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「あ〜だるかった。さぼればよかったな」

編入初日ということもありおとなしく午前中の授業を受け終えた圭志は、机に伏せていた体を起こして伸びをする。

その横で、机に教科書をしまっていた明は圭志の言葉を聞いて苦笑する。

「黒月ほとんど寝てたじゃんか。そのくせ当てられてもすらすら答えちまってさ。教師陣も苦い顔してたし」

「んなこと知るか。授業が簡単すぎてつまんねぇんだから仕方ないだろ」

「あれが簡単…」

明は圭志の解いた問題を思い出して、どういう頭のつくりしてるんだ?と、片付ける手を止めてじっと圭志を見てしまった。

「どうした?」

「いや、別に」

「明〜、圭ちゃ〜ん。食堂行こ〜!」

教室の後ろの扉から透が元気よく入ってきて2人に声をかける。

「あっ、圭ちゃんの席明の隣なんだ?いいなぁ。僕も同じクラスがよかったなぁ」

透は一直線に2人の元へ来ると羨ましそうに言う。

「3年になれば一緒になれるかも知れないな。ただし、それは透の頑張りしだいだけど」

明はいつもの仕返しとばかりに意地悪く言う。

九琉学園のクラスは成績順で分けられており、透はあと一歩足りずにAクラスになってしまうのだ。

透はムッと頬を膨らませ、椅子に座っている圭志の腕を掴む。

「圭ちゃんに教えてもらうからいいもん」

腕を掴んだまま言い合いを始めた透に、圭志は何か思い付いたように笑みを浮かべながら言う。

「透、教えてやってもいいけどその分報酬は払ってもらうぜ?」

「金取るのかよ、黒月…」

「馬鹿、誰が金だって言った。報酬って言ったら透自身に決まってんだろ」

圭志の言葉に透が照れながら頷くと、遅れて意味を理解した明が瞬時に顔を真っ赤に染めて止めに入る。

「なっ、なな、何考えてんだよ!!」

「もうっ、明うるさい!圭ちゃん、それでいいから今度教えてね」

透は椅子から立ち上がった圭志を見上げながら、はにかんで言う。

その時、必然的に上目使いになった透を見て、圭志は内から膨れ上がるモノを感じた。

(ヤバイな…。最近シテないから今すぐ食っちまいてぇ)

それを何とか抑えて、透の額にキスを一つ落とすと笑いかける。

「了解。じゃ、飯食いに行こうぜ」

「うん!」


2人に置いて行かれそうになった明も慌てて追い付いて、一緒に校舎内にある食堂に向かった。






食堂に入ると、昨日の寮の時と同じで視線が圭志達に集まる。

「明様、今日も素敵です〜」

「あっ、新見と一緒に三澄がいる。いつ見ても可愛いよなぁ」

「鳴かしてみてぇ」

「新見の隣にいる背の高いのが編入生?」

「そうみたい」

しかし、昨日と違い交わされる会話の内容が違っていた。

圭志達は奥の空いている席に座ると、それぞれ料理を注文する。

「明が人気なのは昨日知ったけど、透も人気あるんだな」

食堂に入ってから透に向けられた好意の数々を耳にして圭志は言う。

「うん、まぁ。明程じゃないけどね」

「透は3年の先輩方に人気があるんだ。昨日食堂に行った時は時間が早かったからいなかったけど」

注文した料理が届き、3人はいったん話を止めると食べ始める。


「そういえば僕のクラスで圭ちゃんの噂が広がってたよ。編入生は格好良くて抱かれてみたい、とか明の彼氏じゃないか、とか色々」

「ぶっ…。黒月が俺の彼氏って何だよ!?」

明は透の発言に食べていたドリアを吹き出す。

「明、汚い。そうやっていちいち反応するから佐久間さんにちょっかいかけられるんだよ」

「正直俺も明はからかいやすい。まっ、それが明の良いトコでもあるがな」

「お前ら、そんな事…」

明が2人に反論しようとした時、食堂の入り口付近が騒がしくなった。

「「「キャー」」」

そして、食堂内にいた生徒達が黄色い声といってもいいのかよく分からないが、とにかくいくつもの叫び声が上がった。

「何だ?」

食堂の入り口に背を向ける形で座っていた圭志は、あまりのうるささに眉間に皺を寄せて振り返る。

明と透はいつもの事ながら凄いなぁと呆れて、誰が来たのか食堂の入り口を見る。

しかし、あまりの人の多さに誰が来たのか分からない。

「ん〜、誰が来たんだか分かんないね」

「どっちにしろ生徒会の誰かだろ。これ以上うるさくなる前にさっさと飯食って出よう」

「生徒会の人間が来るといつもこうなのか?」

興味の失せた圭志も向き直って食事に手をつけつつ2人にそう聞くと、2人は揃ってうんうんと頷いた。




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