06


「それで貴方達、外で何して来たんですか?」

そういえば修平さん以外店にいなかったよな。

「ん?その辺で遊びつつ死神様の動向を探りに〜」

悟に怒られ、修平と一緒に顔を青ざめさせていたはずの健一がコロッと立ち直って答えた。

「死神って、あの?」

俺もその名前は知っている。Dollの次に強いチームとして。
ただ、やることが汚いので有名だ。一人に対し多人数で攻撃をくわえ、騙し討ちもなんでも有り。結果的に勝利を手にさえすればいい、という考えを持つ卑怯な連中だ。
そして、貪欲に上を目指している死神は、俺達下のチームには目もくれない。
だから、今のところLarkに害はないが…。

「もしかして工藤って狙われてる?」

そう聞いた俺は自分が今どんな顔をしていたのかなんて知るよしもなかった。
ただ、健一が困ったような表情で俺の頭を撫でてきたのでそんな心配そうな顔でもしてたかな?と思ったぐらいで。

「あ〜、違う違う。姫が考えてることは今の所ないから安心していーよ。な、ジュン?」

健一の言葉に頷き、純が続ける。

「死神の総長が変わったみたいで今、アイツ等ゴタゴタしてるから工藤さんが狙われる事は無いよ。それに工藤さんがあんな卑怯な連中に負けるわけないし!」

工藤の事を語る純の瞳はキラキラしていた。

「ジュンの奴タカに憧れてんだよ」

不思議そうに純を見ていた俺の隣で健ちゃんがボソリと教えてくれた。
あぁ、それ分かるかも。俺も男として普通に工藤は格好良いと思うし、その強さには憧れる。
そんなこと絶対本人には言わないけど。







「ったく、アイツ等…。悪ぃ廉、ちょっと来てくれ」

ガチャリ、と少し疲れた顔した工藤が扉から顔を出して俺を呼んだ。
俺は何だろ、と首を傾げながらも素直に立ち上がった。

「工藤、大丈夫か?」

ここに来て最初は緊張していたけど、今は永原さんや健ちゃん達のお陰で大分落ち着いてきた。
皆いい人そうだし。
俺が工藤に腕を引かれて部屋を出た後、部屋ではこんな会話がなされていた。

「きっと皆タカにお姫様見せろ〜、とか紹介しろ〜、とか騒いだんだろうな〜」

ニヤッ、と健一が笑みを称えて言えば修平が、

「あんな工藤さん見たの俺初めてかも…」

と呟く。
その正面に座る誠も頷いて珍しい、と言った。

「そう?廉さんが絡んだら貴宏は大抵あんな感じになりますよ」

悟は三者三様の発言にシレッとそう答えた。

「でも、そんな工藤さんも格好良い!坂下も噂以上に可愛いし、俺工藤さんの気持ちちょっと分かるかも…」

純はキラキラした瞳で店へ繋がる扉を見てそう言った。

「あっ、タカうんぬん省けば俺もそれに同感〜」

「俺も俺も!廉ちゃん可愛いよな。あれで強いって聞くし」

「………でも、危ない」

騒ぐ三人に無表情のまま誠は口を挟んだ。

「そう、問題はソコなんです。貴宏は何も言ってませんが今日廉さんを連れて来たのはそういった意味も含めて、俺達に気を付けて欲しいから、まず顔合わせってところでしょう」

工藤と付き合いの長い悟はこれまでの経験からそう断言した。








工藤の後に続いて部屋を出れば店中の視線がこちらを向いた気がした。
気のせいじゃなければなんかさっきより人口密度が上がってる?

「見せるだけだからな、てめぇら間違っても手ぇ出すなよ。出したら…解ってるな?」

首を傾げる俺の横で工藤が何やら皆に向かってそう威嚇してた。
そして、そこからはもう周りがわいわいと凄まじかった。

「Larkの総長って本当?こう言っちゃ何だが、そうは見ぇねぇな」

「廉ちゃんって呼んでいい?」

とか、

「うちの総長といつから付き合ってんだ?」

「貴宏さんって普段どう?優しい?」

とか、軽いものから気に障るようなもの、意味の分からないものまで質問責めにされた。
俺が答えられないような質問は工藤が無視していい、って言うから聞かなかった事にした。

