良く見てみろ」

言われるがままその指輪を親指と人差指で摘まみ、自分の眼前まで持ち上げると、圭志は指輪の内側に文字が刻まれていることに気付いた。

〔I'll love you Forever from K.K〕

それを横からひょいと奪い、京介は驚きの抜けきらぬ圭志の様子など構わずに指に填めてやるから左手を出せと言ってきた。
圭志は文句も言えずに言われるがまま左手を京介に差し出せば、迷いのない指先が左手薬指にきらりと光る指輪を填める。

「これでお前は永遠に俺のものだ」

もっとも本物の宝石が付いた指輪は卒業してからになるが、京介はそう言いながらそれでも値は張っただろう指輪を填めた手を恭しく持ち上げるとその指輪にキスを落とす。
そこに京介の圭志に対する強い独占欲と執着心が垣間見えて圭志はくすりと笑みを溢した。

「京介。どうせお前の分もあるんだろ?貸せよ」

圭志は掴まれていない右手を京介に差し出す。

「何だ?お前が填めてくれんのか?」

そう言ってポケットからシンプルな箱をもう一つ取り出すと圭志の掌に乗せる。
箱の中に納められていた、同じデザインの指輪を取り出すと圭志は京介がしたように、京介の左手薬指に指輪を填めた。

「これでお前も俺のものってことだな」

圭志が視線を指輪から上げて不敵に言うと、京介は指輪を填めた手を圭志の腰に回して、生意気な言葉を吐く唇に口付ける。

「くくくっ、そうだな。この先ずっとお前は俺のもので、俺はお前のものだ。俺の一生をお前にやるんだ、先月のお返しとしては十分過ぎるだろ」

「…誤魔化されてる気もするが、仕方ねぇからあの件はこれに免じて許してやる」

自分の薬指にキラリと光る指輪を愛しげにひと撫でして圭志は言ってやる。

「こんな時ぐらい素直に嬉しいって言え」

呆れたような口調で、けれど安堵したような表情で口許を緩めると京介は圭志のこめかみにもキスを落とした。







おまけ

「宗太先輩、宗太先輩!!」

「どうしたんですか?」

「さっき黒月先輩に会ったんですけど、先輩の指に指輪があったんです!!あれって会長があげたんですかね!?」

「あぁ、多分そうでしょう。京介の指にもありましたし…」

「ええっ!?そうなんですか?でも会長と黒月先輩が仲良くて僕もなんだか嬉しいです」

「そうだね」

「そうかぁ?俺としちゃもっとこう…」

「静は黙ってて下さい」

こうしてホワイトデーは穏やかに過ぎて行った――。

END


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