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Side 工藤

待てども当初の目的であったアールとは接触出来ず、俺達は死神のダミーのアジトの一つで死神の連中とやりあうハメになった。

「本当に来やがった」

それもどこからか情報が流れていたらしく、まさしく俺達は何者かの手に寄って罠に嵌められたのだ。
得物を手に襲い掛かってくる男達を相手に大立ち回りを演じ、二度と歯向かわぬよう徹底的に叩き潰してきたが…その姿は到底廉には見せられねぇ。
そしてその内のリーダー格の人間を掴まえ話を聞き出してはみたが、新たな情報は何も得られず。
そうこうしている間に夜は明け、戻って来てみれば店に悠が居て誠から廉が拐われたという報告を受けた。
ソファから立ち上がった悟の代わりに相沢の向かいに腰を下ろす。

「どう言うことだ」

視界の端で悟が一人掛けのソファに座り直し、修平が店内へと出て行ったのを捉えながら俺は相沢と対峙した。

「どうもこうもねぇ。廉が拐われた。相手は…死神だ」

「言い切れるのか」

その根拠は何だ。
返された冷静な眼差しに俺は言葉を重ねる。
相沢はちらりと悟に視線を向けると口を開いた。

「悟サンからアールについて情報を貰った。俺達の持つ情報と付き合わせるとアールの正体は紅だ」

「紅…三年前に解散したチームか。それが今さら何の用だ」

唐突に出てきた名に過去の情報を引き出す。
紅が解散した年といえば俺が前総長からDollを引き継いだ年でもある。
当時から紅は孤高のチームと呼ばれ、死神にNo.2の座から蹴落とされるまでは名実ともにNo.2だった。しかし、馴れ合いを好まないチームの性質からその内情を詳しく知る者は少ない。
それが今になって名を変え復活したとでも言うのか。
相沢の話は続く。

「チーム名のRは多分、Rebirth、Reborn、Revenge、Rematchの頭文字をとってって所だろう」

再生、復活、復讐、再戦…か。

「後は紅[クレナイ]。紅は深紅にすればCrimsonだが単独にすれば赤とも読むし、Red、フランス語にすればRougeだ」

「…仮にお前の言う通りアールが元紅だとして何故今になって動き出す?この話をするってことは何か掴んでるんだろうな」

一度口を閉じた相沢は慎重に、言葉を選ぶ様にしてそのことを口にした。

「紅の…元総長は諏訪 聖だ」

「諏訪が…?」

「あぁ。聖は廉が死神に関わることを最後まで反対して、つい最近一方的にLarkも脱退した。…この先は俺の予想になるが、聖が一番恐れてるのは仲間を壊されることだと思う」

「…それでは、紅は」

「聖は死神の手が廉に伸びる前に潰してやろうって考えてるのかも知れねぇ」

だからアールが廉を拐った可能性は限り無く低い。

「となると問題はどうして廉さんが拐われたか、ですが…」

「悟、理由なんざ後で良い。まずは廉だ。当然捜索にはあたらせてるだろう?」

鋭い眼差しが悟に向けられる。

「はい。修平の部隊に。何かあればすぐ報告するよう言ってあります」

「それで良い。至急健一と純にも連絡を取れ。廉が連れてかれたとなるとどちらかのアジトに何かしら動きがあるはずだ」

「分かりました」

悟が真剣な表情で頷き返し、携帯電話を開いて通話ボタンに指をかけたところで、ボタンを押すより先に悟の携帯は鳴り出した。






Side other

ガツンと頭部に衝撃を受けてよろめく。

「お前…っ」

隼人と悟が話し合いをしていた頃、元はボーリング場、北のホクジョウで死神の動きを監視していた健一は思わぬ人物から襲撃を受けて目を見開いた。

「自分の運の無さを嘆くんだな。俺達ももう手段を選んじゃいられねぇんだ」

建物の影と影の間から射し込んだ陽射しが、翻る紅い髪を一際鮮やかに魅せる。

「諏訪…っ、何でお前が――」

動揺しながらも反射で構えた健一のガードをかわし、聖は表情を変えることなく健一の腹部へと強烈な一撃を打ち込んだ。

「がっ…っ…」

くぐもった声を漏らし、体を九の字に折った健一を横目に聖は堂々とした態度で共に居た数人の仲間に命令を下す。

「計画通り事を運べ。歯向かう奴には容赦するな」

「了解」

「分かった」

「おぅ」

健一は自分が率いてきた数人の仲間が次々と地面に倒されていくのを視界に捉え、カッと頭に血を昇らせる。
片手で腹部を押さえながら、ぎりりと握った拳で聖を狙う。

「てっめぇ、諏訪ぁ!」

怒りに任せて真っ直ぐに突き入れられた拳を受け流し、聖は容赦無く健一を蹴り飛ばした。

「ぐっ…っ…!」

「そう熱くなるんじゃねぇよ」

冷々とした声が落とされる。背後にある背の高い建物に強く背中を打ち付け、膝を着いた健一は痛みに顔をしかめながらも聖を睨み上げた。

「っ…何のつもりだ。んなことして…ただで済むと思ってんのか」

「思ってるさ」

聖は健一の台詞を一笑すると、立てないでいる健一の胸ぐらを掴み上げ、更に一撃腹部へと拳を見舞った。

「ぐぅ…っ…」

「じゃぁな」

痛みに薄れ行く意識の中、健一は最後の抵抗とばかりにキツく聖の腕を握る。その握力の強さに聖は微かに眉をしかめ、健一の意識が落ちたのを確認してから腕から手を外させた。

「馬鹿力め」

赤く跡のついた腕を擦り、聖は踵を返す。
静かになった通りを眺め、看板にホクジョウとカタカナで大きく書かれた建物を見上げ鋭く瞳を細めた。

「行くぞ…」



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