04


工藤は俺に気付くと向こうから近付いてきてくれた。
そんな工藤に俺は安堵しつつ今見た光景を元にからかうように口を開く。

「やっぱり工藤ってモテるんだな。女の人に声かけられてたじゃん」

「お前な、言ってる事と浮かべてる表情が矛盾してるのに気付いてるか?」

「は?」

何言ってんだこいつ?俺はちゃんと笑ってるだろ。
俺が意味が分からない、と首を傾げていると急に工藤が俺の腕を掴み自分の方へ引っ張る。

「うわっ!?」

そして俺はなぜか工藤に抱き締められた。

「なっ、何するんだよ!?放せ!!」

俺は真っ赤になりながら離れようと両手で工藤の胸を押す。

「廉が泣きそうな顔をしてた理由を言えば放してやる」

工藤はそう言って俺を見おろす。
けど、俺工藤の言うような泣きそうな顔なんてしてない。
お前の見間違いなんじゃないのか?

「俺そんな顔してない…」

「本当に?」

工藤は俺を抱き締めたまま俺の顔を覗きこんでくる。
そのあまりの近さに俺はドキリとして、顔をさらに赤く染めると工藤から顔を背けてこくこくと頷く。

「ならいいが…」

俺の言葉に納得してくれたのか工藤は腕の力を弱めると俺を放してくれた。

「で、どこか行きたいとことかあるか?」

工藤は何もなかったように俺に聞いてくるが、俺は恥ずかしさのあまり顔を上げられなかった。
だって、人混みの中にもかかわらず工藤は俺を抱き締めてきたんだぞ。
ほら、周りからの視線を凄く感じるんだよ。

「とりあえずここから移動したい」

俺達は時計台から離れて五番街のメインストリートを並んで歩く。
さすがにメインストリートなだけあって様々な店が並び、客が入っていた。

「廉、どっか行きたいとことかあるか?この前と違って今日は時間もあるし、好きなとこに連れてってやるぜ?」

工藤はにっといたずらっぽく笑うと俺にそう言ってきた。
その笑みがこの前と被って俺は僅かに頬を染め、それに気付かれぬようそっぽを向いて答えた。

「特にない。だって俺、今日は本当に暇で何しようか考えてたぐらいだし…」

「そっか。じゃ、ないなら俺の買い物に付き合えよ」

「別にいいけど、何か欲しい物でもあるのか?」

「あぁ、そろそろ新しいピアスを買おうかと思って」

工藤は自分の耳についているシルバーのシンプルなピアスに手をやって言う。
その他に工藤は両耳にクリムゾンのイヤーカフをつけていた。
俺は視線をそのピアスに向けて言う。

「よくピアスなんて開けるよな。痛くないのか?」

「ん〜、最初はちょっと痛いかも知れねぇけどそうでもないぜ?その後は穴が塞がらないようピアスをしとけばいいだけだし。なんなら俺が開けてやろうか?」

工藤は立ち止まって俺の耳たぶに触れてくる。

「いや、いい。なんか怖そうだし…」

俺が首を振ってそう言うと工藤はくすりと笑った。

「そりゃ残念。せっかくお揃いにしようと思ったのに」

「な、何言ってんだよ!?」

「まっ、開けたくなったら言えよ。俺が開けてやるから」

工藤は俺の耳から手を放すと再び歩き始める。
俺も慌てて歩き始めると工藤は今度はそうだ、と言って歩きながら自分の左耳にしてあるカフスを外した。

「これなら開けなくてもつけれるよな」

そう言って外したクリムゾンのカフスを俺の左耳につける。

「ちょっ、何してんだよ」

自分の左耳に手をあてるとひやりとした感触が伝わる。

「ん。似合ってるぜ、廉」

「いや、似合ってるって言われても…」

「それ廉にやるよ」

「えっ!?そんな、貰えないって!!」

俺がそう言ってカフスを外そうとすると、工藤は俺の手を掴んで止めさせる。

「いいんだよ。俺がやりたくてやってんだから貰っとけ。それに、俺が誰かに物をあげるなんて貴重なんだぜ」

「でも…」

俺が渋っていると工藤は仕方ないなぁ、と呟いてこう言ってきた。

「それなら、今から行く店で廉が俺のピアスを選んでくれ。そのお礼としてそれをやる。どうだ?」

それも何か違う気がして俺は困惑したが、工藤は構わず俺の腕を掴むとストリートに面した一軒のお店に入って行く。
店の中に入ると、正面にはきらきらと輝くお揃いの模様であしらわれたネックレスと指輪が、ガラスケースの中に数点並べられていた。
その他にもアンクレットやブレスレット、ピアスなどがいくつも並べられていた。

「ここって…」

「俺がよく来る店の一つで結構良い雰囲気だろ?」

店内に流れるおとなしめの曲に、落ち着いた色合いの内装。

「こっちだ」

工藤に言われて着いて行くと様々な色や形をしたピアスが並べられていた。

「へぇ、結構種類があるんだな」

「こうゆうとこ来んの初めてか?」

「うん、まぁ。だって俺アクセサリーとかってつけないし」

俺は並べられているピアスの中からシルバーで十字架の形をしたピアスを手に取る。

「工藤、どんなの欲しいんだ?」

「そうだな…」

工藤は少し考える仕草を見せてから口を開く。

「基本的に俺が付けてんのはシンプルなモンばっかでそこまで凝ったモンはねぇな」

「ふぅん。じゃぁ、コレとか?」

深緑のピアスを手に取って見せる。

「あっ、でもこっちの方が良いカナ?」

それを戻して俺は青色のピアスを工藤の耳元に近付けてじっと見つめた。

「廉が選んでくれた物ならどっちでもいいぜ」

「なんだよそれ。自分のだろ?」

嬉しそうに言う工藤に俺は首を傾げながら手に持っていた青いピアスを渡した。
工藤は俺の選んだ青いピアスを眺めると何も言わずにレジに持って行く。

「って、工藤!!本当にそれでいいのか?ちゃんと自分でも選べよ!!」

工藤の背中に声を掛けるが工藤はちらりと振り返って、いいんだと笑うだけだった。
本当にそれでいいのかよ…?
さっさとレジで会計をすませた工藤は俺の元に戻ってくると次行くぞ、と俺の手を引いて店を出た。
…あのさ、だからこの手は何!?

「ちょっと工藤、手ぇ放せよ!!」

「嫌か?」

工藤は少し困ったような表情を俺に向けて聞いてきた。
うっ、そんな顔されると嫌って言えないじゃんか。
俺は初めて見る工藤の表情に戸惑った。
そりゃ、知り合ったのはついこの間だけど工藤はいつだって自信満々の笑みを浮かべていた。
その上、人の意見も聞かない強引な奴だと思っていたからそう聞かれると余計に…。

「う〜、人前は嫌だ」

考えあぐねて俺はそう答えた。

「そうか」

ぱっと手を放されて俺は工藤がどう思ったかちらりと工藤の表情を窺った。
だが、工藤は気分を害した風でもなく変わらず上機嫌で俺に次の行き先を告げる。

「もうすぐ昼になるし、その辺の店で適当に食うか?」

「…うん」

俺達は少し先にあったファーストフード店に足を向けた。


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