01
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ドット柄のキャンディーさん様リクエスト
九琉学園、吸血鬼パロ
吸血鬼の京介×人間圭志
裏有
日常の中に紛れ込んだ非日常。
茜色に染まる校舎の中で香る甘い芳香。
遮光カーテンの引かれた薄暗い室内で人影が重なる。
◇◆◇
「どこにいるんだアイツは…」
メールで呼び出された圭志は周囲に気を配りながら、人気のない廊下を歩いていた。
「まったく」
すると突然、通りすぎた空き教室の後ろ扉が静かに開く。
微かに廊下に響いた音に圭志が背後を振り返ろうとした瞬間、中から伸びてきた手が圭志の肩を掴み、圭志はそのまま空き教室の中へと引き摺り込まれた。
「っ、お前、な…」
カシャンと、背を押さえ付けられた扉の鍵が下ろされ熱い吐息が首筋に触れる。
その感触に肌を粟立たせ、圭志は頬を擽る髪の毛に指を絡めて軽く引くと喉を震わせた。
「いきなり、引き摺り込むなよ。ビビっただろ。…それと、呼び出したならもうちょっと分かりやすい場所にいろ」
「…これでも、か」
圭志の首筋に埋められていた顔が僅かに離れ、至近距離で相手と視線が絡む。
人ではあり得ない血の滴るような紅い双眸。
決して人工物では出せない鮮やかな紅い輝き。
薄暗い室内でゆらりと妖しく光る。
「っ、寮まで持たないのか?」
「持ってたらこんなとこに呼び出してねぇ」
唇から零れる犬歯はもはや牙といっていい程鋭く尖り、ちらりと覗いた赤い舌が先を求めて乾いた唇を舐める。
つぃと熱の籠った妖しげな光を放つ紅玉が細められ、圭志の背をえも言われぬ震えが走った。
「…っ…は」
ぞくりと背筋を這い上がってくるこれは快感にも近い。
もう何度もそれを体感している身が紅い瞳に反応して疼く。
吐き出された吐息に熱が混じり、圭志は堪らずに身を捩った。
「…っするなら早くしろ。見つかったらやばいだろ」
再び首筋に触れた熱い吐息に、圭志は相手の邪魔にならぬようそっとその頭を抱いた。
「圭志」
「……っ」
ぬるりと熱く湿った赤い舌が肌の上を滑り、ぞわぞわと肌が粟立つ。
圭志の反応を見ながら宛がわれた牙がつぷりと…ゆっくり柔らかなその肌に沈められた。
「ぅ…っ…は…っ」
皮膚を突き破る感覚に、痛覚は麻痺させられているのか痛みは無いが、熱を伴った妙な甘い痺れに襲われ思考が散り散りになる。
じゅるじゅると血を吸い上げる音が振動と共に鼓膜を震わせ、圭志は息を乱す。
「ぁ…っ…ンッ…っ!」
ずくりと、下がっていく血の気とは別に下腹部に生まれた熱に鼻に掛かったような甘い声が漏れる。それに気付いた圭志は声を掠れさせながら制止をかけた。
「ま、てっ…きょーすけっ…くっ…はっ…」
しかし、行為は止まらない。
「…ぁっ…っ…ン…」
京介の頭を抱いていた腕から力が抜ける。
ごくりと…圭志の血で喉の渇きを潤した京介は首筋に刺した牙を抜くと、傷口に舌を這わせて愛しげに口付けた。
「はっ…圭志」
持ち上げられた京介の指先が圭志の輪郭を添うように頬を撫で、熱を孕んだままの紅い瞳が圭志を見下ろした。
「…ン…京、介…」
「安心しろ。次は俺がお前を満たしてやる」
そして、乱れた息を零す唇に唇を重ね舌で割り入ると空いた片手で圭志の腰を抱き寄せる。
足の間に膝を差し入れ、密着した膝頭で京介は圭志の下腹部に溜まる熱を下から強くグッと刺激した。
「っあ…ぁっ、きょう…」
「お前は俺だけの餌(エ)だ」
酷く甘い声音に意識を奪われながら圭志は恐れる事無く、鋭く尖った京介の牙に自ら舌を這わせる。
それは、人では無い象徴…古より人々が畏怖し吸血鬼と呼ぶ存在。
そして同じく古より続く神城家と黒月家には隠れた繋がりがあった。
それは…。
十二歳の夜、父親から告げられた言葉を圭志は始め信じなかった。
「心を奪われる?はっ、誰が見ず知らずの奴に奪われるか」
闇に生きるその存在。
