08


結構のんびりしていたのか部屋の扉を開けて店内へ出れば、窓の外は先程より暗くなっていた。
話も纏まり、もう帰らなきゃ、と言った俺の後ろから続いて工藤が出てきて部屋の中を振り返る。

「悟。今日はもうここに戻って来ねぇから後頼むな」

「分かりました。廉さん、また今度遊びに来て下さいね」

「本当は俺が送って行きてぇんだけどまぁしょうがねぇか。廉、気を付けて帰れよ」

まだゆっくりしていくと残った隼人と悟に見送られ、俺は工藤と一緒に店を出た。
互いに仲間を見送った二人は奥の部屋ではなく、店のカウンター席に座った。
悟がコーヒーを二個注文して隼人が口を開くのを待つ。

「永原サン達は俺等を認めてくれたけど、実際のところ他の連中はどうなんだ?」

廉の様子だと幹部は大丈夫そうだけど…。
真面目に聞いたはずなのに何故か隼人は悟にクスクスと笑われた。

「何だよ、俺は何も可笑しいこと言ってねぇだろ?」

「いや、悪い。隼人さんも凄く仲間思いだなって思って」

カウンターの向こうから出されたコーヒーを受け取り、隼人は当然の様に答える。

「仲間を大切にするのは普通だろ。ソッチは違うのかよ?」

悟もコーヒーを受け取り、少し喉を湿らせる。

「いいえ、同じです。そこは貴宏も廉さんと同じ考えですから」

DollとLarkには総長を始めとして、仲間を大切にする、という意外な共通点が存在していた。

「俺達のチームでLarkを敵視する人間はいないと思いますよ」

その根拠は?と、隼人はカップを傾けながら悟に視線を向けた。

「それは隼人さんが自分の目で見て確認して下さい。俺が今ここで言ってもあまり信用できないでしょうから」

あくまで判断は隼人に任せると言った悟の返答に隼人は微笑を浮かべた。

「俺、そういう奴結構好きだぜ」

押し付けがましくもなく、相手を尊重する。

「俺も隼人さんの様な人は好きですよ」

仲間を守るために自ら敵陣に乗り込んでくる所とか。
カップをソーサーに戻した悟はにっこりと笑顔で言った。

「気が合うな。永原サンとは仲良くなれそうな気がする」

「俺とは、って貴宏とも仲良くなって下さいね」

「…そっちはまた今度考えておく」

「ええ、是非。長い付き合いになるでしょうから」

どちらともなくフッ、と口元を緩ませカップをカチリと軽く合わせた。

「…コーヒーカップじゃ格好つかねぇな」

「いいんじゃないですか今はこれで」

騒がしい店内で、二人のいる空間だけが静かで、まるでそこだけ切り取られたようにゆったりとした時間が流れていた。








見慣れた道を、最近恒例になりつつある工藤に送られて歩く。

「これで廉の心配事は一つ減ったか?」

「え?」

俺のペースに合わせて隣を歩く工藤を、俺は首を傾げて見上げた。

「土曜の話だ」

「あ!」

忘れてた。今日は色々な事があったから。

「忘れてたな。まぁ、しょうがないか」

肩を竦めた工藤は苦笑気味に俺の頭を撫でた。

「それと、今日は悪かったな。騙す感じになっちまって…」

「それは…、ビックリしたけど俺は別に騙されたとか思ってないよ。皆いい人達だったし、楽しかった」

隼人が来た時は流石にハラハラしたけど、と笑って言えば工藤も俺もあれはな…、と笑った。

「いつか来るとは思ってたけど意外と早かったな」

「え?隼人が来るって分かってたの?」

そういえば隼人が来た時、工藤はすんなり部屋に通してたな。

「そりゃ、大切なお姫様にちょっかい出せば必ず出てくるだろ」

「〜っ、工藤までお姫様とか言うなよ!!」

バシ、と工藤の背を叩いて俺は抗議した。
今日だけで何回も言われて、俺は恥ずかしかったんだぞ!
叩いた手をひょいと掴まれ、足を止めた工藤に合わせて俺も立ち止まった。

「なっ、何?」

赤い顔のままキッと顔を上げた俺に工藤はフッと表情を緩めた。

「いつか俺だけのお姫様になってくれよな」

そう言ってチュッ、と掴まれていた右手の掌にキスを落とされた。

「〜〜っ、く、くどう!!」

絶対、今日一番恥ずかしい思いを俺は今してる!!

「じゃぁ、またな」

俺の手を離し、おまけ、と悪戯っぽく囁き頬にもキスを落として工藤は背を向けた。
頬に触れた温もりに今度こそ動きを止めた俺は、遠ざかっていくその姿にこの前の出来事を思い出した。
あの時は唇にされたな―。
じゃ、なくて!!!

「ぅ〜、何すんだよっ!!工藤のバカァ!!」

その背に向けて近所迷惑にならないぐらいの声量で怒鳴った。
そして、そこが自分の家の前だと気付いたのは顔から熱が引いてからだった。



平穏な日々 end


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