09


圭志は黒のブレザーに赤のストライプのネクタイという新しい制服に身を包んで職員室にいた。

目の前にはダークブラウンの髪と瞳のホスト。

ではなく、どこかのホストクラブにいてもおかしくないくらい顔が整っている2-Sの担任らしき男。

「理事長から話は聞いてる。編入生の黒月だな。俺が2-S担任の鏡 藍人(カガミ アイト)だ」

藍人は男の色気垂れ流しで、椅子に座ったまま圭志の方を見た。

「どうも、黒月です。よろしくお願いします」

圭志は頭も下げずにじっと藍人を見返す。

(竜哉叔父さんどういう基準で教師選んでんだ?どっからどう見てもホストだろ)

じっと見ていた圭志は立ち上がった藍人に名簿で額をこづかれる。

「ぼけっとしてないで教室行くぞ」

名簿片手に職員室を出て行く藍人の後を追い、圭志も職員室を後にした。


HRが始まっているのか各教室からは教師の声が聞こえてくる。

そして、いつの間にか隣に並んでいた藍人が前を向いたまま口を開く。

「黒月、お前俺を見てホストだと思っただろ?」

急にそんなことを言われて圭志は驚いたものの、態度に出すことなく淡々と言う。

「思った。鏡センセって教師よりホストって感じだな、って」

「お前なら藍人って呼び捨てでいい。それよりも俺のクラスに首席で編入してくるっていうからどんなガリ勉野郎かと思ったら全然違うのな。しかも担任の俺相手に敬語無しで、ずけずけ言ってくる」

「敬語を使って欲しいなら敬語で話しますよ?藍人センセ」

圭志は隣を歩く藍人ににっこりと笑いかける。

「はは、それも面白くていいけど別に良い。敬語はいらない。他の教師は知らないが、俺は敬語は堅苦しくて嫌いなんだ」

藍人は肩を竦めて言うと2-Sの教室の前で立ち止まる。

「藍人って教師っぽくねぇな。俺はその方が好きでいいけど」

「ありがと、誉め言葉として受け取っておく」

それじゃ呼んだら入って来い、と言って先に教室に入って行った。









教室内は落ち着きがなく、ざわざわと騒がしかった。

それは藍人が教室内に入るとさらに大きくなった。

「先生〜、このクラスに編入生来るんだろ?」

「どんな奴?可愛い系、それとも美人系?」

「え〜、カッコイイ方が良い〜」

「お前ら静かにしろ!!じゃないと編入生見せねぇぞ!」

藍人の脅しともとれる言葉に教室内はぴたりと静まりかえる。

静かになった教室内をぐるりと見渡してから、廊下で待っている圭志に声をかける。

「よし。黒月入って来い」

その声に教室の扉がガラリと開けられる。

圭志は教室内から注がれる視線をものともせず堂々と足を踏み入れると、教壇に立つ藍人の横まで行く。

「黒月、自己紹介しろ」

「編入してきた黒月 圭志です。よろしく」

圭志が短く告げると静まりかえっていた教室内があっという間にうるさくなった。

「うわぁ、カッコイイ!!」

「だね。当たりだv」

「あ〜、可愛い系が良かったのに。残念」

「あいつ食堂の…」

「はいはい!彼女いますかぁ?」

再び騒がしくなった生徒達の声に藍人は眉間に皺を寄せる。


「お前らそういうのはHRが終ってからにしろ。黒月、お前の席はあのオレンジ頭の横だ」

藍人は窓側の一番後ろの席に座っている明を指差して言う。

「先生!俺にはちゃんと名前があるんだからオレンジ頭は止めて下さい」

明はわざわざ席を立ち上がって反論する。と、そこで圭志は初めて明がいることに気付いた。

「あ、明」

「何だ、知り合いか?名前で呼んでも分かんねぇだろうから分かりやすく呼んでやったのに」

藍人は圭志と明に視線を交互にやりながら不思議そうに聞く。

「昨日知り合ったばかり。だけど、明の奴からかいがいがあって面白い奴だよな」

明に向かってにやりと笑う圭志を見て、藍人は呆れたような感心したような顔をする。

「その気持は分からんでもないが、副委員長様に手を出すとはお前も怖いもの知らずだな…」


それから圭志は明の右隣の席に座ると、教室内の生徒を確認するように見渡す。

HR中にも関わらず、ちらちら圭志の方を見てくる生徒達に圭志はフッと笑って手を振ってやる。

その生徒達は圭志の笑みに頬を赤く染めるとくるりと前を向いてしまった。

(くくっ、可愛い奴ら)

ただその中には好意とは逆の視線を向けてくる生徒もいた。

「透は2-Aだっけ?」

「そう。俺、黒月に昨日一つ言い忘れてた事があるんだけど…」

「何だ?」

2人もHR中にも関わらず普通に話し始める。

「俺にも生徒会と同じように親衛隊がいるんだ。俺はそんなのいらないって言ってんだけどさ。…その、原因の俺が言うのも変だけど気を付けろよ」

「何だそんなことか。安心しろよ。俺はそんなもんにやられたりしねぇよ」

圭志は心配そうに見てくる明ではなく、前方の席に座りこちらを睨みつけてくる生徒を余裕の表情で見返した。

明もその視線に気付き、圭志の視線の先にいる生徒を見る。

色素の薄い茶髪に黒目のその少年は明が視線をやると同時にぱっと前に向き直ってしまう。

「あれがお前んトコの親衛隊長か?ずっと俺を睨んでやがった。それにたしか、昨日の食堂の時にもいたな」

「そう。名前は河合 充(カワイ ミツル)っていうんだ」

圭志は名前だけ確認するとその生徒から視線を外し、今度は自分の右隣の空席に向ける。

「ところでこの席って誰だ?いねぇんだけど」

「あぁ、そこは神城(カミシロ)の席。あんまクラスに顔出さないから気にしなくて良いと思うよ。それに今の時期は特に忙しいから校内でもめったに会わないだろうし」

「忙しいって何かあるのか?」

「毎年この時期になると1、2年生の交流会があるんだ。ようは1年生の歓迎会みたいなもので。神城は生徒会の人間だから今は準備とかに追われてるんじゃないかな」

「ふぅん」

圭志と明がそんな話をしている間にHRは終わり、休み時間に入っていた。



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