05


ファーストフード店に入り、俺達は案内された窓際の席に座る。
そして、それぞれ何を食べるか決めると注文して待つ。

「なぁ、本当にそれでよかったのか?」

俺は工藤のポケットにしまわれたピアスの袋を指して言う。

「いいんだ。廉が選んでくれたって事に意味があるんだし、俺もコレは良いと思ったしな」

「それならいいけど…」

俺は左耳に填められたカフスに手をやって言葉を続ける。

「でも、本当にこのカフス貰っていいのか?」

「くどいな、俺がやるってんだから黙って貰っとけ。それとも俺から物を貰うのが嫌か?」

俺は工藤の言葉に首を振って否定した。

「そうじゃなくて、この前会った時もしてたから工藤の大切な物じゃないのかなって思って…」

ウエイトレスが注文した品を運んできたので俺は口を閉じた。
皿を並べ終わり確認をとったウエイトレスはさっさと去って行った。
それから工藤が口を開く。

「確かにそれは気に入ってた物だけど、俺がお前に持ってて欲しいと思ったからやったんだ。だから、問題ねぇ」

工藤は大切な物だと言いながら簡単に俺に渡してきた。
それが俺には良く理解できなかった。
大切な物なら俺なんかに渡さず取っておけばいいのに…。
それが表情に出ていたのか工藤は俺の頭に手を伸ばしくしゃくしゃ、と軽く掻き混ぜるとにっと笑った。

「今はまだ分かんなくてもいいぜ。取り敢えず貰っとけ」

「…うん」

この時、俺はまだ工藤に渡されたカフスのせいで大変な目に合うことになるとは知らなかった。

昼食を食べ終えた俺達は店を出て、行き先も決めずにぶらぶらと大通りを歩く。

「へぇ、工藤って緑高生なんだ。頭良いんだな」

「そう言うお前だって進学高だろ?」

まぁ、と答えながら俺は今までの会話の中で得た工藤に関する情報を整理した。
7月生まれのB型で18才。
一応年上だから工藤さんって呼んだ方が良いのかって聞いたら呼び捨てで良いって言われた。まっ、名前で呼んでくれればもっと嬉しいけどって言われたが俺は無視した。
んで、どうやら工藤は家を出て現在一人暮らしをしているらしい。
意外なことに料理も出来るとか…。

「なぁ、そういえば工藤ってどこで俺の事知ったの?」

初めて会った時から工藤は俺の事知っていたようだし、この際だから思い切って聞いてみた。
そうだな、と工藤は俺をじっと見つめて口を開いた。

「いつだったかな…。お前を見たのは随分前だ。路地裏で男4人に囲まれてたお前を見た。そん時、暇潰し程度に俺は助けてやろうと思った。でもお前は俺が助ける前にあっという間に男4人を倒した」

工藤の言う場面を思い浮かべて俺はあぁ、あの時かと思い出した。

「自分よりでかい男達を一瞬にして沈めたお前を俺は凄いと思った。なにより戦ってる時のお前は綺麗で怖かった。その後すぐお前の元に青いメッシュの入った黒髪の男が来てお前は去って行った」

黒髪に青のメッシュ、それは隼人のことだろう。
あの日俺達はLarkのシマを荒し回っていたチームを潰すため動いていた。
総長の俺が自ら囮になり、仲間にこっぴどく怒られた覚えがある。
結局、シマを荒らしていたチームはたいして強くなかった。
その日の内にそのチームは解散させたし。

「それからお前のことが気になって色々調べたんだ」

「それでか」

「そーゆうこと。まさかLarkの総長だとは思わなかったけどな」

工藤は苦笑して言った。

「俺が総長だったのが意外だった?」

小柄で時たま女に間違われることもある俺は、工藤が最初それを知ってどう思ったのか聞いてみたくなった。

「いいや、小柄な体からくりだされたとは思えないぐらい威力のあるパンチに蹴りだったし、なるほどって納得したぜ」

そっか、と俺は工藤に認められた様な気がしてほんの少しだけ嬉しくなった。

「でさ、いい加減工藤がどこのチームなのか教えろよ」

「何だ、俺のコトが気になるのか?廉にだったら何でも教えてやるぜ」

にっと悪戯な光を瞳にともして工藤は俺に笑い掛ける。

「何でもって…」

「俺の全て。例えば…」

工藤は内緒話でもするように俺の耳に唇を寄せると、俺にしか聞こえない声で囁いた。

「―――っ」

その言葉に俺は瞬時に顔を真っ赤に染める。

「だ、だ、誰がそんなこと聞くかっ!!」

つい大声を出してしまい買い物客や通行人が俺達の方を振り返る。

「そうか、俺は気になるけどな。廉の初恋の人とか初キスはいつだったのかとか…」

「…ちょっと黙って。もう何も聞かないから何も言わないで」

俺はまだまだ続きそうな工藤の言葉を遮ってそう言った。

「別に冗談で言ってるワケじゃねぇぜ。俺はお前の事をもっと知りたいと思ってるし、俺の事も廉に知って欲しいと思ってる」

「じゃぁ何でそれがすぐ恋愛の話になるの?」

普通に自分の趣味とか好きな食べ物とか教えてくれればいいのに工藤はすぐそっちに、俺の苦手な分野の話に移す。

「ん〜、やっぱ俺が知りたいからだろうな。今廉の気持ちは誰にあるのか、とかさ」

〜〜っ。こいつ、よく恥ずかしげもなくそんな事が言えるな。
聞いてるこっちが恥ずかしぃ…。

「でもま今んとこ誰にも向いてないみたいだし。それに、少しは俺に向けられてるっぽいしな」

「何でそんな事分かるんだよ?」

俺は赤くなった顔を隠すようそっぽを向いてぶっきらぼうに聞いた。

「ん?そうだな、一つ目はお前の俺に対する態度。二つ目は表情」

何だよそれ。確に最初に比べれば俺の工藤に対する態度は変わっている。こうして一緒に遊ぶぐらいには。
表情ってなんだ?別にどこも変わってないだろ。

「意味分かんない」

「お前って自分のことになると凄げぇ鈍いのな。まぁそれも廉の魅力の一つでもあるが、俺としては周りからどういう目で見られてるのか少し自覚して欲しいぜ」

工藤はそう苦笑して俺の頭を撫でてきた。

「子供扱いすんな!!」

俺はそれが気に入らなくて工藤の手を払い除けた。








side ???

「あれは…」

休日で人の賑わう街中を歩いていれば、反対側の歩道に知人と一方的に顔だけを知っている人物が楽しそうに話しながら歩いているのを見つけた。
そして、歩みを止め知人と一緒にいる人物を見て男は軽く目を見開いた。
しかし、それも一瞬で考える仕草をした男は、

「なるほど。そう言うことか…」

と、一人納得したように呟き、去っていく二人の後ろ姿を見送った。


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