06


時間が経つのは早いもので、あの後通りに面した服屋や雑貨屋などに入り色々見て回って俺は今なぜか工藤と手を繋いだまま自宅の前まで送られていた。
女じゃないし別に平気だって言ったのに工藤は俺が心配だから、とかなんとか言ってなかば強引に手を引かれてここまで来てしまった。

「なぁ、もういい加減手ぇ離せよ」

「お前ンちここ?」

庭付き一戸建ての赤い屋根の極普通の家を差して工藤は言った。

「そう」

やっと離して貰えた手は工藤と繋いでいたせいか仄かに温かかった。
工藤の手って俺より一回りでかいよなぁ。
離れていった手を何気無く見ながら俺はそんな事を思った。

「廉?」

「あっ、何でもない」

俺はぱっと視線を上げると慌ててそう返す。
そして、家の門に手を掛け鍵を外すと工藤を振り返り、一応送って貰ったお礼を口にした。

「工藤。その…今日はありがと。楽しかった。じゃぁ」

言っている間に急に恥ずかしさが込み上げてきて俺は言い終えるとさっさと家に入ろうとくるりと向きを変えた。
その背後に工藤の声が掛る。

「廉、俺も楽しかったぜ。またな」

ちらりと振り返り見た工藤は、悪戯めいた笑みでもなく純粋に楽しかったと嬉しそうな表情を浮かべていて、その笑顔を見た瞬間俺の胸に戸惑いと恥ずかしさと嬉しさと様々な感情が渦を巻き、奥底から熱い何かが込み上げてきた。
そんな俺の様子に気付かない工藤は俺に背を向け歩き出す。

「―っ、工藤!またな!!」

気付いたら俺はその背に向かってそう言っていた。
工藤は立ち止まり一瞬驚いた顔をしたがすぐに嬉しそうな表情になり、軽く右手を振ってきた。
工藤の姿が見えなくなり、家に入るとパタパタとスリッパを鳴らして妹の悠が出てきた。

「おかえりなさ〜い、廉兄ぃ!」

「ただいま」

「ねぇねぇ、今の人誰?」

悠は瞳をキラキラさせて俺を見上げてきた。
…見られてたのか。恥ずかしぃ。
俺は自分になついてくれている悠の頭をなでながら答えた。

「今のは工藤っていって俺の…友達」

だよな?それでいいんだよな。

「ふぅん。髪の毛キラキラしててキレーだったね!」

「ん?そうだな」

キラキラって金髪の事言ってんのか。
可愛いなぁ。
くしゃくしゃと髪を掻き混ぜて俺はリビングへ向かう。

「父さんと母さんは?」

「今日も遅くなるって…」

そう聞けば悠はしゅんと落ち込んでしまった。
やっぱり俺になついてても両親が居ないと寂しいよな。

「じゃぁ、夕飯は悠の好きな物作ってやるよ。何がいい?」

「ハンバーグ!!」

「ん、わかった。お兄ちゃんにまかせろ」







side 工藤

まさか廉の口から次を約束する言葉が出てくるとは…。
俺は家ではなくDollのアジトに向かいながら笑みを溢した。
少しは前進してると思っていいのか?

「いいんだよな?」

別れ際の廉の照れたような顔を思い出しながら、俺はアジトへ着くと上機嫌のまま扉を開いた。

「「こんちわッス、総長」」

アジトへ足を踏み入れると幹部連中や仲間が俺に挨拶してくる。
そして、その輪の中にいた悟が立ち上がり俺の元に来ると少し話があります、と言ってアジトにしている店の更に奥にある部屋に俺を連れていく。

「話ってなんだ?」

数人は座れるだろう大きめのソファーに腰を下ろし、足を組んで悟に話を促す。
悟はソファーに座らず俺の横に立ったまま口を開いた。

「今日の昼間、貴方がLarkの総長と歩いているのを見かけました」

「それで?」

こいつに見られてたのか。まぁ、別にかまわねぇけどな。今日は楽しかったし、俺の邪魔さえしなければ…。

「貴方が昨日Larkには手を出すなといった本当の理由は坂下 廉にあるんじゃないですか?」

へぇ、さすが悟。それだけの事でよく気付いたな。

「俺がそうだ、と言ったらどうする?」

ただそれだけの理由で、と俺の命令をはじくか?
それとも…。
挑発的な視線で悟を見やれば悟はため息を一つ吐きだして、俺の正面のソファーに座った。

「別にどうもしませんよ。今更作戦に変更が出るワケじゃありませんし。ただ…」

悟はじろりと俺を真正面から見据えて続きを口にする。

「チームの為にも嘘はつかないで下さい。俺達はどんな理不尽な命令をされても貴方に、貴宏について行きますから」

どうやら悟は俺が本当の事を口にしなかったから怒っているらしい。

「そうは言っても廉との事はDollの総長としてじゃなく俺個人としての事だぜ」

だから言わなかった。

「それでも、俺達は言ってくれると嬉しいんですよ」

そう言って微笑んだ悟に俺はサンキュと返して、表情をDollの総長としてのものに切り替えた。

「それで人数は集まったか?」

悟も表情を引き締め副総長の顔になり頷く。

「えぇ。貴宏に言われた通り集めました。少人数の精鋭を」

「ワケは話したか?」

「はい。彼等もsnakeは前々から気に入らなかったんだと言ってやる気になってます」

「そりゃいい。これを機に再起不能にしてやろうじゃねぇか。俺の廉に手を出そうとしたこと後悔させてやるぜ」

にやりと口端を吊り上げ、ここにはいない敵に向かってそう口にした。

「廉さんではなく正確にはLarkに、ですけどね」



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