02


正門には工藤の他に悟と健一が待っていた。

「やっ!姫〜」

健一はヒラヒラと右手を俺達に振ってきた。
それを悟が隣で恥ずかしいから止めなさい、と呆れたように言い、工藤はこちらをジッと見ていた。
俺の自意識過剰かもしれないけどその視線が俺に向けられているような気がして、俺は少しだけ視線を横にずらした。
だってなんか…。

「誰だあの馬鹿っぽい奴」

そんな事を考えていたら前を歩く聖から容赦無い声が聞こえた。
馬鹿っぽいって…、健ちゃんは聖より一つ年上だぞ。

「どうも初めまして。今日はよろしく」

対面した大輔がにこやかにそう切り出し、友好的に接するのを見て俺は正直少しホッとした。

「いいえ、こちらこそ」

それを受けて悟は柔らかく微笑む。
が、それとは逆に俺から視線を離した工藤と俺の前に立つ聖の間には何故かピンとした張り詰めた空気が…。

「………何で?」

首を傾げる俺をよそに聖が不遜な態度で挨拶をする。

「どーも。うちの廉が世話になったみたいで」

「いや、別に。お互い様だろ。俺も廉には色々世話になってるしな」

二人は普通に会話を交わしているだけなのに何でか俺はひやひやした。
先頭を健ちゃんが、隼人達のいるグラウンドに案内するように歩く。
後で聞いたら健ちゃんは青楠高校の三年生だって教えてくれた。

「そっか、キミが姫の妹か〜。可愛いね〜」

「うん。悠っていうの!」

きょろきょろと周りを珍しそうに見回していた悠は健一に頭を撫でられ、ちょっとびっくりしてから照れたように笑った。

「健ちゃんって子供好きなのか?」

「アイツにも弟と妹がいるからな。慣れてるんだろ」

その微笑ましい光景に俺も口元を綻ばせた。
んだけど…、
後ろからチクチクと刺さすような視線を感じて俺は振り返った。

「……?」

するとふっとその視線は消えて、後ろを歩いている仲間達がにこにこと笑って手を振ってくる。
う〜ん、俺の気のせい?
俺は首を傾げつつ手を振り返した。

「おい、廉。馬鹿なことしてねぇで前向いて歩け」

そしたらいつの間にか隣にきた聖に頭を掴まれて前を向かされた。

「ちょっ、聖!」

「諏訪」

俺が慌てて聖の手を外そうとすると、逆隣から工藤の咎めるような鋭い声がとんだ。
工藤…?
いつになく堅い声音に俺はきょとんとして、工藤の方を見ようとしたが頭に乗った聖の手がそうさせてくれなかった。
聖は工藤の視線を受けて、僅かに瞳を鋭くする。
俺は沈黙した二人の間で何がどうなっているのか分からずただオロオロと視線をさ迷わせた。
本当どうしたんだよ二人とも…。
暫く睨み合った聖は、どこかつまらなそうにフンと鼻を鳴らして俺の頭から手を退けた。

「コイツのお願いさえなけりゃ潰してるとこだぜ」

「俺は今日でなくてもお前と、廉の仲間とやりあう気はない」

元の声色に戻った工藤は聖から視線を俺に移し、表情を和らげた。

「廉が悲しむ事はしない。諏訪、お前は違うのか?」

視線をさ迷わせていた俺は、何とかしてくれそうな人物を見つけて声を上げた。

「隼人!」

自由になった俺は工藤と聖の間から抜けて、隼人に駆け寄る。

「廉?どうした?」

赤いハチマキを手に、紺のジャージ姿の隼人はどこかいつもと雰囲気が違って見えた。

「廉さん、来てくれたんスね」

「へぇ、珍しい。聖と大輔も来たのか」

隼人の横には同じく赤いハチマキを持つ陸谷と白いハチマキを持つ矢野がいて、俺は何だか少しホッとした。

「廉ちゃん、数日振り!」

和んだのも一瞬、少し離れた緑のジャージ集団の中からそう言って修平が飛び出してきた。
廉ちゃん、と叫んだ修平に矢野と陸谷、後ろから来た聖が眉を寄せた。

「廉兄ぃ、知り合い?」

そして、健一から離れ近寄って来た悠に袖を引かれて俺はまぁ、と頷き対応に困ってチラッと工藤を見た。

「修平、ちょっとこっち来い」

「へ?あっ、工藤さんおはようございまーす。て、あれ?」

そしたら工藤は修平の腕を掴んで少し離れた場所に連れていってしまった。
それを健ちゃんがシュウの奴馬鹿だね〜、とか大笑いしていた。
俺、まだ健ちゃん達の事がよく分からないや…。

「廉さん、河野と仲良いんスか?」

首を傾げた俺に陸谷が工藤達の方を見ながら聞いてくる。
河野って、えっと…修平さんのことか。

「ん〜良く分かんない。だって今日入れてまだ二回しか会ってないし」

「そうッスか」

うん、と頷いた俺の頭を矢野がポンポンと叩いてきた。

「…どうしたの?」

「ん、なんとなく」

変なの。何か皆いつもとちょっと違う気がする。どこがって聞かれても答えられないけど、そんな気がした。

「すいません、遅くなりました」

続いて、赤いジャージを着た純と隼人達と同じ色の紺のジャージに身を包んだ誠がやって来た。
誠は同学年の隼人達とは顔見知りらしく、交わされる挨拶も気軽なものだった。
さぁ、これで皆揃った。
それぞれ軽く挨拶を交わして、って言っても聖以外みんな名前と顔は知ってたみたい。
俺、総長なのに知らなかったんだけど…。と、少し凹んだ。

「廉、ほらこれ。体育祭のプログラム。見るだろ?」

心なし落ち込んでいれば隼人に肩を軽く叩かれオレンジ色の紙を渡される。

「あっ、ありがと」

「あんま気にすんな。お前はそのままでいいんだから」

どうやら隼人には気づかれていたらしい。
俺は苦笑してうん、と頷いた。

「廉、相沢。とりあえず場所移動しようぜ」

「ここにいたら他の人達の邪魔になりますしね」

工藤と悟がそう言い、俺達は頷いて場所を移す事にした。
ぞろぞろとグラウンドの端、応援席になっている一角に持ってきたブルーシートを引いて陣取る。

「…何か物凄く見られてる?」

俺の気のせいじゃなければ青楠高校の生徒達がこっちをちらちら見ている気がする。

「そりゃぁ、これだけ有名なメンバーが集まってれば皆見るだろ〜」

「ちっ、うざってぇ」

有名?あ〜、そっか。Dollは有名だもんな。
で。聖、今のは周りに舌打ちしたの?それとも健ちゃんに?

「体育祭となるといつもより多いな」

「そうッスね。俺が蹴散らしてきましょうか?」

それで、隼人と陸谷はいったい何の話をしているんだろう?

「廉さんも視線を集めている原因だって本人は知らないんですか?」

首を傾げた俺を見て、悟が大輔にそんな事を聞いていたのを俺は知らない。

「それがうちの総長の可愛いところだよ」



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