03


開会式は俺達が着く前にすでに済んでおり、最初の競技、男子100m走に出場する方は〜、と集合するよう放送がかかった。

「あ、俺行かなくちゃ」

「俺もだ。廉さん応援よろしく」

白いハチマキをジャージのポケットから取り出した修平と、同じ色のハチマキを手首に巻いた矢野がそう言う。
白いハチマキって事は二人とも同じチームらしい。
良く見ると隼人と陸谷、純は同じ赤いハチマキ。
誠は黄色、健一は青色だった。
俺は競技に出場するという二人に頑張って、と声をかけ見送った。

「廉、俺達一度クラスの方に戻るけど大丈夫だな?」

「え?うん」

陸谷と話していた隼人にそう言われ、俺は頷く。

「でも、その前に聖。ちょっとこっち来い」

隼人に呼び寄せられ聖は眉間に皺を寄せたままゆったりとした動作で隼人の側まで行く。
なんだろ?

「なぁ廉。アイツ、諏訪っていつもあんな感じなのか?」

こそこそ話し出した二人を見ていれば、同じ方向を見ていた工藤が口を開く。
あんな、ってさっきのことかな?それなら…

「ん〜、いつもはもうちょっと優しい、…と思う。何か今日は朝からあんまり機嫌がよくないみたい」

いつもより意地悪だと俺は感じた。
そうか、と頷いた工藤は一人納得したような表情を浮かべ聖達の方を見ていた。

「廉兄ぃ」

「ん、どうした?」

「健ちゃんにコレ貰っちゃった」

服の裾を引かれて、悠を見ればその掌に綺麗にラッピングされたクッキーが乗っていた。

「え?」

この場には不似合いなソレに俺は首を傾げた。
どう見てもプレゼント用な、差し入れとはまたちょっと違うモノ。
そう言えば先程から健ちゃんが静かだなぁ、と健ちゃんを探して見れば…。

「何あれ?」

俺は隣にいた工藤の服を軽くくい、と引き顔は健ちゃんの方へ向けたまま間の抜けた声を出した。

「何やってんだアイツは」

同じくそちらに視線を移した工藤からは呆れたような声が発せられる。
俺達の視線の先、健ちゃんは色分けされた応援席の真ん中に居て、敵味方関係なく女生徒に囲まれていた。
そして、悠の手に乗る綺麗に包装されたクッキーと同等の物が次々健ちゃんに手渡されていた。

「健一先輩ってチャラい見た目に反してフェミニストだから結構モテるんだよ」

疑問に答えてくれたのは、意外と毒舌だった純だった。

「相沢も矢野も陸谷も同じ」

純の説明に付け足すように誠が言い、純は更に続ける。

「坂下だって学校で何か貰ったりするだろ?」

う〜ん、お裾分けって言って先輩達がお菓子くれたりするけどそれは別にプレゼントじゃないし違うな。うん。

「貰ったことなんてないよ」

だから俺は首を横に振って否定した。
すると何故か皆は、え?と驚いた表情を浮かべた。

「え?何その反応。だって俺、工藤達と違って別に有名じゃないし普通だから」

そう続ければ皆は益々信じられないものを見た、みたいな顔になった。

「坂下って天然?」

「…無自覚。危ない」

「なんていうか廉らしいっていうか…」

ジッと俺を見つめて言う純の横で誠が真剣な表情と声で言い、工藤は俺を見下ろして苦笑した。

「総長、慎二の奴走るみたいですよ。応援するんでしょ?」

グラウンドの方を眺めていた大輔がそう言って教えてくれた。

「もう?早いね」

俺は悠を連れて大輔の隣に並んでスタート地点を見やった。
それから後ろでわいわい騒いでいる仲間達にも応援するぞー、と声をかけた。
自分が走るワケじゃないけどワクワクしてきた。
スタートラインに並んだ選手がスッと前を見据える。
そして、スターターがパァンと引き金を引いた。
向こう側から俺達のいる方へ選手が走ってくる。
その時、応援席の前を通過するのだが…凄かった。
応援席にずらりと並んだ生徒、男女関係なくわぁわぁと応援が凄かった。
俺達も似たようなものだったけど。
第一競技からグラウンドは盛り上がりをみせ、体育祭が始まった。
競技が始まった事で隼人達青楠の生徒はバラバラと自分のクラスや集合場所、応援席に戻ってしまい朝いたメンバーがそこに残された。
そこで俺はなんとなく聖と工藤を一緒にしたらダメな気がして聖の側に大輔をつけておくことにした。

「大輔ー、昼までに聖の機嫌直しといてよ」

お昼は皆で楽しく過ごしたい。

「え?俺が?無理だよ。総長ならいざ知らず」

「俺でも無理だよ。だって俺がいたらもっと機嫌悪くなったし」

気づかない内に俺何かしたのかな?いやでも朝から悪かったし。夢見でも悪かったのかな?それとも変な物でも食べたとか…?

「それは工藤が側に…」

「ほっとけよ。諏訪だって馬鹿じゃない。その内元に戻るだろ」

大輔の言葉を遮って工藤が言う。
その視線の先には、隼人に何を言われたのか先程から沈黙を保ち、グラウンドの方をジッと眺めている聖。

「貴宏の言う通り今はそっとしておいた方がいいと思いますよ?それに…」

と、悟は不思議そうにきょろきょろしている悠に視線を向けた。

「!そうだね。応援しに来たんだし、楽しまなきゃ」

俺は悠に笑いかけ、健ちゃんに貰ったというクッキーを後で食べような、と言ってお弁当の包みの隣に置いた。
お兄ちゃんとしてしっかりしなきゃ。


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