限定(工藤×廉)


カチャリと控えめに扉が開く。仲間達がいる店内と幹部以上の人間が使う一室を繋ぐ唯一の扉。
その室内に一人でいた工藤は人が入ってきたのもいつもの事と、気止めず買ってきたばかりの雑誌に目を通していた。
しかし、

「くどー!」

ここには無いはずの声と、同時に横からどんと突き飛ばす勢いで抱き着いてきた人物に息を詰め、目を見開いた。

「っ、廉?どうしたんだお前」

今日、廉が来る予定はない。まして自分から抱き着いてくるなんてことは…未だない。
開いていた雑誌をテーブルの上に放り、抱き着いてきた廉と視線を合わせる。

「えへへ、くどーだぁ」

すると廉はどこか間延びした声で俺の名を呼び、淡く赤く染まった頬をふにゃりと崩した。その様子にもしやと思い、赤くなった廉の頬に両手を添え、ゆっくり顔を近付けた。結果、やはりというか微かに香るアルコールの匂い。

「誰だ、廉に酒なんか飲ませたのは…っ!?」

ちらっと店へと繋がる扉に目を向けた一瞬。

「んー…どー」

ちょんと唇に押し付けられる柔らかな感触。

「廉…っ!?」

「んー…」

ぎゅうぎゅう抱き着いてくる廉は、珍しく狼狽えた工藤に頓着することなくにこにこと満足そうに笑う。その無邪気さに工藤はぐっと何かを堪える様に細く息を吐き出して自分を落ち着かせると、性急にならないよう努めて優しく抱き締め返した。

「くどー、あったかい…」

まるでそれが正解だとでもいうかの様に胸元に擦り寄ってきた廉に工藤はふっと表情を緩める。

「そうか?お前の方があったかいだろ」

くたりと体から力を抜き、完全に身を預けてくる廉を余裕で受け止めながら、その額に唇を落とす。
これぐらいなら万が一忘れても、忘れなくても良いだろう。

「…くすぐったい」

「ん、それだけか?」

ゆるりと笑みを浮かべて聞けば廉はきょとんとどこか幼い動作で首を傾げた。そして、ふんわりと花が開く様な満面の笑顔で言った。

「ううん、…すき」

「――そうか」

何がと工藤は聞き返そうかとも思ったが聞かなかった。その言葉は廉が素面の時でないと聞いても意味がないと知っているから。

楽しそうに笑う廉の髪に触れ、工藤も優しく笑い返す。
さて、酔いが醒めたとき廉はこのやりとりを覚えているのか、いないのか…。


end.


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