同時に、気を付けねばならぬ相対する存在のことも圭志は教えられていた。
それから時は流れ…
圭志が十四歳を迎えた月夜の晩、人通りの絶えた路上で圭志は怪し気な集団に囲まれた。
「吸血鬼を狩るハンターだ?俺には関係ねぇだろ。俺はれっきとした人間だぜ」
しかし、聞く耳を持たず、いきなり圭志を捕らえようとハンター達は襲い掛かってきた。
「くっ…、の野郎!俺に触るな!気色悪ぃ」
顔をマスクで隠し、無言で襲い来る集団に気味の悪さを感じて鳥肌が立つ。まだ少年と呼べる年齢で、成熟しきっていない体で応戦するには少しばかり無理があった。
「離せっ、この人拐い!」
掴まれた右腕を捻り上げられ、手袋越しに腕から伝わるぬるい温度に圭志は吐き気を覚えた。
ざわりと…、その瞬間、周囲を取り巻いていた空気が密度を増し、圭志に触れていた手がその体ごと吹き飛ばされる。
「がはっ…っ!」
「誰の許可を得てソイツに触れている?」
コツリと、唐突に、月夜を背にして現れた男が圭志の傍らへと降り立った。
それだけで圭志の背にゾクリとした、悪寒とは違う何かが走り抜けた。
(――っ、何だコイツ)
横目で圭志が傍らに立った黒ずくめの男の姿を視認すれば、普通ではあり得ない紅の瞳が鋭く細められる。
「コイツが俺の餌と知っての襲撃か」
圭志を囲んでいた集団に紅い瞳は向けられ、その唇から紡がれた言葉を圭志は半分も理解できないまま黒ずくめの男をぼんやりと見つめていた。
月明かりに照らされた端整な横顔。紅い瞳はルビーよりも赤々しく、唇からは鋭く尖った牙が覗く。
(コイツが親父の言ってた吸血鬼…)
すと持ち上げられた右腕が圭志を囲んでいた集団に向けられ、空を薙ぐように右腕が振られた。
「消えろ」
冷ややかな声と腕を振ったその仕草だけで、目の前にいた集団は風に吹かれた紙屑のように軽く吹き飛ばされ、全身を壁に打ち付ける。
ガックリと頭を下げ、糸の切れた人形のように男達は壁に凭れたまま動かなくなった。
シンと静かな月夜に戻り、男達に向けられていた紅い瞳がゆるりと圭志に向けられる。
ハッと息を飲むほど鮮やかな紅。
視線が絡んだ途端、圭志の中で何かが反応するように一際強くどくりと鼓動が跳ねた。
「――っ」
「黒月家の圭志だな?」
息を詰め、言葉を発せないでいる圭志の頬に男の右手が触れてくる。
その手は顔の輪郭をなぞるように徐々に下へと下りていき、やがて圭志の首筋に触れて止まる。
「そういう、お前は…神城家の…京介か」
絡み付く濃密な夜の空気に、圭志は喉を震わせ目の前の男、京介を見返した。
正解だと言うようにふっと弧を描いた唇が突然、過ぎ去った日の事を持ち出してくる。
「お前、契約の儀に出席しなかったようだな」
契約の義。
それは神城家と黒月家の間で古より交わされてきた約束。
詳しい過程までは知らないが、選ばれた神城家の吸血鬼と黒月家の人間が生涯を誓い血を交わすという。
圭志に言わせてみれば神城家の吸血鬼の一人に自分の人生と血を一生貴方に捧げますと誓う生け贄の儀式だ。
何故だか黒月家の人間は吸血鬼と相性が良いらしく、余程のことがない限り血を吸われても死ぬことはない。
過去の事を話に出してきた京介を圭志は鼻で笑い、細めた鋭い眼差しで見返す。
「だったらなんだ。俺に恥でもかかされた仕返しか」
「いや、俺も馬鹿馬鹿しくて儀式には参加しなかった」
共に選ばれた吸血鬼と人間が儀式を欠席したなんて前代未聞だと言われたと、京介は愉快そうに笑う。
「だったら今さら俺に何の用だ?」
クツクツと笑っていた京介は圭志の言葉でピタリと笑いを納めると、分からねぇか?と圭志の瞳を覗き込み、首筋に触れていた指先で圭志の肌を撫でた。
その感触にざわざわと圭志の肌が粟立つ。
「あの儀式は俺にして見れば一生を共にする餌、伴侶を勝手に決められるようなものだ。そんなもので決められた相手なんざ俺は願い下げだ」
「…同感だな」
「だから俺は出席しなかったし、お前に会おうとも思わなかった。自分の相手は自分で決める」
