48


薄く開いた圭志の唇から熱混じりの荒い息が零れる。
腰を動かす度、ぐちぐちと湿った音が鼓膜を揺らし、中に注がれた蜜がとろりと滴り落ちて京介と繋がる下肢を濡らしていく。

「ン…はっ…は…」

「…くっ…」

じわじわと緩やかでもどかしい刺激が京介を襲い、京介は悩ましげな吐息を吐き出すと眉を寄せる。
明らかに感じているその顔を見下ろし、甘く心を疼かせた圭志ははっと息を吐くと熱に濡れた瞳を細め、ぺろりと自分の唇を舐めた。

「ン…っ、気持ち…良いか…?」

京介の腹に付いていた手に力を入れ、腰を前後に揺らした圭志は意識して中をぎゅっと締める。

「ふっ…っ…ン…」

「っ…、あぁ…、お前に喰われそうだ」

ぴくりと反応した腹筋に指先を滑らせ、圭志は体を前に倒すと京介の首元に顔を寄せて印を付ける。きつく肌を吸い上げ、赤い華を咲かせると首筋を辿り、鎖骨や胸へと転々と唇を寄せて痕を付けていった。

ジクリと走った痛みに熱い息を吐き出しながら京介が笑う。

「ふ…」

「んっ…ぁ…んだよ?」

笑われた事に気付いて顔を上げた圭志は愛しげこちらを見つめる瞳と目が合う。

「…可愛いなって思っただけだ」

「さっきから、どこが…っ…ぁン…!」

囁かれた言葉と一緒に動きの止まっていた腰を京介が下から突き上げる。腰に添えられていた手に力が隠り、二度三度圭志は下から強く揺さぶられた。

「ぁっ…く…ぅ…ンッ!」

「は…っ…お前に…独占されるのも、いいもんだな」

「…っ…ァ、まっ…俺の…好きに…っ…して良いって、言った…」

「あぁ。好きなだけ…感じろ…」

添えられていた手が圭志の腰を掴み、前後に揺するのと同時に下からも突き上げられる。

「ン…ぁ…あっ…ふか…い…」

「はっ…は…自分のいいとこ、分かるだろ?」

足の間から滴り落ちた蜜が動きに合わせてぐちゃぐちゃと音を立てる。
次第に余裕の無くなった息遣いに、自然と圭志の腰が揺れる。

「あぁっ…ン…あっ…」

ドクドクと下肢に潜り込んだ熱い熱が圭志の中を埋めつくし、びくびくとした脈動を圭志ははっきりと感じる。
共に昇りつめようと余裕の失せた表情に口付けを求めれば京介が身を起こす。

「ん、ふっ…ぅ…ん」

舌を絡め、圭志の腰から離れた手が圭志の背を抱く。互いの腹の間でとろとろと蜜を溢す圭志のものに指を絡め、ずっずっと強弱をつけて京介はそれを抜いた。

「ぅ…ンぁ…!」

張り詰めていたそれに刺激を与えられ、びくりと圭志が顎を反らす。
目の前に無防備に晒された白い首に引き寄せられるように京介は顔を寄せ、がぶりと甘く噛みついた。

ぼたぼたと互いの腹を汚した熱と下肢を伝い落ち、絡まる蜜。

「ン…あっ…」

「……っ」

ずるりと中に入っていたものを引き抜かれ、イッた直後の圭志は敏感になった身体をぶるりと震わせると京介の胸へ身体を凭れかけさせた。

「は…っ…はっ…ン…京…」

肩を上下させ荒い息を吐きながら呼吸を整えていればさらさらと優しく髪を梳かれる。

「……大丈夫か?」

余韻の残る熱で掠れた声が落とされ、圭志は顔を上げさせられた。ふっと瞳が緩められ、労るように涙の零れた頬と眦、額にと触れるだけのキスが落とされる。

「……ん」

呼吸が整うまで大人しく唇を受け入れ京介の腕の中に抱かれていた圭志はやがて身を起こすと右手を持ち上げて、落とされる唇に人差し指を押し当てた。
そして、目元を赤く染めたまま甘く掠れた声で命令する。

「…水…持って来い」

醸し出す甘い雰囲気とはかけ離れた命令口調に京介は小さく肩を揺らして笑うと唇に押し当てられた人差し指にキスをして、圭志に触れていた手を離した。

「お前の望むままに」

「…ん」

圭志の身体をソファに預け、京介はソファから離れる。水を取りに行った京介の背中をしどけなくソファに身を横たえたまま眺め、圭志は内に燻る熱を吐き出すようにふぅと細く息を吐いた。