「工藤…」

さすがにもうそろそろ疲れてきた。
俺がそういった意味を含めて工藤を見上げれば、工藤は集まっていた仲間を一睨みし、鋭く言い放った。

「もう良いだろ、散れ」

いや、だからってそこまでしてくれとは言ってない…。
工藤の仲間達は慣れているのか、おぉ怖い、とか何だかんだ言いながら店内に散っていった。

「悪ぃな、廉。疲れただろ」

「工藤の所っていつもこうなの?」

一番強いチームだから、こう少し怖いんじゃないかってイメージがあったんだけど、そうでもなかったな、とまだ店内で騒いでいるDollのメンバーを眺めながら俺は聞いた。
俺の問いに工藤は考える仕草をしてから答えた。

「いつもはもっと静かだな。今日は特別、廉がいるから騒がしかっただけだろ」

「ふぅん、そうなんだ。やっぱ他チームの総長がいきなり来たら誰だって驚くし騒ぐよな」

ましてや自分の所の総長が連れて来たんじゃ、とうんうん納得してる俺の隣で工藤が小さく溜め息を溢したのを俺は知らなかった。

「廉、外も暗くなってきたしこの後どうする?帰るなら送ってくけど、暇ならまだ此処にいろよ」

「う〜ん、疲れたから今日はもう帰ろうかな」

「そうか」

今度は引き止められなかった。
さっきと違って俺が疲れてるから遠慮したのかな?
悟に声かけてくるからちょっと待ってろ、と言って奥の部屋へ行った工藤の後ろ姿を、俺は素直に見送っていた。
そう、素直に見送っていたのだ。
いつもなら女の子じゃあるまいし、と即断るのに。
気付かぬうちに工藤に毒されたのか、それとも俺が疲れていたのか、俺は工藤が戻って来るのを大人しく椅子に座って待っていた。

「後は悟に任せてきたし、帰るぞ廉」

数分もしない内に戻ってきた工藤にうん、と頷いて立ち上がった。
それと同時か少し後に、

―リン、リン

と独特の音がして、

「此処に工藤 貴宏はいるか?」

と、言って一人の人物が店に入って来た。

「え?隼人?」

店に入ってそうそう、そう口を開いた人物はよく知ってる人だった。
何で隼人がここに?

「何だてめぇ」

「うちの総長に何の用だ?」

隼人の発言で店内にピリピリした空気が流れる。
その中で一人、何で隼人がここに来たんだろうと首を傾げていた俺の横で工藤が納得したように呟いた。

「相沢か…」

そして、奥のテーブルにいる俺達に気づいていない隼人の方へ、工藤が出て行こうとする。

「何かあったんですか?」

張り詰めた空気に気付いたのか奥の部屋から悟達も出て来た。

「あれ?あの人廉ちゃんとこの…」

「おっ、姫の騎士(ナイト)じゃん」

ピリピリと静まり返っていた店内に修平の間の抜けた声と健一の陽気な声が場違いに聞こえた。
その声に気付いたのか視線を奧へ移した隼人と俺の視線がぶつかる。

「あ」

「廉?」

眉を寄せた隼人に俺はヤバイ、と思わず合った視線を反らしてしまった。
あれだけ工藤に警戒しろとか色々言われたのに…。
ど、どうしよう。
何だか悪いことをしたような気分になってきた。

「止めろお前等。ソイツは知り合いだ」

工藤の一言で張り詰めていた空気が霧散した。








side 隼人

表通りから少し外れた、入りくんだ路地裏のビルの壁に背を預けて話を聞く。

「そうか、死神の総長が代替わりしたか」

「はい。それであの、総長は大丈夫でしょうか?」

「しばらくは向こうもチーム内の混乱で身動きは出来ないだろうから平気だろ。ただ、その後の事はまだ何とも言えねぇな。狙われるかも知れないし、これまで通り平気かも知れない」

今までの死神総長は自分より下のチームに見向きもしなかったけど、代替わりしたその総長がそうとは言い切れない。
ソイツのやり方次第でLarkにも被害が出るだろう。
そうなったら仲間思いの廉はきっと悲しむ。

「そんな…」

「廉の周りは今まで以上に警戒しておくよう矢野達には言っておく。お前はいつも通り仲間を信じてればいい」

「はい」

「それから、たまには店に顔出せ。お前だって幹部の一人なんだ。あんま雲隠れしてると廉が心配し始めるぞ」

「はは、そこはちゃんと分かってますから。じゃ」

情報収集に出していたソイツと別れ、他にやっておく事は…と、考え一人の人物を思い出した。

―工藤 貴宏―

一度会っておく必要があるな。
そう思って足を運んだ先、廉がいた。

「あ」

「廉?」

気まずそうにそらされた視線に、こいつはまた人の気も知らずに…という気持ちになる。
でも、それが廉だから仕方ないか。
と、同時に廉がこの場にいることが何でもないような気もして、俺は心の中で苦笑した。
俺まで廉に感化されてどうする。


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