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チェックアウトを済ませた頃には二時を回っており、更には学園に着いた時には三時を少し過ぎていた。

「はい、皐月」

「あ〜…んっ、…冷たっ。でも美味しいです」

冷房の効いた寮のロビーに入るとまっさきに飛び込んできたのは、ロビーにあるソファで二人の世界を繰り広げている宗太と皐月だった。

いくら一般生徒達が帰郷して居ないとはいえ…。

「何やってんだアイツ等は」

「さぁ?」

京介と圭志は自分達のことを棚上げして呆れた様に言葉を吐き出した。

「それは良かった。もう一口食べますか?」

「いえっ、僕より宗太先輩が食べて下さい。美味しいですよ」

おずおずとスプーンで掬ったアイスを宗太の口元に近付けた皐月は恥ずかしそうにはにかむ。

「じゃぁ皐月が食べさせて下さい」

にっこり笑って口を開けた宗太の口の中に、皐月はゆっくりとスプーンを差し入れた。

「ど、どうですか?」

「うん。美味しいね」

カァーッと一瞬にして赤くなった皐月の頬をソッと両手で包み宗太は…

「あっ!先輩、会長と黒月先輩帰って来ましたよ」

「うん、知ってる。でも、ちょっとだけ待ってて貰おう」

ちゅっとアイスで冷たくなった皐月の唇に、宗太は優しく唇を重ねた。





渡良瀬も中々やるなと、圭志はどうでも良いことを思いながら宗太に守られている皐月の正面に立つ。

圭志の隣には京介が立ち、ソファに座る宗太を見下ろした。

「で、わざわざ呼び止めたって事は俺達に何か用か?」

「えぇ、少し困ったことになりまして」

さらりと、片手で皐月の髪を撫でつつ宗太は困った内容を口に上らせた。

「実は明が生徒会室に立て籠ってしまったんです」

「「はぁ?」」

予想もしてなかった内容に圭志と京介は思わず声を揃える。

「まぁ、それというのも全て静が原因なんですが」

宗太は溶け始めているアイスのカップに視線を流して続けた。

今日は京介抜きでいつも通り会議、いわゆる雑務ですが、を午前中から始めて。昼休憩を挟んでまた午後から始めました。

そして、今日は何となく三時休憩にアイスを出そうと思って買って置いたんです。

「二人の分はまだ生徒会室の冷凍庫に入ってるので安心して下さい」

「それは別にいいけどよ、それで?」

京介に代わり、圭志が先を促す。

「はい。あの馬鹿、まんまとやってくれやがりまして…」

宗太にしては些か乱暴な言葉遣いで話は続いた。










「休憩にしましょうか」

三時を少し過ぎた辺りで仕事も一段落し、会計の席に着いていた宗太が切り出したのが始まりだった。

「おぉ、そうだな。にしても京介の奴自分だけ狡いよなぁ」

副会長席から立った静は肩を解しながら、応接室で作業を進めていた明の隣に自然な造作で腰を下ろした。

「ちょっ、何でこっちに来るんだよ!俺に近づくな」

「最近、明はつれねぇし」

ふぅと息を吐いて、逃げようと腰を浮かせた明の肩に左手を回して逃亡を阻止する。

「それは貴方がいけないんでしょう」

人数分のアイスを持ってきてくれた皐月の頭をよしよしと撫でながら、宗太は皐月と共に明達の向かい側に座った。

「はい、明先輩。静先輩」

「あ、ありがとう」

「さんきゅ、皐月ちゃん」

アイスは一人用のカップアイスで、匙とアイスを皐月は二人の方へ差し出した。

ふっと明の肩から重みが消え、アイスの蓋を開けている静に、明はほっとした顔をする。

「そういや、最近といえば問題児の姿を見ないな」

「問題児?速水君なら夏休みに入ってすぐ帰省しましたよ」

「あー、それは知ってる。寮を出てく前に京介と対峙してたの見てたから」

アイスの蓋を開けて、匙を紙の袋から取りだし、その時の事を思い出したのか静はクツクツと笑って言った。

「アイツもまぁ面白いよな」

せいぜい黒月先輩に嫌われないようにする事ッスね。もし、そんなことになったら黒月先輩は俺が拐ってくッスから!

って、京介を目の前にして言い放った奴、俺は速水しか知らねぇな。

その後の京介の切り返しは言わずもがなだろう。



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