「んっ…」

気を緩めた途端とろりと中から零れてきた蜜に圭志の眉が寄る。側に拭くものはと首を巡らせ、手の届く範囲にないことに気付くと仕方なくそのままにしておいた。

「…ほら」

「おぅ」

戻ってきた京介から蓋を開けたペットボトルを受け取り、口を付ける。
ごくごくと水を流し込んでいればソファに座った京介が何やらにやにやと笑って圭志を眺めていた。

「……?」

「良い格好だな」

そう言って京介は無防備に晒されている圭志の太股に触れて、足の付け根に向けて指先を滑らせる。

「ん…っ、それはお前も一緒だろ」

半分に減ったペットボトルをソファの下に置き、悪戯してくる京介の手を叩くと圭志は身を起こして京介の首に甘えるように腕を絡め、引き寄せた京介の耳朶を噛んだ。

「圭…っ」

「このまま風呂場に連れてけ」

もぞもぞと足を閉じて囁いた圭志に京介は下肢に視線を落として気付く。

「…そのままだったな」

「だったなじゃねぇ」

京介の注いだ熱が圭志の太股を濡らし中から一筋零れ落ちる。

「暴れるなよ」

これ以上落ちないように膝をすくい上げ、圭志を横抱きにして京介は圭志の希望通り風呂場へと向かった。

「って、馬鹿っ!…ン…ぁ、これじゃ…意味ねぇ…」

足元に落ちたシャワーヘッドが風呂場の床を濡らしていく。
圭志は京介と正面から抱き合い、文句を言いながら背中に回した手で爪を立てた。

「…っ…、綺麗にしてやってる最中にお前が誘うからだろうが」

「あっ…ふっ…ン、なの…不可抗力だっ」

あぁっ、と圭志の背中がしなる。がくがくと震えだした足に京介の背中へと回った圭志の腕に力が隠る。

一度は綺麗に洗われた秘所はぐちゅぐちゅと再び湿った水音を立て、風呂場には肌を打つ乾いた音と堪えきれず上がった圭志の嬌声が響いた。

「――っ…ぁあぁっ…!」

「くっ――」











…熱い、暑い、
今年最高と言われる最高気温を叩き出したその日。

「やっぱり会長達は来ませんでしたね」

冷房の効いた涼しい一室で、皐月は目の前に置かれた綺麗なティーカップをそっと手に持ち、嬉しげに表情を崩して言った。

「昨日のパーティーのことですか?」

その言葉に、丸いテーブルを間に挟み皐月の正面にある椅子に腰を下ろした宗太はやんわりと聞き返す。

「はい。でも、会長には言伝てを頼まれてましたし、来ないってことは逆に良いことなんですよね?」

ティーカップに口を付け、にこにこと自分のことのように喜ぶ皐月に自然と宗太の頬も緩む。
テーブル越しに右手を伸ばし、皐月の頬に触れた宗太は優しげな眼差しと同じ温度で皐月の言葉に頷き返した。

