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side 陸谷

俺は矢野の隣に立ったまま隼人さんと廉さんのやりとりに耳を傾ける。

「じゃぁ、返事はしてないと?」

「うん」

廉さん…。
困惑したような表情を浮かべて頷く廉さんを俺はジッと見つめた。
廉さんはそこらの女より可愛い。ぱっちりとした大きな黒い瞳にスッと通った鼻筋、桜色した綺麗な形の唇。
小柄で華奢、可憐な見た目とは裏腹に喧嘩になればどこから力が出るのかと思うほど強烈な蹴りや拳をその肢体から繰り出す。
ある時は皆を守ろうとその小さな体を張って。

「なるほど、様子がおかしかったのはそのせいか」

矢野が瞳を細めて一人呟く。

「慎二?」

その呟きを耳にして、俺は視線を隣に移した。
矢野も俺に視線を向けてくる。

「お前はいなかったな。数日前、店に来た廉さんの様子が変だった。一人百面相しては何やらブツブツ呟いてた。まさか、それが工藤のせいだったとはな…」

矢野も少なからず廉さんを想っているのだろう。普段、飄飄としている顔を不快そうに歪めている。
いや、俺や矢野だけじゃない。
店内に視線をやればLarkの皆がそう思っている。
それぐらい廉さんは皆に大切にされているんだ。








side 隼人

よりによって工藤か。
厄介な…。

「その後、工藤とは会ってんのか?」

俺が何気無さを装って聞くと廉はちょっと気まずそうにまぁ、と頷いた。

「……はぁ」

「な、何だよ?」

こいつちゃんと分かってんのか?
告白されたってこと。
そんな無防備でいたら危ねぇって。
横と店中から俺に視線が突き刺さるのを感じた。
皆の言いたいことは分かってる。
俺は少し身をのりだし廉に言う。

「別に会うのが悪いって言うわけじゃねぇけど、ちょっとは警戒心を持て」

「何で?」

注意すれば即疑問符付きで返された。

「いいか、…気に入らねぇが工藤はお前が好きだと言った」

「…うっ、うん」

それだけで照れる奴にこの先の話をしても分かってもらえるのか?

「つまり、お前に好意を寄せている。そんな奴がすぐ側で無邪気に笑ってて見ろ、手をださない男はいねぇ」

うんうん、と店中の皆が頷くなか言われてる張本人だけが今だ分かっていなかった。

「手を出すって工藤が?ないない」

だが、廉は何を根拠にしてるのかそう言って顔の前で手を振り笑った。

「それがあるから言ってんだ。とにかく工藤に会う時は警戒心を忘れるな。いいな?」

俺が真剣な表情で言えば廉は笑いを納めて、納得いかないながらもわかった、と言った。
まったく、好きだって意思表示されてんのにどうしてコイツはこんなのんびりしてんだ。



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