01


学校から一度家に帰宅し、制服から私服に着替え、仲間の待つ店に向かう。

「よっ、そこの彼女暇してない?」

なんて、声をかけてくる輩を全て無視して歩く。

「よぉ、廉」

その途中、聞き慣れた声を耳にし、そちらに視線をやった。

「隼人!!隼人も今から店行くのか?」

俺の視線の先には、俺の通う高校とは違う、ブレザーを着崩した隼人が右手を軽く振って近付いてきた。

「そ。廉も今からだろ?ちょうどいいから一緒に行くか」

「うん」

隼人が隣を歩き始めると周りからかけられる声が減った。
…と、言うよりなくなった。
矢野や陸谷、仲間といる時もそうだ。
俺は不思議に思ってきょろきょろ周りを見回す。

「どうした、廉?」

「いや、ちょっと…」

気になった事を隼人に正直に聞けば隼人は今更かよ、とか何とか言って笑ってきた。

「まっ、廉が気にするようなことじゃねぇよ。奴らも自分の馬鹿さ加減に気付いたんだろ」

「何だよそれ?意味分かんない」

俺は隼人の言ってる意味がいまいち理解できなくて眉間に皺を寄せた。
そんな俺の頭を隼人はぽんぽんと軽く叩いて、お前は分かんなくていんだよ、とまで言われた。

「…むぅ」

隼人がお店の扉を開けばいつもと変わらぬLarkの面々が出迎えてくれた。

「ちわッス。隼人さん、廉さん」

「おっ、総長今日も可愛い〜」

「隼人さんと一緒だったんですか?」

などなど…。
俺は皆と笑顔で会話を交わしながら定位置になっているカウンターの椅子に座った。
隼人も俺の右隣の椅子に座り、カウンターの中にいたマスターに声をかけている。

「廉くんはいつものでいいのかな?」

隼人の注文を受けたマスターが俺にそう聞いてくる。
俺はそれにうん、お願いしますと頼んだ。
Larkが拠点にしているこのお店はマスターが趣味で開いているとかで、このお店にくるのはマスターの知り合いの人かマスターと仲良くなった常連さんばかり。
俺達もその中の一人だったが、何がきっかけだったのか俺達のことを気に入ったマスターが快く場所を提供してくれたのだ。

「はい、お待ちどう。いつものカフェオレだよ」

「ありがとうございます」

マスターはにこり、と笑ってカウンターの奥の方に戻っていった。

「そういや、廉。お前、昨日、俺達が出てった後おとなしく矢野と留守番してなかったんだってな?」

右手でカップを傾けながら、隼人がにっこり笑顔で俺を見てそう言ってきた。
何でそれを…。
矢野は言ってないはずだし、他には。
俺も隼人に負けないぐらいにっこり笑って言い返した。

「俺ちゃんと留守番してたって」

喧嘩してたなんてばれたら隼人の雷が落ちる。

「嘘つくな。マスターが二人で仲良く出てったって言ってんだよ」

「あ」

マスターか。それじゃ言い訳も聞かないや。でも、喧嘩したってことだけは誤魔化さなきゃ。

「でもほんのちょっとだけだって。矢野だって一緒だったし」

「……まぁ、矢野が一緒なら平気だったか」

隼人は俺が一人で出歩くと何かと心配してくる。
そりゃ、総長なんかしてれば喧嘩を吹っ掛けられることもあるけど隼人は過保護すぎると思う。
俺が隼人と話していれば店の扉が開いて、目立つ二人が入って来た。
金髪の頭と灰色のツンツン頭。二人は隼人と同じ制服を着ていた。

「ちわーっ」

「…ッス」

「あ、矢野と陸谷だ!二人ともこっち座んない?」

俺は入って来た二人に笑顔を向けて、隣に来ないかと誘った。

「そうしろよ。矢野に聞きたいこともあるしな」

隼人は矢野ににっこり笑いかけ、自分の隣を指す。

「ははっ、俺の気のせいじゃなければ何か隼人さん怖ぇんだけど」

「じゃ、陸谷は俺の隣な」

四人、カウンター席に並んで座る。
俺は左隣に座った陸谷に聞いてよ、と話し掛けた。

「隼人がさ、昨日留守番してる時ちょこっと出掛けただけなのに怒るんだよ?」

陸谷はマスターにアイスコーヒーを頼みながら、俺の言葉に苦笑を浮かべた。

「慎二に聞いたッス。で、それに関しては俺も隼人さんと同意見ッスね。慎二が居たとはいえ、危ないじゃないッスか」

「え〜、陸谷もそう言うのかよ。俺の味方は矢野だけなのか…」

俺はカフェオレを啜りつつ右隣を見やる。

「廉さんが外を通ったクレープ販売の車を見つけて、いきなりアレが食べたいなぁって言い出して…」

……、いったい何の話してるんだ矢野?