「そうだね。…美味しい?」

宗太が手ずから淹れた紅茶に、頬を擽る指先。薄く赤く頬を染めて皐月は恥ずかしそうに照れたようにはにかむ。

「とっても美味しいです」

「そう?クッキーもあるから遠慮せず食べなさい」

「あ…もしかしてそれも先輩の手作り?」

「もちろん。時間があったからね」

優しく笑って言った宗太に時間があったからと聞いた皐月はシュンと視線をテーブルに落とし、少し落ち込む。

「ごめんなさい。僕が起きれなかったから…」

「謝る必要はありません。貴方は昨日遅くまでパーティーの主催側の人間としてあれこれ動き回ってたんですから。疲れるのは当たり前でしょう」

「でも、その間先輩を放って…」

「皐月」

俯き加減になっていた顔を上げさせられ、皐月と宗太の視線が交差する。

「私は皐月の為に時間を使えて嬉しかったですよ。クッキーを焼いてる間も皐月が喜んでくれるかな、とか」

「あ…っ、僕…」

「分かったら、謝らないで下さい」

私は私で貴方との有意義な時間を過ごすことを楽しみにしていて、貴方が疲れて眠っている間もこうして今を楽しく過ごす為に必要な一部だったのだから。

「謝られたら今を否定するのと同じことだと…」

「っ、宗太先輩!あの…僕、上手くは言えませんが…ありがとうございます。先輩のその気持ち、凄く嬉しいです」

ティーカップをテーブルの上に戻し、頬に添えられた宗太の手に自分の手を重ねるとふにゃりと満面の笑みを浮かべて皐月は言った。

「………」

かたりと、手を重ねられたまま宗太は静かに椅子から立ち上がる。

「先輩?」

テーブルの周りを回って皐月の側に立った宗太は重ねられていた手を取り戻すと、その手で椅子に座っていた皐月の頭をくしゃくしゃと優しく撫でた。

「わっ…せんぱ…」

「皐月」

頭を撫でる手とは逆の手が見上げる皐月の顎を浚い、宗太が身を屈める。
耳元で囁かれるような甘い声音にどきりとして皐月の目元が赤く染まる。

「…ぁ…っ」

そして、徐々に近付く宗太の端整な顔にどきどきと胸を高鳴らせ…見つめる瞳から逃げるように皐月はそっと恥ずかしそうに瞼を伏せた。

「んっ…」

やんわりと柔らかい感触が唇に重なる。

「好きです…皐月」

ひっそりと囁かれた言葉が皐月の鼓膜を揺らし、吐息が唇に触れる。

「…僕、も…先輩が…好きです」

触れ合わせた唇から想いが伝わるように皐月も想いを込めて返事を返した。

くしゃりと、皐月の隣に椅子を持ってきて座った宗太は皐月の頭を撫でて言う。

「まだ二時を少し回った所ですし、この後どうしましょうか」

頭を撫でられながら宗太の作ったクッキーをサクリと咀嚼した皐月は言われた言葉に首を傾げる。

「僕は特に…先輩と一緒なら」

「それは私も同じですよ」

頭を撫でていた手に身体を引かれ、皐月は宗太の肩口に寄り掛かる形になる。

「それではお茶が終わったら少し買い物にでも出掛けましょうか?」

近付いた距離に、直ぐ側から声が聞こえてきて皐月の頬が薄く赤く色付く。

「…買い物、ですか?」

「えぇ。八月の終わりにある花火大会に着ていく浴衣。私からプレゼントさせて下さい」

「僕の…浴衣ですか?」

「そうです。貴方に似合う浴衣を選びに行きましょう?その後は少し街の中を歩いてもいいし」

突然の約束とデートの誘い、贈り物の話に皐月は頬を上気させると宗太を見上げて勢い込んで言った。

「それなら僕にも選ばせて下さい、…先輩の浴衣。僕も何か先輩にプレゼントしたいです」

飾らない率直な台詞が宗太の心に入り込み、頬が緩む。

「その言葉だけで十分」

「じゃないです!僕が先輩にあげたいんです。それとも迷惑ですか?」

シュンとまた気落ちした様子の皐月に宗太は苦笑を浮かべて、引き寄せた身体をふわりと抱き締める。

「迷惑なわけないでしょう?嬉しくてしょうがないのに」

「じゃぁ…!」

「いいえ。貴方から浴衣は受け取れません。でもその代わりに明日、皐月が私を何処かに連れて行ってくれませんか?」

嬉しいと言いながらも首を縦に振らなかった宗太に皐月の胸の中にもやもやとした不安が生まれたがそれも一瞬のことで、続けられた言葉に皐月はきょとんと瞼を瞬かせた。

「付き合い始めて今年で二年と半月。前はあまり時間がなくてゆっくり回れなかった所を、皐月の育った場所を見ながらデートしましょう」

「見ても面白いものなんて。僕も初等部から九琉学園に入ってましたし、地元にいるより…」

「それでもあるでしょう?初等部に入る前の思い出がここに」

そっと耳元で囁かれてその擽ったさに皐月は身を竦める。じわりと赤みを帯びた耳朶にくすりと笑って宗太は皐月の身体に回していた腕を解いた。

「さぁ、出掛ける支度をして下さい皐月」

「…はい」

部屋の主は皐月だったが、何の違和感もなく宗太に促されて皐月は出掛ける支度をし始める。

宗太は買い物と言ったが皐月にとっては立派なデートという意識が強く、宗太の隣を歩いていても恥ずかしくなく尚且つ宗太の好みにあった服を選ぶのに皐月は少々手間取る。

「これじゃちょっと子供っぽい…よね」

自室に宗太を待たせたまま皐月はあれでもないこれでもないとウォークインクローゼットの中で頭を悩ませていた。


[ 127 ]

[*prev] [next#]
[top]



- ナノ -