05


お昼を食べて少し眠くなった頃、午後の部が始まった。
そして何故か、午前中よりも観客が増えていた。

「廉さん、午後一の種目って分かりますか?」

そう悟に聞かれて俺は手元にあったプログラムに視線を落とした。

「ん〜、応援合戦…?」

「あぁ、アレか。通りで人がうぜぇはずだ」

聞いていたのか聖がブルーシートに座ったまま吐き捨てる。

「諏訪は人混みが嫌いなのか?」

「ちょっと違うかな。聖は自分の好きな奴と気に入った奴しか自分のテリトリーに入れないんだ。それ以外は、ほら視界にも入れない」

何だかんだ言って聖と工藤の間には大輔が立っていた。
ふぁっ、と一人マイペースに欠伸を溢す聖に悠が近付く。

「聖兄ぃ楽しくないの?」

「まぁまぁだな」

自分の心に正直な聖は悠が相手でも誤魔化したりしない。
しかし、それを聞いてへにょと悲しそうにしょげた悠の頭に聖は手を乗せた。

「別に楽しくないわけじゃねぇぜ。それに俺の事より隼人達の格好良い姿でも見て来い」

くしゃりと悠の頭を撫ぜ、その背を俺の方に押す。
いつもの聖だ。意地悪だけど本当は優しいことを俺は知っている。
グラウンドに音楽が流れ出し、学ランを着た生徒が数人グラウンドの端から走ってくる。
そして、

「「うわぁ〜〜!!」」

「「きゃぁーー!!」」

地面に両手をつき、勢いを殺さぬままテンポ良く側転からバクテンと技を披露する。最後に高く跳躍し、綺麗に着地した。
顔を上げてニッと笑ったその中に見慣れた姿がある。

「隼人!?それに陸谷も!」

「うわぁ〜、皆かっこいい!!」

それに続いて学ランを着た生徒とチアリーダーの格好をした女子生徒が出てくる。
手にはチームカラーを表す赤色のボンボンが両手に握られていた。
音楽に合わせて赤い波が動き出す。

「これが応援合戦か…。凄いな」

赤組から白組へとチームが変わり、次々とアクロバティックな技やダンスを披露する応援合戦に俺は目を奪われた。

「あっ、矢野だ!格好良い〜。凄いね、工藤!」

「…そうだな」

グラウンドの方をジッと見つめていた俺の隣で工藤はどこか複雑そうに頷いた。
俺の後ろにいた仲間達も一瞬妙な表情を浮かべ、静かになる。
応援合戦に夢中だった俺はその妙な空気にまったく気付かなかった。
応援合戦が終わり、学年別リレーに移る。
学ランからジャージに着替えた隼人達が戻って来た。

「どうだった廉?」

「みんな凄い格好良かった!」

「そうか」

隼人はふっと笑みを溢して俺の頭を優しく撫でた。

「で、お前等は何不機嫌になってるんだ?」

「隼人さん達ばっか狡いっすよ〜」

「俺等も総長に格好良いとか色々言われたいのに…」

後ろから聞こえた仲間達の声に俺は振り返る。

「ん?皆も格好良いよ。ショウもケイも背高いし、羨ましい」

声を上げた仲間を見上げ、俺はそう返した。
実際にLarkに入っている面々は中々整った容姿を持つ人間が多かった。

「そ、そうですか!?嬉しいっす!」

「総長〜!」

感激のあまり抱きつこうとしたケイを仲間が腕をつかんで引き留める。

「狡いぞショウ、ケイも!お前等廉さんに…」

「バーカ、総長はお前だけじゃなくて皆って言っただろ!」

途端わいわいとうるさくなった仲間に隼人が呆れたように言った。

「ほら、こんなとこで騒いでねぇで仲間の応援しろ」

散った散った、と追い払う隼人を悟が苦笑して見ていた。

「隼人さんも大変ですね」

「ん?まぁ、いつもの事だし」

その間、俺は工藤に腕を引かれ二人の会話を聞く事はなかった。
掴まれた腕の先を見上げ俺は首を傾げた。

「工藤?どうかした…?」

何も言わずジッと俺を見つめてくる工藤に何だかだんだんと落ち着かない気分になってくる。

「廉」

「はいっ」

「俺のことはどう思う?」

暫く何か考えた様子の工藤はそう言ってきた。

「え?…どうって…」

「格好良いと思うか?」

「う…ん」

何故だか仲間には普通に言えた事が工藤には言えない。
それに逆に聞かれた俺の方が恥ずかしくなって、俺は小さな声で頷き返した。

「そうか…」

すっと離された腕が重力に従って落ちる。

「でも、そんな簡単に他の人間を格好良いって褒めるなよ廉」

「…何で?」

格好良いから格好良いと普通に思った事を口にしただけなのに。
俺の思っている事が分かったのか工藤は真剣な表情から一転、ニッと悪戯っぽく口端を吊り上げて言った。

「俺が妬くから」

「妬くって…」

「嫉妬するって事だ」

「っ!?何言ってんだよ!!」

ふっと笑った工藤を俺は顔に熱を集めたまま睨み付けた。

「本当だぜ?」

そう告げた工藤が嘘を言っている様にも見えなくて、俺はドキドキと鼓動を速まらせながら顔を反らした。

「〜っ、そんなの俺、知らないから!」

顔を反らした、視線の先にいた聖の元へ俺は逃げるように足を進めた。








Side 聖

工藤と話していた廉が顔を赤くさせて駆け寄って来る。
何だ、とそちらを見やれば廉の後ろで工藤が優しげな表情を浮かべ、廉を見つめていた。
その瞳が工藤の、廉へ向ける想いを雄弁に語っていた。
俺は眉を寄せ、側まで来た廉の腕を掴んでブルーシートの上に座らせる。

「わっ!?なっ、なに?」

「お前さ、工藤のことどう思ってんだ?」

好きか嫌いか。
その辺をはっきりさせとこうと聞いたのだが、廉は俺の予想に反してみるみるうちに顔を赤く染め慌て出した。

「ひ、聖までそんなこと聞くなよ!」

「あ…?」

バッと掴んでいた俺の手を払って廉は、隼人ーと言いながら駆けて行ってしまう。

「廉!……チッ」

隼人にばっかなついてんな。
俺は仕方なく廉を見送り、ゆっくり立ち上がる。
そして、ブルーシートから下りて一人残された工藤に声をかけた。

「おい」

「何だ?」

工藤はすっと表情を改めて俺を見た。

「体育祭が終わったら顔貸せ、話がある。…一人で喫茶店、向日葵(ひまわり)まで来い」

向日葵はいわばLarkのアジトである。
廉とその仲間であるLarkと敵対はしないと公言したコイツが本当に一人でLarkのアジトへ来るか、俺は試した。

「分かった」

しかし、工藤は警戒心すら見せず何でも無いことのようにすんなりと頷いてみせた。
コイツ、本当にDollの工藤か?噂と随分違う…。


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