X'mas 後編


「あれ?廉兄ぃ、ケーキはお店で作るんじゃなかったの?」

「えっ、これは…そう!失敗するといけないから練習だよ」

―12月25日

マスターにキッチンを借りてイチゴのホールケーキを作った。
他にもマスターと一緒にクリスマスの定番料理をたくさん作って、テーブルの上に並べる。

「廉兄ぃ、飲み物はここでいいの?」

「うん」

「総長〜、これはどこ置いたらいんスか?」

「あっ、それは向こうに置いて!」

ばらばらと集まってきた仲間達に手伝ってもらいながらセッティングが完了した。
そして、その頃には皆が集まっていた。

「そろそろ始めていいんじゃねぇか、廉」

隣に立つ隼人が店内を見回してそう言う。

「そうだね。じゃぁ皆グラスを持って…」

―メリークリスマス!!

その台詞を合図にパーティーが始まった。
テーブルに並べられた料理に手をつけ、皆思い思い話に花を咲かせ始める。

「総長。どれ食べる?俺がとってあげるよ」

皿を片手に、にこにこと笑顔で大輔が言う。

「ん〜、じゃぁ唐揚げとポテトお願い」

だから俺もにっこり笑い返してそう頼んだ。

「抜け駆けすんなよ大輔」

そこへ、飲み物を片手に矢野がやってきた。

「こういうのは早いもん勝ちでしょ。はい、総長」

「ありがと」

料理の盛られた皿と箸を渡される。

「あ、それ俺が作ったやつだ。陸谷どう?」

矢野に遅れて顔を見せた陸谷の皿に、俺が調理した料理が乗っていて俺はついドキドキしながら聞いてみた。

「美味しいッスよ」

それに陸谷は普段あまり変わらない表情を緩めてふわっと笑みを浮かべる。
それなら良かったと、にこにこ笑いながら俺も皿に盛られた料理に手をつけようとしたら…

「安心しろよ。ちょっと失敗して不味くなってもコイツ等なら美味いって言って全部食ってくれるぜ」

「聖!」

いきなり後ろから現れた聖が俺の頭に手を乗せ、そんな事を言ってきた。

「それって俺の料理が不味いって意味?」

「そんなワケねぇだろ。ったく、廉さんに変な事言うなよ聖」

「そうッスよ。廉さん、ちゃんと美味いんで大丈夫ッス」

心配になって聖を見返せば、横から矢野と陸谷がそう言う。

「でも、もし失敗作が出てきてもお前等ぜってぇそう言うだろ?」

ふっと口角を上げて自信満々に告げられた台詞に二人は何故か沈黙した。

「聖、慎二に安芸も総長を困らせるなよ」

三人のやり取りを見かねた大輔が口を挟む。

「何やってんだよお前等。廉ばっか構ってないで散れ」

そして最後にその輪の中に呆れたような顔をした隼人がやってきた。
幹部四人を追い払った隼人は俺の隣に立つと、俺の頭をポンポンと軽く叩く。

「まったくしょうがねぇなアイツ等は。お前に構いたくてしょうがねぇらしい」

今日ぐらい他の奴等に譲ってやれよなと苦笑する隼人を俺は見上げた。

「俺ってもしかして、からかわれた?」

きょとんと首を傾げて聞けば、隼人はそうでもないだろと更に混乱させるような事を口にする。

う〜ん、どっちなんだよ。

「それよりほら他の奴等が呼んでるぜ。行ってやれ」

回答を曖昧にされたまま、俺は隼人にソッと背を押され、仲間達の所へ送り出された。
そして、パーティーはわいわいと盛り上がりをみせ、宴もたけなわになってきた頃、誰かがこう言った。

