02


朝起きると携帯に凄い数のメールと着信が着ていた。
開いて見るとLarkの仲間達からだった。

「いけね、昨日店に行くってメールしたんだった…」

メールの内容はほぼ同じもので、俺が店に行くと言って来なかったからどうしたのか、と心配するものだった。

「えっと、昨日は急用があって…と」

なぜか工藤の事を教える気にならなくて急用とだけ打つ。
また、今日は顔を出すと打って送信。
それから今日は土曜で学校も休みだから二度寝をすることにして布団に潜り込んだ。




昼過ぎに目が覚めて、着替えて階下に降りると家の中には誰もいなかった。

「悠(ユウ)は遊びに行ってるのか?」

悠というのは俺の妹で現在小学5年生だ。両親が共働きをしているせいで、悠が小さい頃から俺が面倒をみているのだ。その分、両親より俺は悠に好かれているワケだが…。
俺は適当に自分の昼飯を作って食べると自室に戻り、携帯片手に家を後にした。
店に向かう途中、俺はまた工藤に遭遇するんじゃないかと少し思ったが、工藤に会うことはなく無事店まで辿り着いた。

-カラン、カラ〜ン-
ドアを開けると中にはLarkの面々が顔を突き合わせて何やら話し込んでいた。
俺が来たのにも気付かずテーブルの上に視線を落とし、何やら話し込んでいるLarkの面々。
俺は静かに近付き後ろから覗きこむ。
すると、テーブルの上に広げてあるのがここら周辺の地図だということが分かった。

(なんで地図…?)

よくよく見ると地図には赤いペンで×印がいくつか書き込まれていた。
俺は真剣に地図を見ている意味が分からず首を傾げて、口を開く。

「お前ら何してんだ?」

俺の声に背を向けて座っていた男達が驚いて振り返る。

「うわっ、廉さん!脅かさないで下さいよ」

「総長!!いつ来たんですか?俺達、昨日待ってたんですよ」

「そうそう、何で来てくれなかったんスか?」

俺に気付いたLarkの皆は席を立って次々に話しかけてくる。

「き、昨日は店に来る途中急に用が入って来れなくなったんだよ。心配させたみたいで悪かった」

皆の勢いからか、それとも皆に嘘を吐くという罪悪感からか俺は少し早口になりつつ謝った。

(何で俺がこんなこと…。全部工藤が悪いんだ。あいつが俺の前に現れてあんなコト言うから)

俺は皆から追求されてボロが出る前に皆の前からカウンターに移動した。
しかし、廉本人は気付いていないようだが、ほんのり頬を赤く染めた廉を見てLarkの面々は昨日の急用というのは嘘で何かあったんじゃないかと疑いを持った。

「総長の急用って何だったんだ!?」

「まさかデートじゃないだろうな?」

「そんな…」

Larkの面々はまたも真剣な表情で顔を突き合わせて、今度は我等が総長のことについて話し始めた。
そんな話をしているとは知らない俺はカウンター席に座り、マスターにカフェオレを頼む。
その間に店内をざっと見回しある人物を捜す。

「あれ?隼人来てないのか?」

「隼人さんなら昨日は来てたぜ?今日はまだ見てないけど」

俺の疑問に、隣に座ってきた金髪の長身男が答える。
この男はLarkの幹部の一人で名前を矢野という。
そして、会話中に出てきた隼人というのはLarkの副総長、相沢 隼人のことだ。

「そっか。でさ、結局なんであいつら地図なんか見てるの?」

マスターからカフェオレを受け取り、俺はまた話し込んでいるLarkの面々に視線を向ける。
矢野もその視線の先を見てあぁ、と呟く。

「最近、この周辺の小さいチームが次々潰されてるみたいだからその情報集めと整理をしてるんだ。俺達の前にも現れるかも知れねぇから隼人さんが調べとけって」

「それでか。でも、それなら俺にも早く教えてくれればよかったのに…」

俺は初めて耳にした情報に唇を尖らせる。
矢野は俺の頭をぽんぽんと軽く叩くと苦笑して言う。

「仕方ねぇだろ?廉さんにはまだ教えるなって隼人さんが口止めしてたんだ。そのお陰でチームのことを気にせずテストに集中できただろ?」

「…うん、まぁ出来たけど」

そうなのだ。俺はここ暫く学校の中間テストに集中するため店に顔を出していなかったのだ。
それを知っている皆は邪魔をしないよう、本当に急な用がない限り俺に連絡はしてこなかった。

「それでその犯人とか目的は分かったのか?」

矢野は俺の言葉に首を横に振ってまだ、と言う。

「とにかく廉さんも気を付けろよ」

矢野はそれだけ言うと席から立ち上がり、話し込んでいる皆の方へ行ってしまう。
俺はカフェオレを飲みながら矢野の言葉を反芻する。

(気を付けろ、か)

俺の周囲にすでに一人、よく分かんない男がいるんだけどな。
皆に言った方がいいのかな?
でもさっき誤魔化したばかりだし…。
それに、強引な奴ではあったけど悪い奴には見えなかったしなぁ。

