04


いつも通りHRが終了し、放課後になった。
そのいつも通りの中で、ただ一つ違うことがあった。
校門周辺が騒がしい。
俺は校門を待ち合わせ場所にした事を物凄く後悔していた。
分かってた筈なのに。工藤が目立つってことぐらい。時計台で待ち合わせした時もこんな感じだった。
それでなくても、セーラー服と学ランの集団の中に、濃い緑色のブレザーにクリーム色のネクタイをした工藤は嫌でも目立っていた。
下校時刻で人は多いし、皆ちらちら工藤を見ている。

「ね、あの人格好良くない?誰か待ってるのかな?」

「いいなぁ、私もあんな彼氏欲しい〜」

近づきたくない。あの中に入っていきたくない。
俺は正門まで後数メートルの地点で立ち止まった。
どうしよう?

「廉くん?どうかしたの?」

「おい、廉!たまには一緒に遊びに行かねぇ?」

「坂下、帰り道は十分気を付けて帰るんだぞ」

突っ立っていればクラスメイトや友達、果ては先輩までもが心配して声をかけてくる。
俺はそれに曖昧に返事を返して、正門を通らないワケにはいかないし、仕方ない、と歩き出した。
これって俺から声掛けるべきだよな?
人待ち顔で、正門に背を預けている工藤に近づく。

「…工藤」

その瞬間、なんだか周りがざわついた気がした。
俺に気づいた工藤は、門から背を離した。

「早かったな。もう少し待つ様かと思ったぜ。それで、会う気になったか?」

「まぁ。暇だし…」

何でか知らないけど、その人俺に会いたいみたいだし。
なにより工藤の知り合い、ってのも気になるし。
それは言わないけど。
この時点で俺はもう少し、工藤の知り合いという点を深く考えていれば良かったと後になって後悔した。

「そっか。じゃ、行くか」

歩き出した工藤の隣を並んで歩く。

「なぁ、その人とどっかで待ち合わせでもしてんの?」

「いや、してねぇけど。まぁ、行けば分かる」

「何だよそれ?」

そう言って連れてこられた先は…、

「あ、総長だ。ちわッス」

「「「こんちわーッス」」」

「工藤さん、後ろの可愛い子誰ですか?」

「え、何々?総長の彼女?」

ちょっと待て!
扉を開いて普通に中に入って行こうとした工藤の腕を掴み、店の外へ引っ張る。

「工藤!!どういうことだよ!?ここ…」

「そ、俺等の溜まり場」

やっぱり…。

「じゃぁ、俺に会いたい人って…」

「んな心配そうな顔すんな。大丈夫だから」

うぅ、どこが大丈夫なんだよ?俺にとっては敵地かも知れないんだぞ。
俺は不安から工藤を睨み付けた。

「大丈夫だ。お前に手は出させねぇ」

そんな俺の不安をよそに工藤は再び扉に手を掛けた。

「総長〜、今の可愛い子誰ッスか?」

「工藤さんの彼女とか!?あれ?でも学ラン着てたような…」

「いやいや可愛ければそれも有りでしょ」

工藤の後ろに隠れてソッと店内を見回す。
もっと怖い雰囲気かと思ったけどそうでもないな。俺のとこより人数は多くてカラフルなのが一杯だ。

「いいか、お前ら。コイツに手ぇ出すなよ」

きょろきょろ様子を伺っていれば、工藤に手を引かれて皆の前に引っ張り出される。

「ちょっ、工藤!」

いきなりの仕打ちに俺は工藤をキッ、と睨み付けた。
心の準備ぐらいさせろっ!馬鹿!
すると、何故か店内からおぉ〜、と感嘆の声が上がった。
なっ、何だよ!?

