09


隼人の話を聞き終えて俺もそれは確に妙だと首を傾げた。

「何で見ず知らずのDollが俺達を助けたんだろ?」

俺と隼人が真剣な顔を突き合わせていると、横に控えていた矢野が口を開いた。

「廉さん」

「ん?」

矢野の呼び掛けに隼人も矢野を見る。

「本当に心辺りないのか?」

そう聞かれ、俺はますます意味が分からないと眉を寄せた。
隼人も矢野が何を言いたいのかさっぱり分からず難しい顔をして言う。

「矢野、どういうことだ?」

矢野は俺の横にくるとちょっと失礼、と言って俺の髪を掻き上げた。
そして、髪に隠されていたクリムゾンのカフスが露になる。

「――っ、廉!!お前…」

ガタリ、と椅子から立ち上がり隼人が俺を凝視する。

「え?何?」

目を見開き驚きを露にする隼人と、仲間達から視線を一身に受けて俺はキョトンとして回りを見た。

「廉さん、このカフス誰に貰った?」

矢野がそっとカフスに触れ、俺はそこでカフスの存在を思い出した。
工藤に付けられてからそのまま付けっぱなしにしていたのだ。

「誰って…これがどうかしたのか?」

皆が驚く意味が分からない。

「廉、誰に貰った?」

今度は隼人がそう聞いてきた。
それにより店中の空気がピンと張り詰め、静まり返る。

「え〜っと、友達?」

「廉」

名前を言え、と隼人が視線で訴えてくる。
いったいカフスが何だっていうんだ。まったく。
俺は渋々口を開いた。

「…工藤に貰った」

その名を口にした途端、静まり返っていた店内がザワリと波打った。
隼人は忌々しげに舌打ちして呟く。

「工藤…、工藤 貴宏か」

「知ってるのか隼人?」

逆にそう問えば隼人を始め皆がえっ?と言う間の抜けた顔をして俺を見た。
え?何だよ皆して…。
その中で代表するように矢野が口元を若干引き吊らせて言う。

「まさか廉さん知らねぇのか?」

「工藤ってそんな有名な奴なのか?」

「これで分かった。アイツらが俺達に味方したワケが」

隼人は一人納得していたがその表情は険しい。
その表情のまま隼人は続けて俺に言った。

「廉、工藤はDollの総長だ」

「……えぇ!?アイツが!?あの最強チームの頭!!」

嘘だろ?工藤が?
たしかに喧嘩は強そうだ。何処かのチームに入っているみたいな事も言っていた。だが、男の俺相手に普通にナンパしてきたアイツがDollの総長だなんて誰も思わないだろ!?
と、とにかく仮に工藤がDollの総長だとして…

「何でコレだけで俺が工藤、いやこの場合Dollか?に関わってるって分かったんだ?」

俺は何の変哲もないカフスを指でなぞりながら聞いた。

「ソレは有名なんだよ。Dollのメンバーは皆シルバーにDって彫りの入ったカフスを耳に付けてる」

矢野がそう言えば、隼人がその話しに補足するように教えてくれた。

「深紅は総長、深青は副で幹部が深緑。俺達にコレがあるように、な」

隼人は首に掛っていたチェーンを引っ張って言った。
チェーンの先には、シルバープレートに雲雀の飛ぶ姿が刻印されている。
チームという形になる前、仲間内で合わせて買ったものだ。
俺も持ってるには持ってるが、大切なものなので持ち歩かず家に置いてあるが。

「それでか…」

納得した俺はカフスから手を離し隼人と視線を合わせて言う。

「Dollがどうあれ俺達に被害が出なかった、この際それでいいんじゃないか?」

「たしかにそうだけど俺は気に入らねぇな」

隼人は腕を組み、憤然と言う。

「俺もッス。それにそのDollの頭、どういうつもりで廉さんに近付いたんだか。チームのカフスまで渡して」

矢野の隣に並んだ陸谷が隼人に賛同するように言った。
それは…。
工藤が俺に近付いた目的は…。
俺は会って二日目に受けた告白を思いだし、カァッと顔を赤く染めた。

「「「廉(さん)?」」」

そんな俺に皆から視線が向けられる。

「な、何?」

「まさか工藤に何かされたのか?」

隼人が鋭い眼差しを俺に向けて言った。

「廉さん、そうなんスか!?」

「もしそうならDollであろうと俺達は許さねぇぞ」

陸谷と矢野も怖いくらい真剣な瞳を向けてくる。
それに俺は慌てて首を横に振った。

「違う違う!!別に何もされてないから!!ただ告られただけで!!」

「「「告られた!?」」」

しまった、つい言ってしまった!!
俺は慌てて口を閉じる…が、遅かった。

「それこそ問題だろっ!!」

誰かが叫ぶ。

「俺達の廉さんが汚されるっ!!」

け、け、汚されるって何だよ!?
叫びたい衝動をグッと堪え、これ以上余計なことを言わないように押し黙る。

「まぁ、待ててめぇら」

Dollへの憤りを一旦どこかへ置いて、隼人が騒ぎ立てる皆を静めた。

「ここは順序立てて説明してもらおうじゃないか。なぁ、廉?」

「……うっ」

何で俺が…。
そもそも俺って総長じゃなかったっけ?立場弱くない?
隼人が俺の向かいで腕組みをして質問してくる。

「まず、いつ工藤と会った?」

「…つい最近。えっと、五日前だったかな?」

アイツがナンパしてきたんだ。
始めはワケのわからないナンパ男だと思って逃げた。
けど、今じゃ会って一緒に遊んで家まで送ってもらったり…、よくよく考えれば俺何してんだろ?
俺は自分の行動を顧みて首を傾げた。

「その時、告られたのか?」

「ううん。次の日…」

でも正確には好きだとは言われてない。好きな奴って言われて…。

「……っ」

間近に覗き込んできた工藤の顔を思いだし、それを振り払うように首を振った。

「ちっ、」

「陸谷?」

怖いくらい眉間に皺を寄せて陸谷が舌打ちした。
どうしたんだ?俺、何か不味いこと言ったか?

「落ち着け陸谷。お前の気持ちは分からんでもない。Larkの中でもお前が一番廉を大切にしてるのは知ってるし、俺も弟のように大事にしてる廉を横からかっ浚われるのをただ見てる…なんてことはしない」

隼人が腕組みを解いて、水の入ったグラスを手に取る。

「隼人さん…」

「それで廉、返事はしたのか?」

……………返事?
……返事。
あ!?

「してない。だって聞かれなかったし…、俺びっくりしてそれどころじゃなかったから」



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