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side 隼人

廉と工藤を残して向日葵への道を歩く。その半歩後ろを矢野がチラチラと後ろを気にしながらついてくる。

「廉さん大丈夫かな…」

心配そうなその声と、後ろにいる仲間達に俺は歩きながら口を開く。

「廉なら大丈夫だ。…むしろ、大丈夫じゃねぇのは聖の方だ。あの馬鹿」

今は聖の方が危うい。荒々しいあの雰囲気は初めて聖に会った日を思い起こさせる。
射抜く様な鋭い眼差し、投げつけられる冷たい言葉の数々。
廉に連れてこられた聖を目にした時、聖を仲間にすると廉が言った時、俺は真っ先に反対した。

「隼人さん。さっき聖さんのこと、…今はLarkの聖だろって言ってたけど、あれどういう意味?」

「あぁ、聖は…」

矢野や廉は知らない。もともと聖は自分の事を話したりしないし、俺が知ってるのはただ本人から聞き出したからで。聖の過去を正確に知っているのは大輔だけだろう。
話をする為に隣に並んだ矢野に、俺は前方を見つめたまま告げた。

「聖は紅[クレナイ]の元総長だ」

「え…?」

バッと驚いた顔で俺を見てきた矢野に、今はただの臆病者だと続ける。

「聖は仲間が壊される事を一番恐れてる。たぶん、廉よりも」

自分じゃ絶対認めないけどな。廉への過保護もきっとそこからきてる。
紅が解散して三年。それは、死神がNo.2の座について三年が経つということ。

「もしかして…」

衝撃的な事実から立ち直った矢野が恐る恐るといった風に口を開く。

「紅が解散したのは死神のせいか?」

「詳しくは知らないが、な」

「じゃぁ、聖さんがあんなに怒ったのも」

「少なからずそれが原因かも知れない」

だからと言って聖の言葉に頷くわけにはいかなかった。
聖の言いたいこともよく分かる。が、Larkの総長は廉であって聖じゃない。

「はぁ…、どうしてこう俺の周りには手のかかる奴が多いんだ」

「えっ、まさかその中に俺は入ってないよな?」

心外だという様に言葉を重ねてきた矢野に、俺は視線を流して言った。

「入ってないと思う方が不思議だ」

「えぇっ、そりゃないでしょ。俺は廉さん達と違って隼人さんに迷惑なんて…」

「遠回しにかけてんだよ。ったく、お前は廉が絡むとやたら甘くなる。何でも聞いてやれば良いってもんじゃないんだぜ」

それは隼人さんだって一緒だろ、と即反論してきた矢野を封じる。

「そう見えるか?」

「ん…?いや…、でも…そうでもないか」

よく考えれば、喧嘩に行く時、いくら廉さんが自分も行きたいと言い募っても、結局店で留守番をさせたりと…副総長の指示は甘くはない。

「分かったらお前も気を付けろ」

甘やかすだけが優しさじゃない。時には突き放しもする。
一重にそんなことが出来るのは、仲間を信頼しているからだ。
お前なら大丈夫、乗り越えられると。
それでもどうしようもなくなった時に手を貸してやればいいのだ。








その後、向日葵には聖を除く仲間が集められた。
その数ざっと五十人弱。
通う学校もちがければ、学年もばらばら。ここが好きで、Larkというチーム、仲間が好きで自然と集まった者達。
俺が集めたのではなく、本当に自然と。何故かやたら腕っぷしの強い人達が集まっているのは謎の一つだ。
俺は先に隼人達に今後のことを相談して、その中で出した結論を集まってくれた仲間達にも告げる。

「ついさっき、死神が動き出したっていう情報をDollの方から得た」

死神という単語に、ざわりと店内が騒がしくなる。

「静かにしろ」

それを隼人が一喝して黙らせ、俺は続けた。

「死神のターゲットはどうやらDollらしい」

その言葉に、緊張で表情を強張らせていた何人かが安堵した様に表情を崩す。

「あの、総長!Dollに協力、するんですか?」

通路側の椅子に座っていた仲間の一人が、おずおずと手を上げ、聞いてきた。
それに俺はふるりと首を横に振って答えた。

「…死神には、向こうが俺達に直接手を出してこない限り、俺達も関わらないことに決めた」

悔しいけど、それが今は一番の良策。

「その方がDollも心置き無く戦えるそうだ」

「なっ!?何だよそれ!俺達は足手纏いってことかよ!」

その答えに、椅子から立ち上がり不満も露に仲間が声を上げた。

「違う、そうじゃない」

気付けば俺は自分でも不思議なほど冷静に、否定の言葉を口にしていた。

「廉さん」

「総長」

不満を露にした者は口を閉ざし、仲間の視線が心配げに向けられる。それを感じながら、俺はもう一度そうじゃないと否定の言葉を口にした。

「Dollは、工藤は俺達が死神に関わらない代わりに街の奴等を守ってくれって」

死神と対峙するとなると街の方に目が行き届かなくなる。
Dollは頂点に立つチームだけあって、街の治安も担っていた。

「俺達は、…LarkはDollを支援する。Dollが心置き無く死神と戦えるように、街の方を俺達が守る」

強く、はっきりと言い切った俺に、隣にいた隼人が優しく笑って頷く。
矢野もしょうがないなぁと苦笑として、陸谷も一つ頷いた。大輔も表情を緩ませ、仲間達もそう言うことなら、とぽつぽつと認めてくれた。

「皆にはいつもと変わらず、ただ少しだけ気を付けて過ごして欲しい。まだ死神がいつ仕掛けてくるかも分からないけど、…頼めるか?」

「了解ッス!」

「分かりました」

「分かった」

「おぅ」

…ばらばらと返事が返ってきて、俺は嬉しくなって笑みを溢す。

「ありがとう皆!」

ピンと張っていた空気がふんわりと緩み、

「総長。聖には俺から話しておくよ」

「うん。お願い大輔」

ゆるりと再び流れ出した空気がいつもの日常へと流れだす。
死神対策の一つとして、しばらく工藤と顔を会わせることは出来ない。電話やメールはすると工藤は言っていたけど。
…工藤と知り合う前の日常に戻るだけだ。

「…大丈夫」

何が大丈夫なのか分からないまま俺は胸元を押さえ、まだ明るさを残す外に視線を移した。

もうすぐ本格的な熱い夏が始まろうとしていた。



騒がしい日 end


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