01


side 廉

俺の名前は坂下 廉(サカシタ レン)16歳だ。
身長は165cmしかなく、周りからはガキだのチビだの言われているが、これでもLark(ラーク)というチームの総長をしている。
些細な争いはあっても比較的平和に毎日を過ごしている。
…ところが最近、俺に絡んでくる迷惑極まりない男が現れた。
男の名は工藤 貴宏(クドウ タカヒロ)。18歳で身長は180cmあり、一応コイツもDoll(ドール)という族の総長をしている。
そもそも工藤と知り合ったきっかけは、こいつが何を思ってか街中で俺をナンパしてきたのが始まりだった――。







その日は天気も良く、特にすることもなかったので俺は街中をぶらぶら歩いていた。

(そろそろ皆店に集まってるかな…?暇だし行ってみるか)

俺がLarkのたまり場に向かおうと足を方向転換させた時、知らない男に声を掛けられた。
だが、街中を一人で歩いていると良くあることなので俺は無視する。
その時は大抵、俺を女の子と間違えてナンパしてくる奴らなのだ。

(俺のどこが女に見えるってんだ!!)

本人は気付いていないが、廉は中性的な顔立ちの上背が低いため周りからは少女に見られていた。

「なぁ、お前俺と付き合わない?」

俺が男を無視してそのまま歩いていると今度は別の男が声を掛けてきた。
俺はさすがにムッとして言い返す。

「俺は男だ!!」

俺はこの時、言い返さず無視すれば良かったのだと後々後悔した。
男は俺の言葉に驚くでもなくあっさり答える。

「あぁ、知ってる。だから何?」

「な、何ってあんた…」

そうあっさり言われて俺の方が驚いてしまった。

「問題でもあるのか?」

「あるだろ!そりゃ、おおいに…」

「ふぅん。まっ、俺そんなの気にしないし。で、付き合わない?」

「…だれがお前なんかと付き合うかっ!?」

俺は取り敢えずこのワケの分からない男を置いて逃げた。
その後たまり場に行く気も失せ家に帰った。








…翌日…

俺は昨日の出来事をすっぱり頭の中から消去して店に向かって歩いていた。
今日は店に顔を出さなくちゃな。ここの所テストがあって行けなかったし、皆心配してるだろうなぁ。
一度道の端に寄って立ち止まり、携帯で今から店に行くとメールを打って送信っと…。
パクンと携帯を閉じてポケットにしまう。

「終ったか?」

俺一人で歩いていたはずなのに急に横から話し掛けられて驚く。

「お前、昨日の!」

隣をみれば、俺が昨日記憶を削除したはずのナンパ男がいた。

「おっ、覚えててくれたんだ」

それは、男と知っててナンパして来たのはお前が初めてだからな…。忘れたくても忘れられないだろう。

「で、今日は何の用?」

とりあえず用件を聞いてさっさと帰ってもらおう。

「その前に俺はお前じゃなくて工藤 貴宏。よろしく、廉」

「何で俺の名前…」

「ん?だってお前Larkの総長だって有名だぞ」

あ、そういうことか。でも俺を知っているってことはコイツももしかしてどこかのチームに属しているんじゃ…。

「なぁ、俺を知ってるって事はお前もどこかのチームの人間なのか?」

「さぁ?それよりも今からデートしようぜ」

「はぁ!?何で俺がお前と…」

強引に俺の腕を掴んで工藤は歩き出す。
結局、工藤に話をはぐらかされたまま連れてこられたのは隣町のゲームセンター。
なぜ…?

