2月14日

2009バレンタイン
工藤×廉、恋愛要素は限り無く低いかも?



ワイシャツの上に学校指定の黒の学ランを着て、カバンを肩から斜めにかける。

「よしっ。いってきます」

いつも通り玄関の鍵をかけて俺は学校へ向かった。

「おはよう、廉くん」

「あ、おはよっ!」

正門に近付くにつれ登校している生徒が増える。

「よぉ、坂下。今日の昼休み俺等んとこ遊びに来いよ」

「先輩おはようございます。昼ですか?いいですよ」

靴から上履きに履き替えて。

「おはよう、坂下」

「おはようございます」

階段を上り、廊下を歩いて教室に入る。

「れーん!はよっ!」

「おはよ」

同級生、二年の先輩、三年の先輩、友達、皆と挨拶を交わす。
いつもなら担任の先生が来るまで友達と雑談をしているが今日は違った。
友達と雑談をしていたらクラスの女の子達が近付いてきた。

「廉くん。コレあげる」

「私もー。はいっ」

そう言って四角い、綺麗に包装されリボンのかけられた包みを差し出された。

「わっ、ありがと!ちょっと待ってね」

包みを受け取り俺は自分の鞄の中から掌サイズの袋を二つ取り出す。

「おい、俺等にはないのかよ?」

「一応あるわよー。はいっ」

俺の横でそんなやり取りがされ、友人の掌にチロルチョコが落とされる。

「お前らなぁ、俺と廉の差ぁありすぎだろ」

「あるに決まってるじゃない。アンタは可愛くない!」

ビシッと友達に人差し指を突きつける彼女に俺は声をかける。

「はいコレ。お礼。貰ったものと比べると大したものじゃないけど」

中身は手作りのチョコチップクッキー。

毎年のバレンタインはいつもこんな感じだった。
貰うだけ貰うっていうのがなんかすっきりしなくていつの間にかこうなっていた。

「そんなことないよ!ありがとー廉くん」

「れ〜ん〜、こんな奴にやんなくていい。俺が許す」

こうして朝は過ぎていく。

昼休み、

空になった弁当箱を片付けて、俺は鞄の中から紙袋を取り出した。

「おっ、もしかして先輩達んとこ行くのか?」

「うん。朝、先輩に昼休み来いよって誘われたから。一緒に行く?」

「ん〜、止めとく。頑張ってこいよ」

「気を付けろよ」

ひらひらと手を振る友人達の言葉に首を傾げつつ俺は紙袋を片手に教室を出た。

向かう先は屋上。

屋上には朝、声をかけてきた二年の先輩とその友人達が輪になってダラダラとくっちゃべっていた。
ガチャリと扉を開ける音でこちらに気づいた先輩がおいでおいでと手招きをする。

「こんにちは」

近くまでいって挨拶をすると、座っていた先輩が移動して場所を空けてくれる。

「今日も可愛いね〜、廉ちゃん」

「はぁ…」

俺はその場所に座って紙袋を横に置いた。

「坂下。そこの馬鹿の台詞は気にするな」

「悪いね、昼休みに。女の子達が廉くんを連れて来いってうるさくて」

そう言って先輩は困ったように苦笑を浮かべた。

「俺は言われるまでもなく朝からコイツを連れてくる気満々だったぜ。なんせ女共よりコイツの方が煩くなくて良いしな」

クシャと横から伸びてきた先輩の手が俺の頭に乗せられる。

その時、バァンと勢いよく屋上の扉が開いた。
その音に驚いて振り返るとセーラー服を着た二年の先輩方がいた。

「ちょっとアンタ達!廉くんが来たなら教えなさいよ!」

「あ〜、ごめんね」

ちっ、もう来たかと隣から舌打ちが聞こえてきて頭に乗せられていた手が離れていく。
俺は近付いてきた先輩方にぺこっと会釈をして横に置いた紙袋を引き寄せた。

「そんな所にいたら危ないわよ、廉くん。こっちにおいで」

そう呼ばれて俺は困った。

「えっと…」

別に危ないものはないと思うんだけど…?