「俺、総長にプレゼント持ってきたんだぜ。はいこれ」

そう言ってどこから取り出したのかきちんと包装された掌サイズの箱を渡された。

「え?いいの?あっ、でも俺何にも用意して…」

「いいのいいの。俺が勝手に用意したんだから」

「廉さん、自分もこれプレゼントです!」

そう言って今度は赤いリボンがかけられたふわふわの可愛らしいクマのヌイグルミを渡された。

「え?え?」

それから次々と色々な物を渡され俺は困った。
返そうにも皆声を揃えて同じことを言う。

「「「俺が廉さん(総長)にあげたくて勝手にやったことだから」」」

と。

「廉兄ぃ、大人気だね!」

困った顔の俺を悠は何故か嬉しそうに見ていて、その悠の手にも幾つかプレゼントが贈られていた。

貰ったプレゼントはマスターが気を利かせて紙袋に詰めてくれて、クリスマスパーティーはお開きとなった。
後片付けも皆でして、送っていくと言った仲間達の声を断り俺は悠と一緒に店を出た。

「楽しかったね!」

繋いだ手をブラブラと揺らして、上機嫌に笑う悠にそうだなと俺も笑い返す。
でも、本当は頭の中でこの後の事を考えてドキドキしていた。

店を出る前にこっそり送ったメール。
数分もしないうちに返ってきた返事。

俺は家に着くと紙袋を自室に置いて、悠をお風呂に入らせた。
その間に今朝作った小さなホールケーキを切り分けて、二切れ用意しておいた箱の中へ詰めた。

色々している間にお風呂から悠が上がってキッチンに顔を覗かせた。

「廉兄ぃ何してるの?」

「悠。お兄ちゃんちょっと出掛けてくるけどすぐ帰ってくるから」

不思議そうに首を傾げる悠にそう告げて、俺は箱を手に近所の公園へ向かった。

外は先程より冷えていて、息を吐き出すと白く見える。
足早に歩けば冷たい風が頬を撫でていった。
家と家の間にある小さな公園に辿り着き、中に入ればコートのポケットに両手を突っ込んで一人佇む待ち人がいた。

「工藤」

近づいて俺が声をかければ工藤はふっと柔らかい笑みを見せる。

「メールありがとな」

「っ…、別に」

その顔が直視できなくて俺は少し視線を外し、持ってきた箱を押し付けるように渡した。

「これあげる。店で買ったものより味は落ちるけど、昨日のお礼」

工藤が箱を受け取ったのを確認して俺はじゃ、それだけだから。と、早口に言って帰ろうとした。

「待てよ」

しかし、それも腕を掴まれて失敗に終わる。
工藤は箱を右手に持ち、掴んだ手をいったん俺から離すと、自分のコートのポケットに突っ込み何かを取り出した。

「これクリスマスプレゼント」

そう言って綺麗にラッピングされ、青いリボンの巻かれた正方形の箱を目の前に出された。

「えっと…」

「別にお返しとかそんなもんいらねぇから、廉は気にせずもらってくれ」

どうしようと戸惑っていれば返事をする前に工藤にコートのポケットに入れられる。

「ちょっ…」

「それ硝子で出来てるから割るなよ」

「硝子!?」

慌てて取り出そうとした手をピタリと止めた。

「そう。スノードーム」

「!?」

それって昨日俺が雑貨屋でちょっといいなって眺めてたやつ?

驚いた顔をした俺に工藤は正解だと言うように満足げな笑みを浮かべた。

「〜〜っ」

その表情にぼんっと顔が一瞬で赤く染まるのが分かった。けれど自分じゃどうしようもなくて。
されるがままにもう一度腕を掴まれて抱き締められた。

「お前可愛い過ぎ」

片腕でぎゅっと抱き締められて、とうとう俺の羞恥は限界を越えた。

「は、離せっ!」

「はいはい」

クスッと笑って工藤は俺の髪をひと撫でして離した。けど…、

「俺、もう帰るからっ」

顔から熱が引かなくて、俺は逃げるようにしてその場を駆け出す。

「廉!コレありがとな!」

その背後から工藤の声が聞こえたけど俺は振り返らなかった。振り返れなかった。


END.


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