05


「所で噂ってなに?工藤も知ってるの?」

「まぁ」

どんな噂なんだろ。凄い気になる。自分の事だし。
そもそも噂になるって、俺そんな悪いことした覚えないんだけど。
俺の表情を読んだのか工藤は苦笑気味に言った。

「別に悪い噂じゃねぇよ。ただ、教えてもいいけど怒らないなら、って条件をつけることになるな」

「俺が怒るような内容なのか?」

噂の中身がまったく想像出来ずにそう返せば、トレイに飲み物を乗せて戻ってきた悟が、さっき店内でうちの馬鹿共が何か口走ったの聞いたでしょう?と言ってきた。

「馬鹿共って、あぁ…修平か。そういや他の幹部連中はどうした?」

「暇だと言って外に遊びに。そのうち戻って来ると思いますよ」

う〜ん、と…さっき、

「姫とかなんとか…、ん?あ!姫ってなんだよ!?」

女に間違われることもあるけど俺は男だぞ!!
不快な単語を思い出し、眉をしかめて更に文句を続けようとした俺は、

「はい、廉さん。カフェオレです」

と、目の前に差し出されたカップと微笑みを称えた悟の言葉によって気力を削がれた。

「あ、ありがとうございます」

渡されたカップに口を付け、一口飲むとその美味しさに自然と頬が緩んだ。
その様子に工藤と悟が視線で会話を交わす。

―ほら、可愛いだろ?
―あぁ。貴宏が構いたくなる理由が分かった気がする

そんな会話が成された事を知らない俺は、一息吐いてカップをテーブルに置いた。

「怒んないから俺の噂っての教えて、下さい」

工藤だけじゃなく、悟がいることを思い出してとって付けたような敬語になった。
それに気づいた悟はくすり、と笑って口を開く。

「別に普通でいいよ。俺のは単に癖だし、貴宏といる時と同じ様にしてくれていい」

本人がそう言うのなら、と俺は頷いて了承した。
そして、漸く工藤と悟から俺の噂について教えてもらった。

「雲雀の姫ってのは廉の事だって分かるな?」

「…うん、まぁ」

雲雀ってのはまんまLarkの事だし。でも、姫は?

「姫ってつくのは、廉さんが滅多にチーム同士の争い事に姿を現さず、仲間の手で大切に守られている所からついたんでしょうね」

それプラス、廉さんの容姿からもきていると思いますが、と言う台詞は言わずに飲み込んだ。
他にも、某チームを一夜にして潰したとか、廉さんが喧嘩に参戦すると相手はあっさり引き下がる。逆に仲間にして欲しいと頼み込む、とか。
廉さんを引っ張り出すために喧嘩をしかけたチームがあるとかいう噂もありますし、その他色々。
最近ではどこぞの総長様がちょっかいをかけているとか…?

「それは俺のことか?」

「貴宏以外にいたら貴方はとっくに行動を起こしているでしょう?」

さらりと事も無げに返した悟に、まぁなと自信たっぷりに頷いた工藤。
俺はそこに不穏な空気を感じて首を竦めた。

「あのさ、噂話はもういいや。分かったから」

納得いかない噂もあるけど、何だか俺はこれ以上聞かない方がよさそうだ。
俺はソファーから立ち上がり二人に続けて言う。

「用もすんだみたいだし俺帰るよ」

約束通り悟と顔合わせはしたし、ここに留まる理由はないだろ?
しかし、それを阻止するように隣から腕が伸びてきて右腕を掴まれる。

「まだいいだろ?ここにいろ」

「えっと…」

そりゃ確かにこの後これといって用があるわけじゃないけど、何て言うか…ココはDollのアジトで、工藤の仲間がいて、永原さんがいて、部外者の俺がいても邪魔なんじゃ…。

「周りの事は気にすんな。俺が連れて来たんだし文句言う奴はいねぇ。万が一いたら追い出してやるから。何より、俺が廉に居て欲しい」

「うっ……じゃぁ、少しだけなら」

どうしてこう恥ずかしいこと言うんだ!永原さんだっているのにっ。

「良かったな、貴宏」

大人しく座り直せば永原さんまでそんなことを言う。
ううっ、恥ずかしいと思うのは俺だけなのか?
俺はうっすら染まった頬を隠すように俯いた。

「そうだ。引き留めてなんだけど、Larkの方顔出さなくて平気か?」

「…ん、まぁ。毎日顔出してるワケじゃないし平気」

「そうか」

掛けられる声もそうだけど、なんか隣から向けられる視線が柔らかさを増した様な気がして、恥ずかしくて顔を上げられない。
そこへ、先程と違った意味で居心地の悪くなった空気を壊すように、バーン!!と、勢い良く部屋の扉が開かれた。