「行ってさっさと戻ってこい」

「そうそう。女の子は怖いからね」

「じゃぁ」

立ち上がって少し離れた場所で待っている先輩方の元へ行く。

「よしよし。何もされてないわよね?もし何かされたら私達に言うのよ?」

「男はみんな狼なんだから。油断しちゃダメよ」

「いや、俺、男なんですけど…」

真剣な表情でうんうん頷く先輩方に俺は困ったように口を挟んだ。けれど、

「とにかく気を付けるのよ。廉ちゃんは可愛いんだから」

「ぅ…、はい」

押し切られた。

「よし。じゃぁコレ、チョコレート」

「私からも、はい」

大小様々な、綺麗に包装された箱を受け取り、俺は教室でチョコをくれた女の子達にしたように持参した紙袋から手作りクッキーを取り出してお返しとした。

「チョコありがとうございます…」

女の人に囲まれてちょっと恥ずかしくて、俺は照れながらも笑って返した。
そのはにかんだような笑顔に彼女達はキャーキャーと騒ぎながら屋上を後にする。
良く分からないが喜んでくれたなら何よりだ。

「やっと静かになったか」

「廉ちゃ〜ん、戻っておいで」

いくらか軽くなった紙袋と先輩方がくれたチョコを抱えて俺は先輩の隣へ戻った。
すると隣に座っていた先輩がポケットから何かを取り出す。

「坂下、俺もやる」

「あ〜、一人抜け駆けすんなよ。俺も俺も」

渡されたのは棒付きの飴にガム、ブルーのストラップ、シュークリーム。
流されるように受け取ったそれらと先輩達の顔を交互に見て俺は首を傾げた。

飴やガムなら持っていても不思議じゃない。
ストラップとシュークリームって…?

「ちょっとちょっとそれは無いんじゃねぇ?そのストラップ飲み物のおまけについてたやつじゃん。そんなの廉ちゃんにあげるなよ〜」

そういうことか。じゃぁシュークリームの方は?

「あぁ、その為に買ったのか。お前が食うのかと思って俺は心配したぞ」

「何だそりゃ。俺が買って食ったらマズイのかよ?」

「甘味嫌いが食ったら何の天変地異の前触れかと思うだろ」

俺が来るって知ってたから買ってきてくれたのかな?

わいわい騒ぐ先輩達に俺は自然と笑みが溢れた。
笑顔でお礼を言って、先輩達にもクッキーを渡す。

昼休みは楽しく過ぎていった。

放課後、

鞄を左肩から斜めにかけ、左手には貰ったバレンタインのチョコをいれた紙袋を持つ。

「うわぁ、いっぱいもらったな」

隣を歩く友人が紙袋に視線を向けて驚いたようにそう言った。

「そっちこそいっぱいじゃん。でも俺より先輩達の方がこの倍はもらってたよ」

何故だか屋上から俺の教室までついてきた先輩達。
二年生が一年の階に来たことで廊下は凄いことになっていた。

「あ〜、あの先輩達ね…」

「でもさ一年の階に何の用があったんだろ?」

首を傾げた俺の横でフッとどこか遠い目をした友人がいた。

「……虫除けだろうな」

「ん?」

「なんでもない。それよりあの人だかりなんだろな?」

スッと指差した先、正門の辺りに女の子達が集まっていた。
近づくにつれ人だかりの隙間からソレは見えた。
綺麗に染められた金髪がちらちらと見え隠れする。

「工藤…」

「工藤?廉の知り合い?」

うんと頷いて、俺を待ってたのかなと少し考える。
とりあえず行ってみようと人だかりに足を向けた。

そして、声をかけようと口を開きかけて、目に写った光景に俺はピタリと動きを止めてしまった。
頬を染めた可愛い女の子が工藤に綺麗にラッピングされた長方形の箱を差し出していたのだ。

