07


帰る予定だった俺は今、奥の部屋に逆戻りしていた。
俺の隣には隼人、対面するソファーには工藤と悟が座っている。
飲み物を運んできた誠にお礼をいい、一口飲んだ。

「自己紹介はいるか?」

そう聞いた工藤に隼人はいらねぇ、と首を横に振った。
やっぱ普通は知ってるものなのか、名前って。

「工藤サンは俺が何しにきたか分かってるだろ?」

話を切り出した隼人と、向かいに座った工藤の視線が一瞬、俺へ向けられたような気がした。

「大体予想はつく」

「それなら話は早い。どういうつもりで手ぇ出したのか知らねぇが、泣かせたりしたら俺等が許さねぇ」

主語がなく、俺は何の話をしているのか分からなくて一人、首を傾げた。

「隼人さんの言いたい事は俺も貴宏も十分わかってます。今まであなた達が守ってきた事も」

「第一、そんな奴がいたら俺が許さねぇよ」

隼人は真偽を見極めるかのようにジッと二人を見つめた。

「…隼人。もしかして工藤と永原さんが俺達に何かすると思ってるのか?」

話の流れてきにそんな感じがして俺は口を挟んだ。
それに隼人は一度視線を宙へ向け、俺に向ける。

「廉はどう思ってる?」

「俺は…」

工藤との出会いははっきり言えば悪かったと思う。
少し強引なところがあって、最初は戸惑った。
でも、それと同時に短い時間だけど一緒にいて分かったこともある。
工藤は基本的には優しい人物だと俺は思っている。
しかし、それは廉だけに向けられる優しさで他が一緒かというとそれは少し違うことを廉は知らなかった。
それにLarkに何かするなら、俺をLarkの総長だと知って接触した時点で動いていると思う。
今日だってDollの本拠地に、易々と俺と隼人を招き入れたりなんかしてるし。

「俺はそうは思わない。隼人が警戒するのも分かるけど、俺は…」

しっかり隼人の目を見てそう言えば途中で遮られた。

「…分かった。廉がそう言うならそうなんだろ」

散々注意をした、それでも工藤の隣にいるということが廉の答えなんだな、と隼人は頷いた。
例えそれが無意識の事だとしても。

「それで結局、俺達が廉の側にいることを認めてもらえるのか相沢?」

二人のやりとりを黙って聞いていた工藤が隼人に向けてそう聞いた。

「認めるも何も廉がこう言ってるんだ、仕方ない。けど、その代わり絶対泣かせるようなことはすんなよ」

俺の側がどうとか言ってるけど、そんな事より俺は工藤と隼人が衝突しなくて良かったとこっそり安堵した。
又その向かいに座る悟もどこか安心したよう微笑を浮かべていた。
張り詰めていた空気が緩み、それぞれ目の前に置かれたカップに口をつけ、穏やかな雰囲気になる。
そのせいか俺はうっかり口を滑らせた。

「はぁ、俺今度こそ隼人に怒られるかと思った…」

「自覚はあったのか」

ジロリ、と隣から強い視線を受けて俺はうっ、と口ごもった。
口に出てた?

「相沢。あんま廉を責めるなよ。廉から俺に会いに来た事なんてまだ一度もねぇんだから」

まぁ、そのうち会いに来たくなるようになるだろうけどな、と工藤は自信たっぷりに付け加えた。

「その自信がどこからきてるのか知らねぇがあんま油断してるとその内足元掬われるぜ、工藤サン」

「ふっ、二人とも何言ってんだよ!もう!」

俺を無視して進んでいく会話に居たたまれなくなってきた頃、それを横目に悟が口を開いた。

「廉さん。もし何かあったら、…いや、なくても俺に相談しに来ていいからね」

「え?……あ、うん」

なんだかこの中で永原さんが一番大人のような気がした。
それから他愛ない話に移行し、自然と会話は最近のチームの話になった。

「死神の総長が代替わりしたの知ってるか?」

「あ、俺さっきそれ健ちゃん達に教えてもらった」

隼人の台詞に普通にそう答えたはずなのに何故か隼人は眉間に皺を寄せた。

「会ったばっかの人間になついてんなよ…」

ぼそり、と呟かれた言葉は俺には聞こえなかった。

「死神か…」

健一達と入れ違いで店に出ていた工藤は初めて聞いた情報にチラッ、と悟に視線をやった。

「正確な事は分かりませんが、つい最近総長が代替わりしたっていう話ですね?」

工藤に報告しつつ、悟は隼人に確認するように尋ねた。

「そう。新しい総長の名前は白木とかいう奴らしい。前は副総長をしていたが、数日前に自ら総長を倒して上にあがったとかで」

「それって…」

淡々と告げられた内容に俺は眉を寄せた。
仲間を裏切ってまで上を目指すなんて、それはもう仲間じゃないだろ?
どうして平気でそんなことが出来るんだ…。

「この情報は信頼できる仲間が持ってきた。大輔の奴お前の事凄く心配してたぞ、廉」

考えていることが顔に出ていたのか隼人は後半部を俺に向けてそう言った。

「大輔が?あれ?そういえば最近顔見てないような…」

だからか隼人のちょっとした気遣いをとても嬉しく感じて、心配してるといった仲間を含め、皆をもっと大切にしようと思った。

「いいのか相沢?そんな簡単に俺達に情報渡しても」

「少なくとも工藤サン達は俺等を、Larkを敵だとは思ってない。と、俺は考えてるんだけど間違ってるか?」

「間違ってねぇよ」

考えるまでもなく即答した工藤はフッ、と笑みを浮かべて俺を見た。

「…なに?」

「ソッチが良ければ俺はチームの総長として、DollとLarkとの間に友好関係を築きたいと思ってる」

「え?」

極稀にチーム同士の争いがある中で、仲間から誰一人怪我人を出すこと無く話し合いで平和的に手を結ぶことがある。
しかし、これは互いに相手を認めていなければ出来ない提案だった。
数回ぱちぱちと瞬きをして、俺は言われたことを飲み込んでから隣に座る隼人を振り返った。
俺だけじゃなくてLarkというチームを、仲間を認めてくれた事が俺は凄く嬉しかった。
でもやっぱりチームの事だから皆がOKを出さなきゃ俺は素直に頷けない。
頷かない。皆がいるから俺がいるんだ。
言葉にしなくても伝わったのか、隼人は俺の頭に手を置き、髪をくしゃくしゃと掻き混ぜるとフッと優しく笑った。

「大丈夫だ。廉が思った通りにしていい。俺は賛成だし、アイツ等は皆廉に甘いから絶対許してくれる」

隼人に背を押され俺は頷いた。

「うん」

俺は工藤に向き直って、

「じゃぁ、よろしくお願いします」

と、右手を差し出した。

「ん。よろしくな」
ガラステーブルの上で工藤と握手を交わし、ここに初めて、DollとLarkの間に繋がりが出来た。

「…って、工藤?そろそろ手離してよ」

ぎゅっと握られた手を振れば、あぁと離された。

「……?」

「何やってんですか貴宏…」

「俺に限らずうちの連中は皆こんな感じだから心が狭いとやってけないぜ」

工藤の行動に意味が分からず首を傾げる俺に、工藤に呆れた眼差しを向ける悟、口元をニヤリと吊り上げて言う隼人がそこにいた。
三者三様の視線を受けていた工藤はただ一言、分かってる。と、ため息を漏らしながら苦笑にも似た笑みを浮かべていた。


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