「それで、クレープを買いに外に行ったのか?」

隼人が呆れた眼差しで矢野を見る。
もしかして今のは、俺が外に出た理由か?
俺の視線に気づいた矢野がへらり、と気の抜けた笑いで俺に同意を求めてきた。

「そ。クレープ美味かったよな、廉さん」

「うん」

俺は嘘がバレないかどぎまぎしながらも頷いた。
矢野、吐くならもっとマシな嘘にして欲しかった。
お前の中の俺ってそんななのか。
途中から話を聞いていた陸谷も、隼人も俺にそれじゃ、しょうがないか、という微笑ましいものでも見るような視線を向けてきた。
うっ、なんだか良心が痛む。
矢野は一人涼しい顔でカップを傾け、隼人の死角で小さくブイ、とサインを送ってきた。
それから話題は移り、それぞれが通う学校の話になっていた。

「体育祭?俺のとこは来週だよ」

今週の土曜に体育祭があるという隼人達に、俺は朝のHRで担任に言われたことを思い出す。
ちなみに隼人と矢野、陸谷はクラスは別々らしいけど同じ学校に通っている。

「土曜、暇なら廉さん見に来ねぇ?」

「ここに来ても仲間の大半はいねぇだろうし、それはいいかもな」

矢野と隼人にそう促され俺はどうしようかな、と考えた。
店に集まるLarkの大半は隼人達と同じ学校の奴等で、土曜が体育祭ならその日ここには来れないだろう。
俺と一緒の学校の奴とその他の学校に通う奴は別としても。

「う〜ん、そうだな。特に用とかないし…」

「もし一人で来にくかったら悠さんと一緒に来たらどうッスか?後は後ろの連中と来るとか」

陸谷は後ろを振り返って言う。
そこには窓際のテーブルに座って談笑している仲間達がいた。
俺はそうだ、と一つ手を打ちカウンター席からカタリ、と立ち上がった。

「皆、今週の土曜は九時にこの店に集合な!!皆で体育祭観に行こう!」

だって、俺だけ行っても仕方ないだろ?仲間が頑張ってる時は、やっぱ皆で応援してやりたいじゃん。
にっこりと笑顔を浮かべて店中にいる仲間達にそう声を掛けた。

「総長、応援に来てくれんのか?」

「うん」

隼人達と同じ学校の仲間が聞いてくるのに俺は笑顔で頷いた。

「よっしゃ〜、体育祭なんて興味なかったけど頑張るぞ〜」

「俺も、俺も!」

「廉さんが来るなら話は別だよな」

どう別なのかよく分からなかったけど、喜ぶ面々を見て俺も嬉しくなった。

「お前等も現金な奴だな」
隼人が騒ぎ出した仲間を呆れたように見て笑った。

「そうそう、ちょっとは隠せよなぁ」

矢野もクルリと仲間を振り返って苦笑する。

「何言ってんだよ、慎二だって嬉しいくせに〜」

「そうだそうだ!」

ワイワイ賑やかになった店内でマスターは、嬉しそうにでも少し困ったような顔で陸谷と会話を交わしていた俺を見て怒るでもなくにっこり笑顔を浮かべ、ちょいちょいと手招きしてきた。

「マスター?どうかした?やっぱ煩かったかな…」

「違いますよ。店の入り口に小さな仲間が来てるみたいですよ?早く行ってあげなさい」

ん?、と入り口に視線をやれば店の中を伺う小さな影が一つ。
きっと賑やかすぎて入っていいのか迷っているのだろう。

「教えてくれてありがと。マスター」

俺は仲間達の間を抜け、扉に向かう。

「廉?何処行くんだ?」

「廉さん?」

不思議そうに俺を見る仲間の視線を背に受けながら、店の扉に手をかけた。
そして、ひょっこり外に顔を出し、帰ろうとしていた小さな後ろ姿に声をかけた。

「悠、遊びに来たんだろ?俺もいるから中に入れよ」

「…ぁ、廉兄ぃ」

Larkで一番小さな仲間、妹の悠は俺が声をかけるとパァッと満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。


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