02


悠の手を引いて店の中に戻れば仲間が悠に気付いて声を掛けてくる。

「悠ちゃんじゃねぇか。久しぶりだな」

「本当だ。少し背伸びたんじゃね?」

「廉さんに似て可愛いよな〜」

最後のは何か違う気もしたが、頭を撫でられて悠が嬉しそうにしているから良しとしておこう。
俺は悠を連れてカウンター席に戻った。

「マスター、オレンジジュース一つ」

悠を俺が座っていた席に座らせ、マスターに飲み物を頼む。

「俺が一つずれるんで廉さんは悠さんの隣に座ったらどうッスか?」

「あ、ありがと陸谷」

席を譲ってもらい、悠の隣に座る。

「隼人さん、矢野のお兄ちゃん、陸谷のお兄ちゃん、こんにちは」

悠は同じカウンターに座る三人に礼儀正しく挨拶をすると、落ち着きなくきょろきょろ周りを見回し始めた。

「あれぇ?」

「悠ちゃん、どうした?」

マスターからオレンジジュースを受け取っていた俺に代わって隼人が聞く。

「キラキラのお兄ちゃんいないの?」

「キラキラの兄ちゃんって何だ?」

悠の言葉に皆が首を傾げた。
キラキラ…。どっかで聞いたな。
俺は悠の前にオレンジジュースの入ったグラスを置きながら首を傾げた。

「矢野のお兄ちゃんみたいな色で、でももっと明るくって…」

矢野?
皆が皆、矢野を見る。
見られた矢野も不思議そうに俺?と自分を指差した。
キラキラで矢野?
ん?矢野より明るい…、ってまさか!?

「ゆっ、悠!そのお兄ちゃん今日は居ないんだよ。と、いうか此処には来ないから」

「そうなの?」

少し残念そうにした悠の頭を撫でまた今度会わせてやるから、と付け足した。
ふぅ、昨日の今日で工藤の話題なんて出せないだろ。
工藤に獲物を横取りされて皆不機嫌そうだったし。危ない危ない。

「廉」

「何?」

ホッとしたのも束の間、隼人に呼ばれてギクリとした。

「悠ちゃんに体育祭の話してやれよ。連れてくるんだろ?」

「あ、そうだった。悠、今週の土曜日な…」

結局キラキラがなんだったのかよく分からなかった面々は、変わってしまった話題を耳に首を傾げた。

「隼人さん分かったんですか?」

「さぁ?」

矢野に肩を竦めて答えた隼人は、悠に話し掛けている廉をジッと見つめて心の中だけで呟いた。
Dollの工藤だろ?廉、お前いくらなんでも工藤を信用しすぎじゃねぇか?

「警戒心を持てってのに…」

視線の先の人物は無邪気な笑みで隼人を見てくる始末。

「そうだ、隼人!体育祭ってお弁当いるよな?」

「いるけど、コイツらの分は作んなくていいからな。コンビニで十分だろ」

「「「え〜〜〜!!?」」」

不満に騒ぐ仲間達を笑顔にするのも悲しませるのも結局は、

「う〜ん、わかった」

その人物の一言であるというのに、気付かぬは本人ばかり。

「これは少し自覚させるべきか…」

隼人は今後のことを思って溜め息を吐いた。

「廉兄ぃ、お弁当にタコさん入れてくれる?」

俺はストローを差してオレンジジュースを飲みながら首を傾げる悠の頭をよしよし、と撫で頷いてやる。

「悠の好きなものいれてあげるよ」

「本当?やったぁ!!廉兄ぃ大好き!」

にこにこ笑う悠に俺も自然と頬が緩む。

「可愛いなぁ〜」

誰かがぽつりと溢した言葉に俺はそうだな、と頷き返した。
しかし、次の呟きにはんん?と引っ掛かるものがあった。

「総長も可愛いよな〜」

俺は背後から聞こえたその呟きに振り返る。

「今、何か言ったか?」

それに、窓際のテーブルに座る仲間が同じ事を繰り返した。

「いや、総長も可愛いな〜って。な?」

うんうんと周りの奴等も頷く。
最近、可愛い可愛い言われていて正直俺は少しへこんだ。
と、同時に余計な記憶まで甦ってきた。

「お、俺は可愛く何か無いからなっ!!」

仲間に向かって否定の言葉を紡ぐ俺のすぐ横で、

「え?廉兄ぃは可愛いよね?」

悠は隣に座る隼人を見上げて当然の事のように聞く。

「まぁ、そうだな」

「でも、廉さんにその自覚はねぇな」

なんて会話がなされていたなんて気づかなかった。

「大丈夫ッスよ。廉さんは可愛いだけじゃなくて、ちゃんと格好良いッスから」

陸谷がそう言ってくれたけど結局、陸谷も俺を可愛いと肯定してるし…。
うぅっ、俺だってこれからまだまだ成長するんだからな!
そうやって俺が仲間と言い合いをしていれば、服の裾をくいくいと引かれる。

「廉兄ぃ〜」

「ん?どうした?」

「廉兄ぃは可愛いんだから気を付けなくちゃダメだよ?」

「………誰だ?悠に変なこと教えたの」

悠にまでそう言われて俺は隼人達を睨み付けた。
しかし、カウンターに座る三人は揃って俺じゃない、と首を横に振る。

「あのな、悠。お兄ちゃんは男の子だから可愛くないし、気を付けることなんて別にないんだぞ?」

喧嘩を売られること以外は。

「廉兄ぃは自覚が足りないから…」

ぽつり、と小さく呟かれた言葉は聞こえなかった。

「まったく、皆が変なこと言うから悠まで…。もう、悠に変なこと吹き込むなよっ」

俺は悠を抱き締め、仲間にそう告げた。

「そりゃないよ、総長〜」

「俺達変なことなんて言ってないって」

情けない声を出す面々に俺はフンッ、と怒った表情を向けた。

「その辺で止めてやれよ廉」

「だって…」

溜まり場に連れてきた俺も悪いかも知れないけど、悠に悪影響がいったら困る。

「廉兄ぃ?」

きょとんと意味が分からず首を傾げる悠に免じて今回は許してやることにした。

「…仕方ないから許す」

それに、誰も居ない家に帰すより、こうして溜まり場で楽しそうにしている悠を見ている方が正直俺も安心するし。
その後も話題は絶えず、色々な話で盛り上がった。
俺はしだいに外が薄暗くなってきた事に気づき、輪の中で仲間と楽しく笑っている悠に声をかける。

「悠、もう帰るぞ」

声をかければ悠は廉兄ぃ、と言って駆け寄ってくる。

「陸谷、隼人に俺先に帰るからって言っといてくれない?」

カウンターから移動し、奥のテーブルで仲間と話している隼人の背に視線を向けた。

「わかったッス。それと廉さん、くれぐれも気を付けて帰って下さいよ」

真剣な表情でそう言う陸谷に俺は分かってる、と苦笑した。

「じゃ、帰るな」

俺は悠と手を繋ぎ店を出た。


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