「馬鹿っ!来客中だぞ!」

「タカが姫連れてきたって!?」

「………」

「さっ、悟さん、俺関係ないから!俺のせいじゃねぇから!!こいつ等が勝手に!!!」

髪のカラフルな連中が四人雪崩れ込んできた。
金に近い茶色、黒に所々赤色、真っ青、こげ茶。
前三人は初めて見る顔で、一番最後に腕を掴まれ、入ってきたのはさっき店内にいた修平だった。
俺はいきなりの事に驚き顔を上げた。

「誰?」

工藤の仲間なんだろうけど、修平って人以外初めて見る顔だ。店にいなかったよな?

「修平、知ってますか?一番始めに自分じゃないって口にした奴が大抵原因だってこと」

「うっ…」

思わず口を掌で押さえた修平をほっぽって、他のメンバーは工藤に挨拶をする。

「すいません、来客中に」

金に近い茶髪の少年が会釈をする。

「………ども」

次に青い髪の青年が。

「タカ〜、姫連れてくるなら言えよな〜」

そして、最後に黒髪に所々赤い髪が散っている青年。

「お前ら入ってくるなら静かに入って来い。廉が驚くだろ」

もしかしてこの人達…。
俺がジッと見ていたらその中の青い髪の人と目が合った。

「………」

「………」

な、何だ?
反らされない視線にどうしていいのか分からなくなる。
そして、それを遮る様に工藤がソファーから立ち上がって俺の前に立った。

「あんまジロジロ見んな。減る」

減る?何が?
言ってる意味が理解できなかったけど、工藤に守られたという事は分かった。

「そりゃないでしょ〜。姫を独り占めしたい気持ちは分かるけど、俺達だって仲良くなりたいのに〜」

ふざけているのか元々なのか、語尾を伸ばして喋る青年が唇を尖らせた。
あの後、開きっぱなしの扉から店内にいた人達がちらちらこちらを見ていたのに気づいた工藤が、修平を苛めていた悟に何やら指示を出し部屋を出て行った。

「とりあえず貴方達座りなさい。修平、貴方もです」

悟の側に金茶の少年と青髪の青年が座り、俺の両隣に黒に赤い髪の青年、焦げ茶色の髪を持つ修平が恐る恐る座った。

「すいません廉さん、驚かせたみたいで。彼らはDollの幹部で…」

その流れを汲んでか、黒に赤い髪の青年が悟の言葉を遮った。

「改めて初めましてお姫様!俺は織田 健一。よろしく〜」

姫なら健ちゃんって呼んでいいぜ〜、と笑って頭を撫でられた。
こういうノリでくる人が初めてで俺はちょっと戸惑った。

「あ、よろしく。健ちゃん?」

「はい、よろしく〜。あ〜、まったくタカにはもったいないな〜」

そう言ったと思ったら、いきなりガバリ、と抱き締められた。

「え!?ちょっと!!」

「ケン、あなた貴宏に殺されたいんですか?」

わたわたしてたら悟の声がして、後ろから伸びてきた手により健ちゃんから引き離された。
俺はホッと安心して、引き離してくれた人物にお礼を言った。

「えっと、ありがと。修平さん」

「廉ちゃんに修平さんって呼ばれるなんて、俺感激!やばいって!!」

助かったと思ったら今度は修平に抱きつかれた。

「うわぁ!?」

「あっ、ずりぃぞシュウ!俺から姫引き剥がしたくせに自分だけ〜」

俺より年上と思われる二人が俺を挟んで言い合いを始めてしまった。

「永原さん助けて…」

流石の俺も、Doll幹部を殴る蹴るすることも出来なくて悟に助けを求めた。

「ケン、修平。直ぐに廉さんから離れろ。貴宏に頼まれたからな、離れねぇ場合は俺が相手してやる」

二度目の忠告は怖かった。悟はにこり、と笑いながら目が笑っていなかった。
その豹変っぷりに俺が戸惑っている内に二人はサッと俺から離れていった。

「大丈夫ですか?」

「…うん」

そして、俺には最初の時と同じ優しい笑顔を向けてきた。

「では、続けましょうか。その馬鹿は河野 修平で、こちらが…」

「………森高 誠」

青い髪の青年が俺を見てポツリ、と呟いた。
次いで、金茶の髪の俺と同じ歳ぐらいの少年が元気よく自己紹介をしてくれた。

「俺は笹木 純。見ての通り坂下とタメ。よろしくな」

「うん、よろしく」

タメという気安さか、純とは仲良くなれそうな気がした。


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