22


「いいですか明。一人で悩まないで黒月くんでも私でも、この際京介でもいいですから、何かあったら相談するんですよ」

明を部屋に送り届けた宗太は、扉を閉める前に念を押しておく。

「うん…ありがと渡良瀬」

その心配振りに、明はようやく小さく笑みを浮かべて室内へと姿を消した。

「静にも困ったものですね」

ガチャンと鍵の落ちた音を聞きながら宗太は呟き、生徒会室へ戻ろうと足を動かす。

好きな人に触れたいと思う気持ちは解らないでもないが、想いを交わしもせずに実行に移すとは。

それは愛情では無く、ただの欲望だ。

「貴方らしくもない」

明を生徒会室に連れてきて、初めて私達に引き合わせたのは静。

風紀副委員長に推して、指名をしたのも静だ。

それから、明がタチの連中に襲われることもなく普通に学園生活を送れているのも、静が何らかの手段を用いて、守っているからだと宗太は推測している。

留まっていたエレベータに乗り込み、一つ上の階を押す。

静かにドアが閉じ、ふわりとした浮遊感を少しだけ体に感じ、エレベータはすぐに止まった。

開いたドアを抜け、廊下を進むと、京介達はまだ廊下で立ち話をしていた。








ようやく使用できるようになった生徒会室の椅子に座り、四人は顔を合わせる。

会長席に座った京介がまず口を開いた。

「最近、静に何か変わったことでもあったか?」

本気にしろ冗談にしろアイツならもっと上手く立ち回るはずだ。明を煙に巻くなんて、アイツにとっちゃ朝飯前だろ。

やはり京介も静の行動には違和感を覚えているようで、疑問を口にする。

それに、副会長席に座った圭志が心辺りは一つあると答えた。

「明の方なんだけど、隣のクラスの安藤とかって奴にクッキーを貰ったらしい。でもそのクッキーには意図的に媚薬が入れられてた」

まぁ、明が口にする前に佐久間が回収していったみたいで、大事にはいたってねぇが。

「安藤といえばサッカー部エースのか」

「知ってるのか京介?」

「一応この学園じゃ有名だぜ。俺はお前が知らねぇ方が驚きだ」

「だって興味ねぇし」

ふぅんとあっさり納得した京介はどこか上機嫌だ。

「では原因はそれでしょうか?」

会計の席に座る宗太が真剣な顔をして呟く。

「多分な。そりゃ自分が大切に守ってきた者を横から、それも無理矢理かっさらわれそうになったら誰だって頭にくんだろ」

静の場合、感情を隠すのも上手いからな。冷静な顔してても内心じゃ何を思ってるか知れねぇ。

京介の見解に、圭志は先程ぶつけられた静の刺すような冷たい視線を思い出した。


俺を睨むぐらいなら、さっさと明に告白すりゃいいじゃねぇか。

圭志は思うままポツリと溢す。

「それが出来てたらこんなことになってねぇよ」

同じことを思いながら京介は圭志にそう返した。

「何か告白できない理由でもあるのか?」

「理由というか…、もしかして静は明との距離を図りかねてるのかも知れません」

ここまでは良くて、ここからは駄目だと。明は元々ノーマルですし、静なりに何か考えてのことかと。実際、いつでも押し倒すことは出来た筈なのにキス止まりですからね。

宗太がこれまでの二人の関係を振り返って推察する。

「それじゃぁやっぱり、先輩達次第と言うことですか?」

明先輩と静先輩には幸せになって欲しいと、皐月は不安な眼差しで宗太を見詰めた。

それに宗太は困った顔をして、なんとも言えないと返す。

「ったく、面倒だな」

遅々として進まぬ問題にくしゃりと前髪を掻き上げ、自分達のことを棚上げして京介は呟く。

そしてガタリと椅子から立ち上がったかと思えば、圭志の前に置いてあった紙の束を手に取る。

「京介?」

「静の所に行ってくる。仕事届けにな。お前は先に部屋に戻ってろ」

手にした紙の束をひらりと振って、京介は生徒会室を出て行った。


扉が閉まり、生徒会室に残された圭志は宗太に視線を投げる。

「京介と佐久間って仲良いよな。いつから知り合いなんだ?」

向けられた視線と言われた言葉に宗太は一瞬虚を突かれた様な顔をし、それから苦笑して席を立った。

「心配しなくても大丈夫ですよ。それと、京介も静も有名人でしたからお互い中等部の頃から顔ぐらいは知ってたかも知れませんが、直接会話を交わしたのは多分高等部に入ってからですね」

「えっ?そうなんですか?僕、てっきり…」

意外と短い付き合いに驚いたのは圭志だけでなく皐月もだった。

「付け加えると私も生徒会に勧誘されてから京介達とは初めて話しましたね。皐月とは中等部からですが」

「へぇ…。それじゃ、明と佐久間は?」

机に右肘を付き、頬を乗せて圭志は聞く。

「そこがいまいち。明は風紀に指名されてからだと思いますが、静の方は…明のことをそれより前に知ってたんじゃないかと」

「ふぅん。佐久間が…」

しばし思案気な顔をした圭志は椅子を引き、副会長席から立ち上がった。

「どっちにしろこういうのは本人同士の問題だな。じゃぁ、俺は部屋に帰るが渡良瀬達は?」

「私達はまだやることがあるので」

「はい」

ポンと頭に乗せられた宗太の手に促され皐月も頷く。

「そうか。でも京介の奴は」

「京介の仕事はありません。何でも今日は空けておきたいと、今日の分も昨日処理してましたから」

それが誰の為か、わざわざ迎えに来た京介を知る圭志が分からないわけがなかった。



[ 101 ]

[*prev] [next#]
[top]



- ナノ -