X'mas 前編

2008クリスマス企画
前・後編



―12月24日
学校の終業式を終えて帰宅した俺は妹と二人、家でのんびりお昼を食べ、その後片付けをしていた。

「廉兄ぃ、明日ケーキ作るの?」

「ん、作るよ。マスターが店のキッチン貸してくれるっていうから今年は店の方で」

明日はクリスマス。例年通りLarkの仲間でパーティーをやることになっていた。

「工藤さんは?」

「え?何でそこで工藤が出てくるんだよ」

「…廉兄ぃの鈍感」

そう返せば悠はなんだかため息を吐いて俺をジッと見つめてきた。
工藤がどうしたって言うんだよ?
だってLarkのパーティーに呼ぶわけにもいかないし、工藤だって何か用事があるかもしれないし…。
思考に耽りそうになったその時、テーブルの上に置いてあった携帯電話が鳴り出した。

「うわっ!…はい、もしもし!」

『何慌ててんだよ』

笑いを含んだ声がスピーカーの向こうから聞こえる。

「え?工藤?」

『そ。今からちょっと出てこれるか?』

「あ、うん。平気だけど…」

どうしたんだろ?何かあったのかな。

『そうか。じゃぁ、いつもの場所で待ってるから来てくれないか?』

「いいけど…」

そう言って、これから会う約束をして俺も通話を切った。

工藤、待ってるって言ったよな?

俺は携帯をポケットに突っ込み、急いで自室に上がると財布と上着とマフラーを手に階段を降りた。

「悠ー、ちょっと出掛けてくるから留守番お願いな」

「うん、いってらっしゃい!」

リビングから顔を出した悠に手を振り返し、俺は家を出た。

クリスマスムード一色な通りを抜けて見えてきた時計台の下に工藤はいた。

「工藤!」

「お、早かったな。そんな急いで来なくてもよかったのに」

鼻の頭とほっぺたがちょっと赤くなっているの気づいた工藤は苦笑しながらそう言った。

「だって工藤が…」

急いで来たのに笑うなんて!

「はは、悪い。可愛くてつい」

「〜っ」

別の意味で頬が赤く染まった。

「そっ、それより俺に何か用が合ったんじゃないの?」

「そうだったな。じゃ、行くか」

「え?行くってどこに?」

自然な動作で右手をとられ、俺はクリスマスムード漂う街中を工藤と手を繋いだまま歩き出す。
この時、行き先を告げない工藤が気になっていた俺は手を離してもらうのをすっかり忘れていた。
後から思い出して物凄く恥ずかしかったのは言うまでもない。

そして、連れていかれた先は…。

「廉、どれがいい?」

ケーキ屋で、様々なケーキがショーケースに並んでいた。

「うわぁ!」

ガトーショコラにショートケーキ、チョコレート、チーズ、シフォン、フルーツ、モンブランなどなど。

「お前の事だから自分で作るだろうけど、たまには買って食べるのもいいだろ?」

「えっと、…でもなんか悪いよ」

いきなり買ってもらうなんて。
困惑した顔で工藤を見れば、工藤はそんなこと気にすんなと笑い、言った。

「悪いと思うならこの後俺ん家で一緒にケーキ食おうぜ」

「う〜ん、工藤も一緒に食べるなら…」

いいのかな?

頷いた俺に工藤は決まりだなと笑みを閃かせ、好きなの選べよと頭を撫でてきた。

うっ、なんか意味もなく恥ずかしい…。

赤くなりそうになる顔に、俺は意識を反らそうとショーケースをジッと見つめた。
そして、チョコケーキとシフォンケーキ、チーズケーキにモンブランを一つずつ買うことになった。

「俺が買っておくから廉はその辺見てていいぜ。少し時間かかるだろうし」

そう言われて周りを見てみれば来た時より少し混んできていた。

「正面に雑貨屋があるだろ?その辺で待っててくれ」

「ん。分かった」

一緒にいても他のお客さんの邪魔になるしなと頷き返して俺は店を出た。

待っている間、正面の雑貨屋に入ってみたらこの店も他の店と変わりなくクリスマス一色だった。
入ってすぐの右側にはクリスマスツリーがあってカラフルなライトがぴかぴか光っている。
棚には窓に吹き掛けて絵がかけるスプレー缶やらキャンドル、小さなケースに入ったツリー等様々な商品が並んでいた。

「あ、これ!」

その中から一つ掌サイズの置物を手に取った。
軽く左右に振れば中に入っている白い紙が雪の様にひらひらとドームの中で舞う。
ドームの真ん中にはちょこんとスノーマンが鎮座していて、俺はしばらくその光景を眺めていた。

「廉?」

「あ、工藤。もういいの?」

置物を棚に戻して、俺は工藤と一緒に店の外に出る。
工藤は右手にケーキの箱を提げて、左手で俺の手をとった。

「ちょっ、工藤!」

「今日ぐらい良いだろ?」

今日ぐらいって、いつもな気がするんだけど。

「明日は一緒にいられねぇんだし」

「うっ…」

そう言われちゃうと…。
自然と俺の表情が曇った。

「そんな顔すんな。なぁ、廉。明日、パーティーが終わったらメールでも電話でもいいからくれないか?」

「…いいけど何で?」

その言葉に俺は首を傾げ、工藤は前を見たまま続ける。

「今日で我慢しようと思ったんだけどな…。お前に会ったらやっぱちょっとでも会いたくなってきた」

特別な日だからこそ好きな奴と一緒にいたい。
でも、そしたらお前が困るだろ?だから、パーティーの後でいいから少し会えないか?
と、直球で言われ俺は意味を理解してみるみるうちに顔を赤く染めた。

こういう場合どうしたらいい?

恋愛経験ゼロの上、ストレートに想いを伝えてくる工藤に俺はただただ顔を赤く染めて俯くしかなかった。

「あの、その、えっと…」

一人あわあわしていたら隣でフッと空気が揺れる感じがして、繋いでいた手を軽く握られた。

「耳まで真っ赤」

「〜っ」

それは工藤のせいだ!
なんて思っても顔を上げられず、俺は心の中で叫んだ。

「廉が覚えてたらでいいからな」

最後には俺の事を考えてか、優しい声でそう告げられた。

こんなの忘れられる奴がいるのだろうか。

俺は返事をするのも恥ずかしくて、その変わりのように繋いだ手を握り返した。



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