Present

2009クリスマス企画



「あれ?廉兄ぃ、もう行くの?」

「うん。今年のパーティーは昼間にやるんだって」

妹の手をとって俺は家を出た。

―12月25日 X'mas

例年通りLarkメンバーでクリスマスパーティーが開かれた。
飾り付けのされた店内で皆いつもより少しテンション高めでわいわいと騒ぐ。

「廉、食べてるか?」

「隼人」

料理の盛られた皿を片手に俺は振り返った。

「大丈夫そうだな」

「ん。大輔と陸谷がとってくれた」

その二人は他の話の輪に入って楽しそうに笑っている。

「ところでさ、何で今年は昼間なの?いつも夕方からだったじゃん」

隼人に今年は昼間にやるからと連絡を受けて、俺はずっと不思議でしょうがなかった。
首を傾げた俺に隼人はそれなんだけどなと答えた。

「夜に用事の入ってる奴がいて、でもどうしてもパーティーには参加したいって困った奴がいてさ。それなら昼間にするかって話になったんだ」

「へぇ、そうだったんだ。何か嬉しいな。このパーティーを楽しみにしてくれる人がいて」

「そうだな」

頭にポンと手が乗せられ、隼人は苦笑して頷いた。

(今回は工藤に譲ってやるって皆で話し合って決めたんだ。お前が困らないように口止めまでして、今日一日を廉が笑って過ごせるように)

後は二人次第。

パーティーは夕方にお開きになり、俺は貰ったプレゼントを紙袋に詰めて悠と一緒に向日葵(Lark拠点の店)を後にした。
家に着き、紙袋を部屋に置いてリビングに戻った俺の側に悠が寄って来る。

「廉兄ぃ、早く行かないと今日が終わっちゃうよ?」

「行くって何処に?」

「あれ?行かないの?工藤さん家。悠がお留守番してるから行ってきていいよ」

ぐぃぐぃとワケも分からないうちに背を押される。
いや、本当言うとちょっと工藤の事は気になっていた。
昨日、今日と工藤から電話もメールも来ていないし。どうしたんだろう?

俺は悠に背を押されるようにして家を出た。

「…家に行って、いなかったら帰ってこればいいか」

居て欲しいような居て欲しくないような矛盾した想いを抱え、俺は工藤の家に向かった。

「そうだ。工藤、ケーキ食べるかな?」

チラリと視界に入った洋菓子店の前で足が止まる。

「…手ぶらで行くのもなんだし、買ってこう」

寄り道をして、右手に小さな白い箱を提げ、俺は工藤の家の前まで来た。
どきどきと鼓動を速めながらインターフォンに人差し指を乗せる。

-ピン、ポーン

どきどきしながら工藤が出てくるのを待った。
程無くしてガチャリと扉が開く。

「…廉?どうした、何かあったのか?」

俺を視界に捉えた工藤は驚いてから、心配そうな顔になった。

「何もないけど、…来たらダメだったか?」

「いや廉ならいつ来てもいいけど、とにかく中入れよ」

その言葉に甘えて、お邪魔しますと俺は玄関を上がった。
工藤は座って待っててくれと言ってキッチンに姿を消す。

「あ、工藤待って!これ、すぐそこで買ってきたんだけど…」

俺は座らずに工藤を追ってキッチンに入った。

「ん?」

棚からカップを取り出していた工藤が振り返る。

「これ、珈琲ゼリー。ケーキにしようかと思ったんだけどこっちの方が工藤は好きかなって思って…」

「うん、ありがとう廉。すげぇ嬉しい」

工藤はカップを置いて、俺が差し出した白い箱を大切そうに受け取った。

「後で一緒に食べような」

冷蔵庫にしまい、工藤がとても嬉しそうに笑う。

「……うん。どういたしまして」

その笑みを見たら顔が熱くなった。

「それで、どうしたんだ?」

マグカップに口を付けながら工藤が聞いてくる。
俺はなんて答えたらいいか迷って、結局正直に話した。

「工藤が…、電話もメールもしてこなかったからどうしたのかと思って」

チラッと工藤の反応を窺うと、工藤は苦笑したように笑った。

「そっか。心配させちまったな」

その通りなのでコクリと一つ頷いた。

「実はな、今日はお前に会えないだろうと思って連絡しなかったんだ」

「どういうこと?」

「毎年この日はLarkじゃクリスマスパーティーをしてるだろ?だからメールも電話もしなかった。返事が返ってきたら、声を聞いたら、会いたくなるのが分かってたからな。…俺は別にお前を困らせたいわけじゃない」

でも、逆にお前に心配させたみたいだな。
そう言って工藤は真っ赤になった俺を抱き寄せた。

「〜っ、なに言ってんだよ」

ぎゅっと工藤の服を握り締めて、恥ずかしくて俯いた。

「悪い。お前の方から会いに来てくれて凄げぇ嬉しい」

ふわっと髪にキスを落とされる。

「ありがと、廉」

「〜〜〜っ、うん」

柔らかい声が耳の近くでして、それがくすぐったくて俺は工藤の胸に頭を押し付けた。
最後にぎゅっと強く抱き締められ、工藤が離れていく。

「…ぁ」

離れていく温もりが何だか寂しくて、俺は工藤の服を握っていた手に無意識に力を込めていた。

「廉?…あんま可愛いことするなよ」

離したくなくなると工藤は困ったように笑った。

「っ!?」

俺は自分の行動に我に返り、慌てて手を離す。
工藤はそんな俺を優しげな瞳で見つめ、口元を緩ませた。

「廉」

「…な、に?」

俺は顔に集まった熱をどうにかしようと小さく深呼吸をしてから工藤を見る。

「本当は明日渡そうと思ってたんだけど、…これ俺からのクリスマスプレゼント」

そういって、包装された紙袋を渡された。

「え、でも…。俺何も…」

「いいんだ。今日お前が会いに来てくれただけで。それが俺には嬉しかったから」

深呼吸は効果を発揮する前に無駄に終わる。
カァッと耳まで真っ赤にして俺は固まった。
だって、工藤があまりにも柔らかく愛しそうに俺を見て微笑むから…。

「開けてみ?」

「…ぅ、うん」

ぎこちない動作で俺は紙袋を開けた。

「ぁ、…マフラー?」

中には手触りの良い、白いマフラーがきちんと畳まれて入っていた。

「そう」

工藤がマフラーを手に取り、俺の首に巻きながら言う。

「廉は良く出歩くし、最近夜なんか特に寒くなっただろ?お前が風邪を引かないようにな。よし、似合ってる」

プレゼント一つにも工藤の想いが込められていて、俺はどうしたらいいのか分からなくなる。
でも、心臓がきゅっとなって心がほんわり温かくなるこの感じは嫌じゃない。

「…工藤、ありがと。大切に使うよ」

「ん」

くしゃりと髪を撫でられ俺は頬を赤く染めたまま笑った。

-Merry Christmas!!-


end.


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