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Dollの拠点から離れ、聖に背を押されながら足を進める。
真っ直ぐ前を向いて歩く隼人の背に俺はグッと込み上げてくる感情を抑えて声をかけた。

「何で…、俺は間違ってるのか?」

「廉さん…」

聖とは逆側、俺の左横を歩く矢野が心配そうに見てくる。
後ろには一緒についてきた仲間が、俺達の間に流れる空気を感じてか困惑した表情を浮かべつつ付いてくる。

「隼人、俺は…」

振り返らない隼人に俺は再度口を開いた。

「廉」

それを隼人が遮り、足を止めて振り返る。

「俺は別に協力しないとは言ってない」

「おい隼人!何言ってんだ!俺は反対だぜ」

隼人の言葉にすぐさま聖が鋭い声で反論する。

「じゃぁ…!」

「待て。だからって賛成ってワケでもねぇ」

ジッと隼人の真剣さを帯びた目を見つめ、俺は口を閉ざす。

「廉。お前のその判断は総長としてか?それとも…廉個人としてのものか?」

「え?どういう…」

「隼人!」

「お前は黙ってろ聖」

隼人はいつも俺を助けてくれて、意味の無い事なんて言わない。時に聖より冷徹なとこもあるけど、それもみんな仲間の為で。
俺はそこでやっと冷静になれた気がする。
工藤に協力するということは、自分だけじゃなく仲間を、Larkを動かすということ。
仲間を、危険に曝すかも知れないんだ。でも、それでも…

「俺は…知ってて、見て見ぬふりは出来ない。隼人は怒るかも知れないけど、俺は一人でも…」

「馬鹿廉。一人でなんて尚更行かせるわけねぇだろ」

お前のその想いは揺らがないんだな。
後は奴の行動次第で協力してやろうじゃないか。
ふっと真剣な表情からいつもの穏やかな顔に戻った隼人に、俺も肩から力を抜いた。
しかし、問題はまだ解決していない。

「隼人、てめぇ…」

俺の隣にいた聖が、大きく前へと足を踏み出したかと思えば、いきなり隼人の胸ぐらを乱暴に掴みあげた。

「聖!?何してんだよ!」

「っ、聖…」

隼人より聖の方が数センチ背が高く、ギリッと力の入った手に隼人が苦しげに眉を寄せる。

「知らねぇわけじゃねぇだろ。死神のやり方を。どこまでも卑怯な、腐った連中だ。そんな奴等の中に廉を放り込む気か?」

射ぬく様な鋭い、到底仲間に向けるようなものではない殺気を乗せた瞳が隼人へ向けられる。

「聖さん、隼人さんは…」

「慎二、お前もコイツと同意見か」

仲裁に入ろうとした矢野を一瞥し、聖は掴んでいた隼人の胸ぐらを突き放すようにして手を離す。
そして、酷く冷めた眼差しで俺を見た。

「廉、俺はしばらくLarkには顔を出さねぇ。下手に顔合わせて手が出ると困るだろ?…じゃぁな、精々頑張れよ」

「聖っ…!」

ひらりと、片手を振って背を向けた聖に、かける言葉が見つからない。
雑踏の中へと姿を消した聖に、隼人が苛立ったように低く吐き捨てた。

「お前はもうLarkの聖だろうが」

Larkが結成して間もない頃、一つのチームが消滅した。
構成人数は不明。
当時No.2とされながらも突然解散した、
緋色の髪を靡かせ、畏怖と尊敬を込めてその名を呼ばれた総長がいた。
チーム名、紅[クレナイ]
今は無き…。


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