08


そんなやり取りがされているとは露知らず、悠と一緒に家に帰った俺は、まだ何処か納得のいかない気持ちを抱えたまま自室のベッドに転がった。

「う〜ん…」

やっぱり変だ。おかしい。何がって聞かれても答えられないけど、何かがおかしいんだ。
ごろごろ転がっていたベッドから起き上がり、机の上に置いた携帯電話を手に取る。
パチンとフラップを開いて、工藤の番号を呼び出した。

「…だからって電話してどうするんだ?」

ジッと十一桁の数字の羅列を見つめること数秒、俺は思いきってボタンを押した。

「あ、工藤?あのさ…」

しかし、繋がったと思ったらすぐ留守番サービスに切り替わってしまう。

「…俺の気にしすぎかな?」

繋がらなかった電話を言い訳にして、俺は伝言も残さずそのまま通話を切った。
そして再び携帯を机の上に戻すとベッドに転がり天井を見つめた。

「でも、良かった。喧嘩にならなくて…」

先程までいた体育祭を思い出せば笑みが溢れる。

「うん。楽しかったな」

朝が早かったせいか、転がっていれば段々と瞼が重くなる。

「ふぁっ、……ん。ちょっとだけ…」

瞼が下りきると、部屋には寝息が一つ、すやすやと聞こえるだけになった。






「んぅ…?」

目覚ましじゃない聞き慣れた音が何処からか聞こえる。
何だっけコレ?
夢現で、うとうとと考えている間にその音はピタリと止んだ。
静寂を取り戻した空間に、意識はまた落ちていく。

「ん……」

その時、寝返りを打った視界の端にピカピカと光る物を見つけた。

「……あ…携帯」

誰からだろ?
気になって、眠い目を擦りながらゆっくりと体を起こす。
ベッドから下りて、携帯電話を手に取った。

「電話…、工藤からだ」

眠気の覚めやらぬまま、俺は迷わずリダイヤルボタンを押す。相手は三コール目で出た。

『…はい、もしもし』

「あ、工藤?」

『廉?どうした?』

「どうしたって工藤が電話してきたんじゃ…」

そこまで言って目が覚めた。あっ、俺が先に電話したんだ。

『ん?廉が電話くれたからかけたんだけど…』

「ごめん、そうだった。ちょっと今寝てて寝ぼけてたみたい」

恥ずかしい。何やってんだろ俺。
ベッドに腰掛け、熱を持った頬を押さえる。

『いやそれはいいけど、何かあったのか?』

「え?何かって…」

『お前が俺に電話してくるの初めてだし、まぁ俺としては嬉しいけど、何かあったのかって思ってな』

そうだっけ?と言って首を傾げ、用件を考える。
思いきって電話してみたものの何を言えばいいんだ。
言葉が続かなくて、黙っているとふっと柔らかさ帯びた声が鼓膜を震わせた。

『寂しいのか?』

「寂しい?」

『俺の声が聞きたくて電話して来たんだろ?』

「なっ、何言ってんだよ!俺は別にそんなっ!!」

『そうか?残念だな』

ますます熱くなった頬に、工藤が今ここに居なくて良かったと思う。いたらきっとからかわれる。
俺は小さく深呼吸して、平静を装って口を開いた。

「よ…用が無いならもう切るよ」

『そうだな、…廉』

「何?」

『お前なら別に用がなくてもいつでも電話して来ていいぜ。会いたいとか、デートの誘いもいつでも歓迎だからな』

顔が見えなくても、ニヤリと電話の向こうで工藤が笑ったのが分かる。

「〜〜っ!?」

俺は一瞬で顔を真っ赤にし、耳から携帯を離すと通話口に向かって言い返した。

「工藤の馬鹿っ!もう電話なんかしないからなっ!」

そしてブツリと通話を切った。

「っ、恥ずかしい奴…」

携帯を握ったままボスンとベッドに倒れ込む。
布団に顔を埋めて、顔から熱が引くのを待った。
寂しい?
…そうなのかもしれない。でも、だからって工藤の声が聞きたかったわけじゃ、
ない…と思う。

「う〜っ、何で俺、工藤に電話したんだろ…」

ちょっと前の自分の行動が分からない。


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