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「考えられねぇか?」

自分が女と付き合うってことが。

「………」

無言で返された反応が肯定だと言っている。
しかし、顔色を変えた理由は別にあるのだろう。

遠回しに言っても明の為にはならないと、圭志は斬り込んだ。

「それとも気付いたか?自分の気持ちに」

「え……?」

驚いた顔をした明と視線を合わせ、続ける。

「俺がこの学園に来て、初めてアイツに会った時から、お前のアイツに対する態度だけは他と違ってた。何て言うか、感情的だったな」

俺のキスを許したのかと聞かれて、お前は違うと強く否定して。

そして、嫌いだと口にするわりに、何かあった時、お前が一番頼りにしてたのはアイツだ。

「違うか?」

「………」

咄嗟に答えられない明に、圭志はふっと纏う空気を緩めて笑う。

「お前の言う嫌いは好きの裏返しだ。あぁ、だからって別に嫌いってのが嘘だってわけじゃねぇ」

嫌いなのも本当だろう。
あの本気か冗談かよく分からねぇ言動には俺もちょっとばかし苛つく事があるし。

堅い表情で動きを止めてしまった明が、逃げずに自分の気持ちと向き合ってくれるように、圭志は言葉を付け足した。

「好きになるのに性別なんて関係ねぇんだよ。ソイツだから好きなんだ」

それでも納得出来ねぇ時は、全部相手のせいにすればいい。









ガチャリと、堅く閉ざされていた生徒会室の扉が開く。

一人、壁に背を預け待っていた静は、凭れていた壁から背を離した。

「黒月、明は…」

先に生徒会室から出てきた圭志は静に声をかけられ、一瞬背後に視線をやり、前に戻して言い放つ。

「お前は当分の間、明に近付くな」

「は…?」

いきなり何を、と静は眉をひそめて圭志を見やった。

「自分が何をしたか、この短時間で忘れたわけじゃねぇだろ?」

「………」

「それともこういう場合、三日間の寮内謹慎と反省文十枚の方が良かったか?」

圭志の背に守られる様に姿を見せた明に、静は眼鏡のブリッチを指先で押し上げ、口元だけで笑う。

「黒月。お前、いつから風紀になったんだ?お前に俺の行動を制限する権利はないだろ」

「確かに俺にはねぇな。だから、…京介。頼めるか?」

風紀室の扉が開いた事にも気付かなかったのか、静は驚いて背後を振り返る。

「三日だ、静。三日間、お前を寮内謹慎にする。反省文は目を通すのが面倒だからいらねぇ」

「っ、京介!」

「何だ?俺の決定に文句があるのか?」

珍しく声を荒らげた静を諌めるように京介は低く鋭く問う。

「………っ」

「ねぇなら大人しく部屋に戻れ。お前の処理する仕事は後で部屋に持ってってやる」

反論は聞かねぇと言葉を封じられ、静は一度圭志に守られている明に視線を向け、それから踵を返して自室へと去って行った。


静が去り、風紀室から宗太と皐月が顔を出す。

京介はやれやれと肩を竦め、圭志に視線を投げた。

「これで良いか?」

「あぁ。さんきゅ。…明、お前も今日はもう部屋に帰れ」

「……うん」

覇気もなく俯いた明を見かねて、宗太が口を挟む。

「心配なので私が部屋まで送ってきます」

「そうしてくれ」

宗太に付き添われ、明も自室へと戻り、残された皐月は圭志と京介を不安そうな顔で見上げた。

「静先輩と明先輩、大丈夫でしょうか?」

「さぁな。こればっかりはわからねぇ。二人しだいだ」

取り繕うでも、安心させるでもなく率直に答えた京介に、圭志も頷く。

「佐久間のやり方しだいだろ。明を手に入れるも手放すも」

「そう…ですよね」

しゅんと沈んだ空気を振り払う様に、圭志は皐月の髪をぐしゃりと掻き混ぜる。

「わわっ!?ちょっ、止めて下さい、先輩!」

わたわたと慌てだした皐月に圭志は表情を緩め、皐月、とその名を呼ぶ。

「明が困ってたら助けてやってくれ。恋愛に関しちゃお前の方が先輩だからな」

「え!?そんなこと…ない、です。黒月先輩の方が僕よりもっと…」

皐月の頭に乗せていた手を下ろし、圭志は首を横に振る。

「俺の経験は役に立たねぇよ。なんせマトモな恋愛なんかしたことねぇからな」

「えっ、でも…」

皐月は戸惑った様に、圭志と京介を交互に見た。


よく見ると京介も興味深そうに圭志を見ていて、どういう事か言えと視線で先を促される。

「恋愛以前の話だ。告白されてまず、コイツは自分の害に成るか成らないか考える」

その上で、好きか嫌いか判断して返事を返してきた。

こんなのがマトモな恋愛って言えるか?

苦笑する様に言った圭志に、京介は眉は寄せ、皐月は悲しそうな表情をみせた。

「でもっ、先輩は今してますよね!」

しかし、皐月はすぐさま立ち直り、力強く言う。

「あ?」

「だって、先輩には会長がいるじゃないですか!」

いきなり引き合いに出された京介は、言われた台詞に少し驚き、次にはもっともだと頷いた。
その台詞につられてこちらを見た圭志と視線を絡ませ、口元を緩ませる。

「皐月の言う通りだ。それとも俺もソイツ等と一緒…」

「なわけねぇだろ。お前は避けたって、突き放したって離れねぇし。あげく勝手に人の心の中に入ってきて…」

居座りやがって、本当タチの悪ぃ。

「はっ、俺に捕まったのが運の尽きだ。諦めろ」

マトモな恋愛をしてこなかったってことは、俺がそういった意味で初めての相手なのか?とは、機嫌を損ねそうなので京介は聞かずにおいた。


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