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「今までSnakeはWolfって奴が抑えてたんだ。あ、Wolfってのは知ってるか?」
ぶんぶんと首を横に振れば工藤はそれも教えてくれた。
「Wolfってのは何処のチームにも属さない、その名のごとく一匹狼の喧嘩屋だ」
そのWolfと工藤の気が合って、Wolfは良くDollに顔を出すようになった。
で、そのWolfがSnakeを何らかの方法で抑えていたけどその張本人が街から姿を消したのでSnakeがこれはチャンスだと思い動き始めた、と。
「だから、何でそれで工藤が動くんだ?」
そのWolfって人にでも頼まれたのか?
「潰すにはちょうど良いと思ったからだ。Snakeを気にくわねぇと思ってる奴は大勢いるし、街中で暴れ回って関係ねぇ奴らにも多少被害が出てたからな」
へぇ、そこまで考えてたんだ。凄いな、工藤って。これがこの地域一帯を締める総長か。
「WolfはよくDollの溜り場に出入りしてたから、今じゃ仲間みたいな存在でな、仕方なく後始末してやったんだ」
工藤は肩を竦め、話し終えるとカップに手を伸ばし、少し冷めたコーヒーをコクリと飲んだ。
「工藤、ありがと」
俺はカフェオレをちびちび飲みながらお礼を言った。
すると、工藤は意味が分からなかったのか俺の言葉に怪訝そうな表情を浮かべた。
「だから、ありがと。工藤はそう思ってないかも知れないけど、結果的には俺達を助けてくれたってことじゃん」
ほわり、と頬を緩めて笑えば、工藤はなぜか俺から視線を反らした。
「別に礼を言われるようなことじゃねぇ」
あれ?もしかして照れてるのか?
初めて見る工藤の一面に俺はまじまじと工藤を見てしまった。
「………」
「………」
「………ぷっ」
俺より年上で、男らしくてカッコイイはずなのに、一向にこっちを見ない工藤が何だか可愛く思えて、俺は堪えきれず笑ってしまった。
「…っ、はは…」
急に笑いだした俺を工藤は不審そうに見てきた。
「何だ?」
「…いや、うん。何でもないっ」
ははっ、可愛いとか言ったら絶対機嫌損ねるよな。
俺は口には出さず心の中に留めた。
「さて、俺もう帰らなきゃ」
部屋に置いてある時計に視線を移せば午後六時半をさしていた。
「もうそんな時間か。ちょっと待ってろ」
工藤はそう言うと、俺の手からカップを受け取り立ち上がる。
「あっ」
自分で持ってくよ、と言おうとしたが先に工藤が口を開いた。
「これ片付けたら送ってやるからそこで待ってろ」
大分暗くなった空を見ながら俺は工藤と二人、先程通った道を歩く。
「俺、送ってもらわなくても平気だよ」
ポケットに両手を突っ込み隣を歩く工藤に俺は何回目になるか分からない言葉を口にした。
「俺が心配で勝手にやってんだから気にすんな」
でも…。
俺がうろうろ視線をさ迷わせていれば急に工藤が俺の肩に手を回してきて引き寄せられた。
「…うわっ、なっ、何!?」
工藤の胸に抱き込まれるような形になり、俺は慌てて工藤の胸に手をつき押し返す。
「誰だてめぇら?」
その間、工藤は俺から手を離さぬまま、相手を威圧するような低い声でそう言い放った。
「…工藤?」
工藤に遮られてて見えないが、誰かがそこにいるらしい。
「誰だか知らねぇがお前に用はない。俺達はソイツに用があんだ。おい、坂下。さっきはよくもやってくれたなぁ。あ゛ぁ?」
俺はその声と内容に、数時間前に矢野と一緒に倒したありえないくらいド派手なピンク頭と緑頭を思い浮かべた。
「工藤、工藤」
俺は工藤の服をクィクィ、と引っ張って呼びかける。
工藤はチラッ、と視線を俺に落とし知り合いか?と聞いてきた。
それに俺は首を横に振り、何か知らないけど今日俺に付きまとってた奴ら、とだけ簡潔に教えた。
あれ?俺、別におかしなこと言ってないよな?
俺はへぇ、と一段と表情も声も鋭さを増した工藤に首を傾げた。
「付き纏ってた…、ねぇ」
工藤の雰囲気に呑まれたのか男達は、若干顔色を青くして無意識に一歩後ずさる。
「なっ、何だお前!?いいからさっさと坂下を渡せ」
それでも男達は怯むまいと、強気で口を開く。
「はいそうですか、と渡す馬鹿が何処にいる?それに、俺が廉を渡すワケねぇだろ」
ヒタリ、と工藤が鋭い視線で男を見やる。
「…っ、なら力付くで奪うまでだ!!てめぇ等やっちまえ!!」
男の掛け声で、五人のガタイの良い男達が一斉に工藤に襲いかかった。
腕の中でそれを聞いていた俺は工藤に離してくれ、と言ったが工藤はそのまま大人しくしてろ、と言うだけで離してくれなかった。
その上それだけでなく、逆に強く胸の中へ抱き込まれた。
「…んっ、工藤苦しぃ」
「てめぇ等、廉に手ぇ出した事後悔させてやる」
だから俺は工藤がそんな事を言っていた何て気付かなかった。
それから工藤は右腕一本と足技のみで、向かってきた男達をものの数分で倒してしまった。
side 工藤
向かってきた男共を倒し、俺は完全に青褪めたリーダー格っぽいピンク頭の胸ぐらを引き寄せ、間近から睨みつけた。
「いいか、今後廉に近付くなよ」
「ひっ、……わ、分かった」
ちっ、雑魚が…。
ピンク頭から手を離すと、ピンク頭はへなへなと崩れ落ちた。
「…工藤」
腕の中にいた廉が苦しげに身をよじり、俺の名を呼んだ。
「あ、悪ぃ」
苦しかったか、と腕の力を緩めてやると廉はん…、と鼻にかかるような息を吐き出し顔を上げた。
「―――っ!!」
廉は頬を赤く染め、少し潤んだ瞳で俺を見てきた。
本人にそのつもりはないのだろうが、俺は思わず視線を反らしてしまった。
「工藤?」
それを不思議に思った廉が首を傾げてきた。
ちょっと待て、俺。廉に他意はない。
はぁ〜、と息を吐き出し廉から腕を外す。
髪を掻き上げ、座り込んでいるピンク頭を見下ろす。
何も答えない俺を気にしつつも、廉はピンク頭を見た。
「まだ懲りてなかったのか?」
「…っ、うるせぇ」
ピンク頭がやけっぱちで怒鳴る。
「うるせぇのはてめぇだ」
それが耳障りで俺が低い声で言い返せばピンク頭は大人しくなった。
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