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工藤のその一言で、だれていた修平も、人数分の飲み物を運んできた健一も瞬時に表情を真剣なものへと変えた。
緩んでいた空気がピンと引き締まる。
その中心にいて、この空気を作り出した工藤に自然と皆の視線が集まった。

「工藤…?」

いつもは廉、と柔らかな光を称えて向けられる瞳が、今はその欠片すら見当たらない。

「奴等が動き出しました」

「そうか…。誠はどうした?」

「まだ気になることがあると言ったので、他二名を付けて置いてきました」

相手を射ぬく様な鋭い眼差しに、えも言われぬ雰囲気。
これが…Dollの総長なんだ。
初めて見る、工藤の総長としての一面にドキリと鼓動が脈打った。
別段、怖いという感情は浮かばない。

「準備期間が終わったってとこか。俺達はどうすんだタカ?」

「………」

健一から投げられた問いに工藤は何か考える様に沈黙した。
それにしてもいったい何の話をしてるんだろうか?
俺達の前でするってことは隠すような話でもなさそうだけど。聞いても良いのかな?
迷った末、チラリと隣の隼人を見上げる。すると、見上げた先の隼人は工藤達のやりとりを耳にして険しい表情を浮かべていた。

「おいっ」

そこへ聖が不機嫌な声で割って入る。
張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ気がした。

「てめぇ等だけで完結してんじゃねぇよ」

聖に続き、隼人も口を開く。

「奴等って、死神の話だろ?こっちでも探りは入れてるんだが、代替わりしたところであまり良い話は聞かねぇな」

死神、そのチーム名に俺も眉を寄せた。…たしか自分のとこの総長を副総長が倒して、代替わりしたって聞いたな。新しい総長の名前は白木(シラキ)。卑怯な事も平然とやってのける、実力はどうか知らないがこの辺ではDollの次に強いとされる実質No.2のチーム。

「その死神が動き出したってことは、狙いは俺達かアンタ達。…どっちだ?」

矢野がいつになく真剣な目で悟に問いかけた。
けれどそれに答えたのは悟では無く、沈黙を保っていた工藤だった。

「安心して良い。…それと、お前等はもう帰れ。暫くここには近寄るな」

「―っ、それって。工藤!」

狙われているのはやはりDollの方か。

「悟、誠を呼び戻せ」

声を上げた俺に視線すら向けず、工藤はソファから立ち上がると悟に指示を出す。

「工藤!死神とやるなら…」

「止めろ廉」

俺の言葉は、いつの間に側に来たのか聖の手によって遮られた。
口元を覆った掌の主を、俺は睨むように見上げる。
どうして?俺達はもう仲間だろ?

「チッ、俺に言わせんのかよ。……………仲間だからだろ…、一応」

それ以上の事は言わねぇと聖は口を閉ざす。
違う。仲間だからこそ、協力し合うべきじゃないのか?
俺は何も言わない隼人に、視線で訴えた。
しかし、

「帰るぞ廉」

「――っ」

どうして?
返ってきた隼人の言葉が信じられなくて、目を見開く。

「悟サン。…またな」

隼人がいつの間にか永原さんを名前で呼んでいたのにも気付かず、俺は聖に背を押されるがまま部屋を後にする。
その時、工藤が一瞬俺へと視線を向けたが、背を向けていた俺はそれに気付かなかった。
そしてパタンと静かに扉は閉められた。

「………」

「良かったんですか貴宏?廉さんは…」

ふぃと、閉められた扉から視線を外した工藤は悟の言葉に眉を寄せ、低い声で返す。

「良い。分かってるから言うな」

廉はきっと力を貸すと言ってくれる。それは正直言って嬉しい。けど、
相手は死神だ。一筋縄じゃいかねぇイカれたチーム。
ある意味、死神とLarkは対極の位置にあるチームと言って良い。
死神総長の話を聞いただけで眉を寄せていた廉を、本人と引き合わせることに抵抗があった。

「俺もタカに同感だな〜。向こうの、諏訪って言ったっけ?あのナイトも姫をこの件から遠ざけるつもりみたいだし〜」

「はぁ…、しばらく廉ちゃんに会えないのか。つまんないな…」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ修平!工藤さんの危機だぞ!」

ぼやく修平に今まで気を聞かせて黙っていた純が思わず突っ込む。
ばたばたと騒がしくなった連中を尻目に、悟は工藤の目の前に立った。

「何が良い、なんですか?ちっとも分かってない癖に、勝手に分かったフリするなよ。話も聞かないで相手の気持ちが分かると本気で思ってるんですか」

「悟…。お前はいったい誰の味方なんだ」

「俺は俺の味方です。そんなことより、貴方の口は何の為に付いてるんですか。廉さんを傷付ける為ですか?」

「そんなわけねぇだろ」

その逆で、守る為に突き放した。


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