St.Valentine's day(京介×圭志)


「ほらよ」

圭志は生徒会室に入るなり、一直線に進むと奥にある生徒会長の机に向かって正方形の箱を投げた。
そして、その箱を受け取った京介は箱と圭志を交互に見ると真面目な顔をして聞き返す。

「お前熱でもあるのか?」

「ねぇよ。そんなに俺がお前にチョコをあげるのがおかしいか?」

否定しきれず思わず沈黙した京介に、圭志はそれを肯定とみなしてムッとして京介の手に収まった箱を取りあげようと手を伸ばした。

「まぁ待て。誰も要らねぇとは言ってねぇだろ」

圭志の伸ばした手を掴むと京介は椅子から立ち上がり、圭志の正面に立つ。
それを見ながら圭志は不機嫌そうにそっけなく返した。

「要るとも言ってねぇけどな」

「お前な、こういう時は素直に貰って下さいとか言えないのか?」

京介は呆れたような視線を圭志に向けるが、圭志はそんな視線をものともせず言い放つ。

「じゃぁ、やるから食え」

「それが人に物をあげる時に言うセリフか?ったく…仕方ねぇな」

普段の自分の行いを棚にあげて京介はそう言うと、掴んでいた圭志の手を放し、箱を開け始める。

ブルーの包装紙を取り除くと中から茶色い箱が姿を現す。
蓋を開ければトリュフチョコレートが6個格子状に組まれた仕切りの中にちょこんと収まっていた。

「ふぅん、美味そうだな」

京介はその中の一つを指で摘むと口に含み、こちらの様子を窺うように眺めていた圭志の腰を片腕で強引に抱き寄せると逃げる隙を与えずに口付けた。

「んっ…!」

その際、腰に回した片腕で身体を密着させ、性急に口付けを深くする。

「っ、…ン…やめ…ッ!」

がっちりと京介に腰をホールドされた圭志はそれでも何とか逃げようと身体の間に挟まれた両手を突っ張り、顔を横へと逸らそうと首を振る。

だが、時すでに遅し…

自分の意思とは関係なく次第に圭志の頬が紅潮し始め、瞳が潤みとろんと潤み始める。

「はっ…ぁ…ンッ…」

どくどくと鼓動が早鐘を打ち、鼻から抜ける甘い吐息が空気を震わす。京介の腕から逃れようと突っ張っていた手が、京介の上着を弱々しく掴む。

「ふっ…は…っ…」

抵抗する力が弱くなったのを見計らったかの様に京介は最後に圭志の唇に音を立ててキスをすると、今度は耳元に唇を寄せて愉快そうに囁く。

「残念だったな。まぁ、作戦は悪くなかったが…」

「ンっ、な…んで、わかった?」

圭志が渡したチョコレートには媚薬が含まれていたのだ。

京介と恋人同士になったとはいえ、もともと抱く側だった圭志がそう簡単に何度も抱かれる立場に甘んじているワケもなく、今日その立場を逆転させようと計画を立てたのだ。

ご覧の通り失敗に終ったが…。

力が抜けて京介にしがみつく形になっている圭志を横抱きに持ち上げると、京介はニヤリと笑って答える。

「普段しない事はするもんじゃないぜ。そのチョコ手作りだろ?」

「そこから…疑ってた、の…か。んっ、市販のに…しときゃよかった…」

「ふっ…、もう良いだろ?お前も辛そうだし、俺も早くプレゼントを食いたいからな」

そう言うと京介は圭志を横抱きにしたまま、生徒会室の奥にある仮眠室に入って行く。
もちろん、その手には圭志の持ってきたチョコを持って―。

 END.


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