「いや、待てよ。それが奴の手段かも…」

俺は一人百面相をしながらぶつぶつと呟いていた。
そんな廉を離れたテーブルから盗み見ていたLarkの面々はひそひそと声を潜めて言い合う。

「やっぱり昨日何かあったんだ」

「何かって何だよ?」

「廉さん可愛いから悪い男にひっかけられた…とか?」

「そんな奴いたら俺達が潰してやる!!」

「馬鹿、声が大きい。総長に聞えちまうだろ」

矢野は地図をほったらかしにしたまま、廉の話をしている仲間達に、からかい半分の言葉を投げ入れる。

「もしかしたら恋かもな」

その言葉に皆は凍りついたように動きを止めた。







side 工藤

-同時刻-
今日も廉に会いに行こうと思ったが、朝からかかってきた一本の電話により予定を変更せざるおえなかった。

「それで、何があった?」

俺は鋭い視線を目の前に座る男に向ける。

「貴宏には伝えておいた方が良いと思いまして…」

そう話を切り出した目の前の男は、俺が総長を務めるDollの副総長で名前は永原 悟。
普段は温和で敬語キャラだが、キレたりチーム同士の争いになると人が変わる。
まず、敬語は吹き飛び、乱暴な言葉遣いになる。
それだけならまだしも、冷酷な表情を浮かべながら暴れまわるのだ。

「どうやらSnake(スネーク)がまた暴れ始めたみたいなんです」

「Snakeか…。たしかWolf(ウルフ)が一度潰したんだったな。その後も諦めずうろちょろして目障りだったからあいつが脅しをかけて黙らせたんじゃなかったのか?」

「それが、どうやらWolfが姿を消したのに気付いたようで…」

そういうことか…。自分達を抑えていた張本人がいなくなればもう怖いものは無し、ってか?
…ったくWolfの野郎も余計なもの残して行きやがって。片付けてけってんだ。
廉に会いに行く時間が減っちまうだろうが!!

「Wolfの野郎、次会ったら一発殴ってやる」

俺はそう決意すると悟から詳しい話を聞くことにした。

「それでSnakeは今どこら辺で暴れてるんだ?」

悟は俺の問いかけに答える前にこう聞いてきた。

「貴宏はLarkというチームを知っていますか?」

俺はもちろん知っている。昨日、そこの総長と会っていたのだから。
俺は頷いて続きを促す。

「それがどうした?」

「Snakeの現在の標的はLarkです。その証拠にLarkの拠点の周りに存在する小さなチームが次々潰されているんです。そして、最終的にLarkを潰してその座を奪うつもりでしょう」

Snakeというチームはいつも周りからじわじわと攻め、標的となったモノにいつ自分が襲われるのかという恐怖を与え、自分達の方が優位に立っているんだと知らしめるのだ。

「Larkはそのことに気付いてるのか?」

「いえ、まだ情報収集の段階だと思います。それにSnakeはLarkが出来る前にWolfが抑えてましたから存在そのものを知らない可能性も…」

そうか、それにNo.3とはいえ廉のトコは争いを好まないチームだからな…。
よし、廉に危害が加わる前に俺が片付けるか。

「悟、手のあいてる奴等数人集めとけ。2日後、Larkに気付かれないようSnakeを潰す」

「解りました。けど、一つ聞いても?」

悟が言いたいことは分かっているがとりあえず俺は頷いて聞いてみる。

「なぜLarkに気付かれずに、何ですか?Wolfの後始末をするためとはいえLarkの縄張りで争うからですか?それならLarkを先に抑えれば…」

「まぁな。その方が楽だろうな。それでも俺はLarkとヤリ合う気は無い」

俺が真剣な表情できっぱり断言すると、悟は訝しげに眉を寄せる。

「貴宏がそこまで断言すると言うことはLarkに何か手を出せないような理由でもあるんですか?」

ある。俺には重大な理由が。
Larkに手を出すということは、イコール廉の敵になるということだ。
それでもし、敵視された上嫌われてみろ、どうしてくれるんだ。
だから駄目だ。
と、本当のことを悟に言うわけにもいかず、俺は当たり障りのない事をもっともらしく言う。

「特に無いが、No.3とはいえLarkを相手に数人で勝てるか?無理だろ。それにあまり大きな動きを見せると先にSnakeに気付かれて逃げられる可能性がある。だからどちらにも気付かれずに動くんだ」

「…そう、ですか。分かりました」

悟はまだ何か言いたそうにしていたが、俺は無視して立ち上がる。

「話はそれだけだな?」

「はい」

「じゃ、さっき言った通り2日後までに数人集めとけ」

俺は悟に指示を出すと店を出た。
携帯を取り出して、今回のさわぎの発端となった人物にメールを打つ。
いつでもいいから店に顔を出せ。お前がちゃんとSnakeを始末していかねぇからこっちは…。
など、思い付く限りの文句を並べたてる。
最後に送信ボタンを押して携帯を閉じると俺は時刻を確認して溜め息をついた。
これじゃ、今日はもう廉に会いに行けないな。



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