01


とうとう来てしまった。青楠(セイナン)高校、体育祭の日。
俺は朝早くからキッチンに立ってお弁当を作った。
飲み物もバッチリ用意して、妹の悠と仲間の待つお店へと向かった。

―カラン、カラ〜ン

「おはよ〜」

「「「おはようございます!!」」」

扉を開いて中に入れば先に来ていた仲間達が出迎えてくれた。

「廉さん、荷物重いだろ?俺が持ってくよ」

「う〜ん、これぐらい大丈夫だよ」

「いやいや、廉さんが良くても俺達がダメだから」

そう言って手に持っていた大きい紙袋と水筒を持っていかれた。

「持ってくって言ってんだから持たしてやれ」

カウンター席に座っていた、後ろ髪の長い紅髪の男がやれやれといった様子でクルリと振り返った。

「あ、聖!聖も来てくれたんだ。久しぶり〜」

諏訪 聖、矢野達と同じLark幹部の一人だ。
聖はLarkの中で一番ミステリアスな人物で、フラッと気が向いた時だけ現れ、いつの間にか消える。
悠を仲間達の方に行かせて、俺は聖の隣に座った。

「隼人に聞いたぜ。またやらかしたんだってな」

「うっ、久しぶりに来てそうそう人聞きの悪い事言わないでよ。俺は別に何もしてないし」

話を反らそうと俺は久しぶりに来た聖に今日は気が向いたの?と聞いてみた。
そしたら普通に話を振ったはずなのに何故か聖は眉間に皺を寄せた。

「聖…?」

「後から大輔の奴も来るって言ってたぜ」

「え!大輔も来てくれるんだ!!」

杉本 大輔、同じくLark幹部の一人。
皆が集まるのは本当に久しぶりで、一ヶ月振りぐらいかな?嬉しくなってそっちに気をとられた俺は聖が眉を寄せて難しい顔をした理由を聞きそびれた。
いつも聖か大輔のどっちかがいないから中々集まらないんだよね。
っていっても大抵聖の方が高確率で来ないからなんだけど。

「それで、工藤の奴とは何時に待ち合わせてんだ?」

「えっと、十時に青楠の正門。…って、えぇ!?何で俺が工藤と待ち合わせてんの知ってんの!?俺誰にも言ってないのに!」

もちろん、隼人にだって言ってない。その、こっ、怖くて。
それが顔に出ていたのか聖はしれっと言い放った。

「隼人は知ってるぜ」

「!?」

「その為に俺と大輔が呼ばれたようなもんだしな」

何それ…?俺、何にも聞いてないよ?
ジッ、と説明を求めるように視線で促せば聖はくっ、と急に声を殺して笑い始めた。

「なっ、何だよ!」

俺は真剣に聞いてるのに!!

「変わんねぇな、すぐ顔に出るとこ。くくっ、誰もお前を仲間外れにしようと思っちゃいねぇから安心しろ」

そう言って髪をクシャっと軽く掻き混ぜられた。

「ほら、大輔が来たぜ」

そう言って扉の方へ視線を向けた聖に俺も釣られてそっちを見た。
するとちょうど扉が音を立てて開き、明るい茶髪が視界に飛び込んでくる。

「大輔!」

「総長、久しぶり」

大輔はにこっと笑いながら俺の隣に座った。

「久しぶり。じゃ、大輔も来たし説明してよ聖」

中途半端になっていた話を、誤魔化されないうちに引き戻した。

「説明?」

それに来たばかりの大輔は話が見えず首を傾げる。

「そう。聖がさ、聖と大輔が来たのは俺が工藤と会う約束をしてるから、とかなんとか…」

「あぁ、その話か」

ふむ、と納得した大輔に俺は、だから何でかって聞いたのと続けた。

「それは…」

「ただ単に顔合わせだ。Dollの奴等と仲良くするんだろ?だったら幹部の俺等も顔合わせしとかねぇと話になんねぇぜ」

大輔の言葉を遮って聖が言う。
確かに。青楠にはDollメンバーもいるって聞いたし良い機会かも。隼人もそう思ったから集めたのかな。

「なんだ、それならそうと勿体振らずに言ってくれればいいのに」

聖が中々言わないから他に何かあるのかと思った。
ほっ、と安心した俺の横で大輔が聖をうろん気な眼差しで見つめる。

「おい、あんま総長苛めんなよ」

「苛めたつもりはねぇぜ。可愛がっただけだ。なぁ、廉?」

くっ、と口端を吊り上げて俺を見た聖に俺は勢いよくブンブンと首を横に振った。
あれは俺にたいする苛めだ。

「聖なんか置いて俺と行きましょ、総長」

そう言ってスッと立ち上がった大輔に手をとられた。








Side 聖

チラッ、と俺達の後ろを妹と仲良く手を繋いで歩いている廉を見る。
さらにその後ろには仲間達がワイワイとついてきている。

「聖、顔が怖い」

「あ゛?」

隣を見ればムカつくぐらいにこやかな大輔。

「てめぇちょっと殴らせろ」

「いつもにまして理不尽だな。そんなに工藤が気に入らないか?」

「気に入らねぇな。隼人といいてめぇといい何でそんなに落ち着いてやがる」

Dollと手を組むのに不満はねぇが廉にちょっかいかける奴はいらねぇ。

「そう見えるか?俺はまぁ今の所様子見しようかと思って」

「フン、何かあってからじゃおせぇんだよ。それで、慎二と安芸は何て言ってる?」

廉に聞こえないようなるべく小さな声で会話を交わす。

「さぁ?副総長に会っただけで俺もまだ二人には会ってないから」

チッと舌打ちを一つして、俺は前方に見えてきた青楠高校を見据えた。

「あ、そうだ!聖、大輔。言い忘れてたけど間違っても今日は喧嘩しないでよ!」

「はい」

後ろからかけられた声に俺も分かってる、と右手を振って応え、やがて正門に寄り掛かるようにして待つ人影が見えた。



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