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工藤の一声でピンク頭が大人しくなった。
凄い、俺じゃこうはならない。
俺ももっと工藤みたいに男らしくなりたいなぁ。
なんて、頭の片隅に思いつつピンク頭の前にしゃがみこんだ。

「もう諦めろって。それに俺、しつこい奴より潔く敗けを認められる奴の方が好きだな」

数時間前のピンク頭の付き合え発言からして、こいつは俺と仲良くしたかったんじゃないか、と当たりをつけてにっこり笑顔を浮かべてそう言ってみた。
すると、効果はあったのかピンク頭はぶっきらぼうに悪かったな、と謝った。

「ううん。俺もさっきはやりすぎちゃったし、これでおあいこじゃない?それに、俺と遊びたくなったら後付けるんじゃなくてちゃんと声を掛けるとかにしろよ?」

と、言ってやれば上から盛大な溜め息が聞こえた。

「廉」

心なしか不機嫌そうに聞こえる。
俺は立ち上がり何?と工藤を見上げた。

「あんまソイツに近寄るな」

そして、ぐぃ、と腕を掴まれ引き寄せられた。

「おぃ、てめぇ。先に言っとくが廉は俺のだからな」

ピンク頭はフィ、と視線を反らし何も答えなかった。
が、その言葉を聞いて一人反論する人物がいた。

「ちょ、工藤!!いつ俺が工藤のモノになったんだよ!?」

「まだだけど、なる予定があるからな」

俺の文句を工藤は自信満々の笑みを浮かべてさらりと受け流した。
それから、ピンク頭達を放置して工藤は俺の腕を掴んだまま歩き出す。

「工藤!!あいつ等あのままで良いのかよ?」

「大丈夫だろ」

なんて、あっさり返されるとそんな気がしてきた。
不思議だ…。

「それより、廉。他に変な奴に付き纏われたりしてねぇだろうな?」

「してないって。大体誰が俺なんかに付き纏うってんだよ。女の子じゃあるまいし」

工藤がそこまで心配する意味が分からないって。
それに、そのくらい自分で何とか出来るし。
街から少し離れた住宅街に入り、小さな公園の横を通りすぎる。
そう返せば工藤はまたも溜め息を吐いた。

「溜め息ばっか吐くと幸せが逃げてくぞ」

俺は掴まれている腕を振り、隣を歩く工藤を見上げる。

「誰のせいだ…」

え?俺なの?
心辺りなんて一つもない俺はきょとんと目を瞬いた。
赤い屋根の家の前で立ち止まり、俺は門に手を掛け、工藤にそうだ、と声を上げて振り返る。

「どうした?」

「工藤夕飯まだだろ?お礼はいらないって言ってたけど、やっぱ色々お世話になったしさ。…家で食べてかないか?」

俺ん家、今夜は妹と俺しかいないし。ご飯は大勢で食べた方が美味しいし…、と工藤を見上げれば工藤は少し困った顔をして俺の頭を撫でてきた。

「誘ってくれんのは嬉しいけど今夜は用があるんだ。悪ぃな」

「そっか…。じゃぁ、仕方ないな」

少し残念に思う自分がいて、俺は内心で首を傾げた。
また誘えばいいことじゃないか、と俺は一人答えを出して、工藤を誘うという点については疑問すら抱かなかった。

「でも、用があるなら態々俺を送ってくれなくてもよかったのに」

頭を撫でていた工藤の手が頬にあてられる。

「そう言うな。俺は少しでもお前といたいんだ」

「…な、なっ、何言ってんだよっ」

そういうことは女の子に言え!恥ずかしい奴、と頬を朱に染め視線を反らせば、工藤はフッ、と笑みを浮かべ俺の顔を覗きこむ様に少し屈んできた。

「……ぅ」

「可愛いな、廉」

「…おれは可愛くない」

頬にあてられていた手がするり、と滑り顎を持ち上げられる。
何?と視線を戻した瞬間、視界いっぱいに工藤の端正な顔と優しげに細められた茶色の瞳と視線がぶつかった。
次いでふわりと唇に温かな感触。
え?え?え?
おれっ…、キス、されてる?
触れるだけでスッ、と離れた工藤を呆然と見上げながら、温かな感触を感じた己の唇に指をあてる。
嘘だろ…
俺、工藤にキスされた…?
停止していた思考が現実に追い付いた途端俺は、首筋までカァッと真っ赤に染めた。

「……っ!?」

工藤は真っ赤になった俺ににっ、と悪戯っぽい笑みを向けてくる。

「お礼はこれでチャラな。じゃ、また明日」

俺が羞恥のあまり固まっていると工藤はひらひらと手を振って去って行った。
その後ろ姿を呆然と見送り、見えなくなった所で俺は顔を掌で覆い、その場にしゃがみこんだ。
うわ〜っ!?
何、今のっ!?俺、俺…
恥ずかしい。物凄く恥ずかしい…!!
うぅっ、何て事するんだ工藤!?
それに…、

「俺、初めてだったのに…」

あっさり奪われて悲しい筈なのに、怒るべきなのに、嫌ではなかったと思う自分もいて。

「嫌じゃないって、どういうことだよ…?」

あ、もしかして俺、自分で考えるよりもファーストキスを重要視してなかったのかな?
だから嫌とか思わなかったとか!!
そっか、そうだ、きっと。うん。
でもっ、だからって次どんな顔して工藤に会えばいい?

「ぅう〜っ!!」

俺は顔から熱が引くまで門前でしゃがみこんでいた。






始まりの日 end


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