どうするんだろう、受けとるのかな?
そう思うとなんだか胸がもやもやした。

自然、俯いた耳に工藤の断る声が聞こえた。

「気持ちは嬉しいけど悪ぃな。ソレは受け取れない。俺、好きな奴いるから」

次いでシンとなったと思ったらその場にカッコイイー、とか好きな人って誰なんだろ?とか女の子達が騒ぎ出す声が聞こえる。
俺の後ろにいた友人も何やらかっけぇとか呟いていた。

「あっ、おい。廉、前」

ツンツンと背をつつかれて思考に沈んでいた俺はうん?と緩慢な動作で顔を上げる。
すると、そこには。

「廉。一緒に帰ろうぜ」

いつの間に来たのか目の前に工藤が立っていた。

「……女の子は?」

きょろと工藤の周りを見てみたが先程の子はもういなかった。

「ちゃんと断った。だからそんな顔するな」

工藤は苦笑しながら俺の頭を軽く二度ぽんぽんと叩く。

そんな顔ってどんな顔だよ。
俺、別にいつも通りの顔をしてるだろ…?

「廉、お前…もしかして」

何故だか一緒にいた友人が驚いたような顔をして俺を見ていた。

「え、なに?」

「あ〜っと、なんでもない。それより工藤さん?と帰るんだろ?じゃぁな。気を付けて帰れよ」

歯切れの悪い友人と別れ、俺は何故か工藤と帰ることになった。

帰り道、

これもまたいつも通りのはずなのに胸のあたりがもやもやして気分が晴れない。

「廉?大丈夫か?」

「え?何が?」

隣を歩いていた工藤が心配そうに俺を見ていた。
どうやらボーッとしていたらしい。

「さっきのこと気にしてるんだろ?」

「別に…。大体なんで俺がそんなこと気にしなきゃいけないんだよ」

そうだよ。俺だって皆から貰ったし。工藤があの子から貰ったって別に…。
別に関係ないはず…。なのに…。

「そうか?俺は気になるけどな」

そう言って工藤の視線が俺の持つ紙袋を指す。

「これは学校の友達とか先輩が、俺が甘いもの好きだからってくれて」

ん?なんで工藤に言い訳してるんだろ俺?
むむっと眉を寄せ、途中で言葉をとぎらせた俺に工藤は苦笑しながら分かってると優しい声音で言った。

「廉にその気がないことぐらい。でも俺だってそうと分かってて、妬くことぐらいあるんだぜ」

「ばっ!?なっ、何言って」

頬を朱に染め、あわあわと慌て出した俺の頭上から続けてクスッと笑った声が降ってくる。

「でもまぁそれじゃ来月が大変だな」

「そ、その心配はないよ」

動揺しながらも、心の中で落ち着けー、落ち着けーと唱えてなんとかそう返すことに成功した。

その場でチョコとクッキーを交換してるんだと、説明した俺に工藤はへぇと感心したように頷く。

「それならお返しの心配もねぇな」

「だろ?それに貰うだけってなんか悪い気がして。…あ、そうだ!」

「どうした?」

たしか余ったクッキーが鞄に。

ゴソゴソと鞄の中から透明のビニールでラッピングされたクッキーを取り出し、工藤に向けて差し出す。

「あげる。ちょっと作りすぎたみたいで余っちゃったんだ」

「…いいのか?」

「うん」

ありがとと大切そうにクッキーを受け取った工藤に、いつしか胸に燻っていたもやもやは消えていた。

「まさか廉からバレンタインチョコが貰えるとは思わなかったな」

「ん?チョコじゃないよそれ」

「でもただのクッキーでもないよな?」

そりゃただのクッキーじゃ味気ないからチョコチップを…

「う…ん。…ん?んん!ちょ、ちょっと待って!俺、別にそんなつもりであげたわけじゃ!」

やっぱ返して!と顔を赤くして工藤の手にあるクッキーを取り返そうと手を伸ばす。

しかし、

「そんなつもりって?」

にっと悪戯っぽく微笑んだ工藤に顔を覗き込まれて俺はうっと言葉を詰まらせた。

「っ…」

「なんてな。今年は友達として貰っておくな」

そう言ってぽんと頭を軽く叩かれ、俺はそれならとモゴモゴと頷いた。


END.


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