「ん?そんなの決まってるだろ。映画は好みの問題もあるし、遊園地とかは今から行っても遅い。まぁ、廉が泊まりでも良いってんなら行くけど…」

俺の疑問を感じとったのか、にやりと笑って告げてくる工藤に俺は慌てて首を横に振る。
工藤なら本当にやりそうで怖い。短時間の間だが、俺に有無を言わさずここに連れて来たぐらいだ。

「ゲーセンで十分」

「そうか?」

工藤はそう言うと俺の腕を掴んだままゲーセンの中に入って行く。
って…、ちょっと待て。

「おい、手ぇ放せ!」

「大丈夫だって。女にしか見えないから」

「それこそ冗談じゃない!!」

入り口で騒いでいたせいか店内の客の視線がこっちを向く。
うわぁ…ヤバい。

「ほら、騒いでないで行くぞ」

工藤は俺を視線からかばう様に前に出ると、二階に上がるためのエスカレーターに向かう。
俺はその工藤の後について行く。
二階は下と違いメダルを使うゲームなどがあり、端にはクレーンゲームが数台設置されていた。

「ちょっと待ってろ」

工藤はそう言うと俺を残して何処かへ行ってしまう。
何で俺、おとなしくアイツについて来たんだ?いや、そもそもアイツが強引に…。
戻って来た工藤の手には紙コップが2つ。

「ほら」

「あ、ありがと」

渡されたのでつい受け取ってしまった。ついでに、紙コップの中身はカフェオレだった。
俺は一口飲んで、今まで疑問に思っていたことを聞く。

「なぁ、なんでわざわざ隣町のゲーセンまで来たんだ?ここまで来なくてもあっただろ?」

「あるな。でも、地元じゃ邪魔されてゆっくりデート出来ないだろ?」

「邪魔ってなんだよ?ってか、それ以前に俺はお前と付き合ってないからデートじゃない!!」

俺の言葉に工藤はふぅん、と意味ありげに呟くと言う。

「ならなんで俺について来た?」

「そ、それはお前が強引に…」

「……わかった。じゃ、今日はこれで帰ろう」

「はぁ!?」

何言ってんだコイツ。俺を強引にここまで連れてきたくせに。

「ほら帰るぞ」

「ちょ、ちょっと待て。せっかくここまで来たのに何もしないで帰るのか?」

「だってお前、俺とデートは嫌なんだろ?」

ぐっ…。俺はただデートって名目が嫌なだけで工藤とは別に…ってちがーう!

「なんでそこまでデートにこだわるんだよ?」

俺が焦ってそんなことを口ばしると、工藤は会った時の様にあっさりと答えた。

「なんでって、好きな奴とは一緒に居たいとかデートしたいとか普通、思うだろ?」

「…え?」

俺は工藤の言葉が一瞬理解できなかった。
そりゃ確に付き合ってくれとは言われたが、こう真っ向からストレートに好きな奴とか言われるとどうしたらいいのか分からない。
俺、ナンパされることはあってもコイツのように告白されたことはない。

「…そ…れ、本気で言ってるの?」

俺の顔は今絶対真っ赤になっている。

「だれが男相手にこんな冗談言うかよ」

「うっ…」

そうだよな。うわ〜。どうしよう。こんな時どうしたら良いんだ。
俺が何も言えないでいると工藤は俺に近寄り、顎に手をかけ上向かせる。

「お前、顔真っ赤。もしかして告白されんの初めて?」

「そうだよ!!悪いかっ。どうせ俺は工藤みたく背高くないし、格好良くないからモテないよ」

俺は恥ずかしさからついヤケクソになって言う。
工藤は一瞬俺の言葉に目を瞬かせると何やらぶつぶつ呟く。

「そうか…、周りの連中が追い払ってんだな。こりゃ好都合」

「何がだよ?」

「いや、別に。それよりも俺が格好良いって?嬉しい事言ってくれるな」

顎を掴まれたまま、間近から嬉しそうに言われて俺は固まる。

「〜〜っ」

「まっ、それなら脈なしってワケでもなさそうだな」

顎から手を放され工藤は俺を見下ろすと、にっと笑って続けて言う。

「今日は仕方ないからデートじゃなくて普通に遊ぶか」

俺は頭の中が混乱していて、ただそれに頷くしか出来なかった。
その後、ゲーセンで遊び夕飯を一緒に食べて、別れた。

「何してんだろ、俺…」

家に帰り自室のベットの上で俺は、新しく登録された携帯番号を眺めながら溜め息をついた。


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