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宗太と静の会話を聞きながら明と皐月はアイスを堪能する。

「で、そっちの問題児じゃなくてE組の事だ」

「E組ですか…」

静の口から出たE組という単語に宗太は匙を握っていた手を止め、眉を寄せた。

E組…それは成績別で分けられた時、一番下になるクラスだ。振り分けられた人全員が全員というわけではないが、その素行はあまり良いとは言えない。

故に問題児クラスと周りからは認識されていた。そのせいかは良く分からないが、E組のリーダー的存在を筆頭に生徒会は嫌われている。

「最近は嫌に大人しいと思わないか?」

「そうですね…」

「…でも、今は平和だろ。夏休みに入ってE組の生徒達だって帰省してるし」

おずおずと、シンとした空気を帯始めた二人の間へ明が割って入る。
皐月もアイスを食べる手を止めて、宗太と静を不安そうな目で見た。

「…静。この話はまた今度にしましょう」

「あぁ、せっかく買って来たアイスが溶けちまうしな」

ぽんぽんと皐月の頭を軽く撫でて宗太はゆるりと微笑む。

「大丈夫ですよ皐月」

「…はい」

やっと笑顔を取り戻した皐月に、穏やかになった空気。いつもの空間に明も表情が緩む。

半分になったアイスの続きを食べようと、明がアイスを口に運んでいると、隣から伸びてきた手にいきなり頭を撫でられた。

「なっ―、何すんだよ!?」

「いや、皐月ちゃんの方をジッと見てたから羨ましいのかと思ってな」

「ちがっ」

「別に恥ずかしがらなくてもいいんだぜ」

ニヤリとこれも、いつものからかう表情を見せた静に、明は顔を赤く染めて言い返す。


そして、真っ赤な顔で睨んできた明に静はフッと笑った。

「お前、口元にアイス付いてるぞ」

「え?」

静の指摘に慌てて口元を拭おうと上げた明の手を静は掴み、体ごと明の方を向くと、顔を近付けて明の口端に付いたアイスをペロリと舌先で舐めとった。

「甘いな…」

「―――っ」

言葉にならぬ声を詰まらせ、明は身を固くする。

「ちょっと静、貴方何やってるんですか!」

宗太から声が上がるが、静はそれを右から左へ流し、ピシリと固まった明を見つめる。

「やっぱり可愛いなお前」

それ幸いと、静は明に口付けた。抵抗もなく重なった唇に静は気を良くしてソッと、明の手を掴んでいる手とは逆の手を明の後頭部に差し込む。

擦れてない所とか、すぐ赤くなって反応を返してくるとこ。根が素直で苛めたくなる。…いちから色々と教え込んでみてぇな。

この学園で見付けた稀有な存在に静は惹かれていた。

「んっ…んんっ!!」

見開かれた目を見つめながら、静はするりと舌を侵入させる。はっと我に返った明が肩を跳ねさせ、掴まれていない手で静を押し返すもびくともしない。

瞳を羞恥か嫌悪かはたまた悔しさか、潤ませ暴れだした明に、静は悪趣味かと思いながらその表情を見つめ、すっと瞳を細めた。

「やめっ…!」

逆に明はゾクゾクと背を這い上がってくる未知の感覚に体を震わせ、泣く寸前。

パッと頭の中にある場面が浮かび、明は力任せに口内を荒らす静の舌を噛んだ。

「―っ…!!」

サッと引いた舌に解放されて、明は衝動のままに思いきり目の前にある静の頬を平手打ちする。

パァン!!と乾いた音が室内に落ち、明は静を力一杯突き放した。

「―っ、出てけ!今すぐ出てけ!」

仲裁に入ろうとソファから腰を浮かした宗太と、はらはらした顔でこちらを見る皐月にも明は強く言う。

「悪いっ、でも…ソイツ連れて出てってくれ!」

「明…」

唇を強く噛んで俯いた明に宗太は一時間だけと、もし駄目なら今日はもう部屋へ帰って良いですからとだけ告げて、静を引き摺り、皐月と共に生徒会室を出た。









それで。

「一時間経っても出てこないんだな?」

「えぇ。中から鍵も掛けられている様で」

私達のカードキーでは開かないんです。

心配だと、宗太は先程の甘い雰囲気を一掃させて眉を寄せた。

「佐久間の奴は何処にいるんだ?」

京介と宗太の話を聞きながら圭志が問う。

「静先輩はずっと生徒会室の前にいます」

それに皐月が答え、四人はとりあえず生徒会室に向かうことにした。

エレベーターで八階へ上がり、生徒会室の前へ進む。そこに、生徒会室の扉に背を預け、何やら中へと話しかけている静の姿があった。

「いい加減出て来いよ。キスなんて減るもんじゃないだろ」

謝る気全く無しな言いように圭志は呆れたように呟く。

「佐久間の奴何考えてんだ。火に油注いでんじゃねぇか」

「お前も初めは同じこと言ってたな。キスの一つや二つしたトコで何が変わるってもんでもないとか」

ふと思い出した京介は隣を歩く圭志を瞳を細めて見つめた。

「…今はそんな風に思ってねぇよ」

するとちらりと視線が合って、圭志は一言返すとすぐ前に視線を戻す。

話し掛けていた静は圭志達に気付くと扉から背を離し、一旦話しかけるのを止めた。


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