「すげぇ、度胸あんな。工藤さんを睨み付けるなんて」

「可愛い〜。これなら男でもいいかも…」

「あれ?どっかで見たことあるような…」

その騒ぎに気づいたのか店の奥の部屋から一人の青年が出てきた。

「何ですか?この騒ぎは。また修平が何か馬鹿な事でも…」

「俺じゃねぇし!なんでいつも俺のせいなんだよ!今日は工藤さんが」

「貴宏?」

奥から出てきた青年は、自ら墓穴を堀ながら喚く、修平と呼ばれた青年から視線を外すと、俺と工藤に視線を向けた。
青年の視線は俺を捉えると微かに驚きを示した。

「貴方はLarkの…」

え?この人俺の事知ってるの?
首を傾げれば、今度その呟きを耳にした修平と呼ばれた、青年があぁー、と煩く叫んだ。

「廉ちゃんだ!うわぁ本物だ!ちっちぇ、可愛い〜」

それに続くようにして俺の近くにいた青年も思い出した、と手を打つ。

「雲雀の姫!!」

俺はいきなりの大声にびくり、と肩を揺らしておもわず工藤の服の裾を掴んだ。
工藤はそんな俺の肩に手を置くと、

「てめぇら静かにしろ!」

と騒いでいた周りを静かにさせ青年がいる方へ俺の背を押して歩き始める。

「えっと、…工藤?」

どうしていいのか分からずされるがままになっていた俺は工藤を見上げた。
そうすれば、にっといつもの悪戯っぽい笑みを向けられポンポンと軽く頭を叩れる。

「悟、奥の部屋行け」

「はい」

そう言って悟と呼ばれた青年を先頭に、俺は工藤に連れられて店の奥にある一室に通された。
部屋の中央にはガラスのテーブルがあり、テーブルを挟んで向かい合うようにソファーが置かれている。
俺はその片方に座らされ、当然の様に隣に工藤が座ってきた。
そして、工藤は悟を向かいのソファーに座らせ、

「私情でも頼ってもいいんだろ?」

と、言った。
悟は一瞬虚を突かれたような顔をしたが、次の瞬間にはえぇと穏やかな表情で頷いた。
二人のやり取りが終わると、対面に座る青年が俺を見て微笑んだ。
敵ではなさそうだ、と少しばかり警戒を解くと工藤が説明してくれる。

「こいつはDollの副で永原 悟。歳は俺と同じだ」

「初めまして。廉さん」

「初め…まして」

一体どういうつもりで俺をココに連れてきたんだろう?
ちらっ、と隣に座る工藤を見上げれば工藤もこっちを見ていたのか視線がぶつかった。

「そんな顔すんな。不意打ちでここに連れてきたのは悪かったと思ってる」

「じゃぁ、俺に会いたい人ってのは…」

嘘?
嘘を吐かれたのかと思うと、なんだか悲しくなってきた。

「それは…」

「それは俺です。最近貴宏が廉さんの話をよくするんで一度会ってみたいと思って」

工藤が何か言う前に悟が遮った。

「永原さん、が?」

「もっとも貴宏に聞く前から一度会ってみたいと思ってたんですよ?廉さんの噂はよく聞いてましたから」

噂ってなんだ?工藤は一体何を喋ったんだ?

「悟、余計なことは言うなよ」

俺が聞きたそうにしていたのに気づいた工藤が先に釘を刺す。

「わかってます。貴宏が廉さんに合った日は必ず廉は可愛いと言ってるなんて言いませんよ」

悟はにっこり笑いながらそう言った。

「ばっ、悟!!」

「え!?俺、可愛くないし!何言ってんだよ工藤!!!」

思わず俺は、腰を浮かせた工藤の足に軽く蹴りを入れた。

「と、まぁ冗談はさておき。飲み物でも持って来ますね。貴宏はいつもので、廉さんは…」

「廉にはカフェオレでいい」

悟が部屋から出て行き、工藤ははぁ、と溜め息をついて座り直した。

「冗談って。…さすが工藤の知り合い?」

パッとみ優しくて理想のお兄さんって感じに見えたんだけど、何か違うみたいだし。
俺がそう言うと工藤はさすがって何だ、と足を組んで部屋の扉を眺めた。



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