今もそう思っているのだろう強い意思を宿した紅い瞳が圭志を射抜く。
じわりと圭志の首筋に添えられていた指先が、撫でられた肌が知らず熱を持ち始める。
間近で絡む視線に圭志は自分でも気付かぬ内に魅入られていた。
「人間を誘うのは容易い。だが、今まで美味い血を持つ奴はいなかった。なりよりつまらねぇ人間ばかりだった」
「…それで?」
「俺を恐れず、生意気にも儀式を欠席した人間がいたのを思い出してな」
気のせいかグッと赤みを増した双眸に、圭志は口端を吊り上げる。
「惜しくなったのか?」
自分でも何を言っているのか、圭志は頭の片隅でそう思いつつも口端を吊り上げ不敵に笑ってみせた。
すると、京介は躊躇いもなく月夜の下で頷いた。
「あぁ、俺としたことが失敗したぜ。もっと早くお前を手に入れておけば良かったってな、…圭志」
ちらりと唇から覗いた赤い舌が、獲物を前に舌舐めずりするかの様に唇から零れた牙を濡らす。
気がしたではなく、濃く赤みを増した瞳に圭志はゾクリと肌を震わせた。
「…それで、どうするつもりだ?コイツ等みたく無理矢理俺の自由を奪うのか?」
「まさか。それじゃ面白くねぇ。俺はお前から…」
するりと首筋を撫でた手が持ち上げられ、圭志の頤にかけられる。
吐息の触れ合う距離まで近付いた京介の言葉を、圭志は紅い瞳から目を反らさず待った。
「お前の総てを奪う。自由なんてちっぽけなもの、俺はお前の身も心も奪ってみせる。…お前は俺だけの餌だ」
唇に触れる熱い吐息、絡む眼差しに圭志は臆することなく艶やかに笑う。
「出来るもんなら…やってみろよ。…京介」
俺の総てを奪えたその時、お前に俺の血をやろう。
一生をお前と共に生きる事を誓う。
約束だと、今は触れるだけの口付けを交わし、互いに離れる。
「…でも何で俺なんだ」
「ひと目見て分かった。俺の渇きを癒すのはお前しかいねぇ。…その逆もまたしかり。お前も本当は分かってるだろう?」
京介の存在を感じた瞬間、身体の中を巡る血が京介に反応して熱を帯びた。
そして、向けられた紅い瞳に一瞬で心を…奪われた。
「…何の事だか。それより家のしきたりに従いたくなかったんじゃねぇのかよ」
「勘違いするな。俺は自分の意思でお前を選んだ。いずれお前も俺を選ぶ」
それまで精々足掻けと、言い残して京介の姿が消える。
「お前こそ…俺が欲しいなら全力で奪いに来い」
それから三年…
「考え事とは余裕だな圭志」
「…っ、あっ…はっ…」
牙を突き立てられた後の首筋を熱い舌がなぶり、圭志の身体が小刻みに震える。
足元に落ちたスラックスが圭志の動きを制限し、直に握られたモノからとろりと蜜が零れた。
「はっ…、ぁ…っ…お前のせいだろ…」
「俺の?」
冷めない熱を宿す紅い瞳を鋭く睨み返し、圭志は京介の首に回していた腕に力を込めて引き寄せると噛み付くように唇を重ねた。
「ン…ふっ…ぁ…」
「…圭志」
圭志から差し込まれた舌を絡めとり、京介は口付けに応えながら左手で圭志の腰を支え、右手で圭志のモノを上下に抜く。
先端から零れた蜜がぐちゅぐちゅと水音を立て、京介の指を濡らしていく。
「あっ…んんっ…ンッ、きょー…もっ…やばいっ、はなせ…」
離れた唇を透明な糸が繋ぎ、圭志は荒い息を吐いた。
「良い、そのままイけ」
そんな圭志のこめかみに京介は口付け、囁くように解放を促す。ぐちりと濡れた先端を親指の腹で擦り、圭志の耳朶を甘く噛む。
途端に京介の手の内にあったモノがぶるぶると震え、…弾けた。
「っあ…ぁ…――っ、はっ、…ぁ…」
がくりと膝から力の抜けた圭志の身体を自分に凭れかけさせ、京介は圭志の吐き出した熱を手に右手を圭志の背に回す。
「で、何が俺のせいだって?」
気を紛らわせるように京介は話しかけながら、圭志の秘所に人差し指をつぷりと沈めた。
「はーっ…はっ、んっ、ぁ…まえが、俺だけの餌だとか…言うから、はっ…」
ぐるりと中を掻き回すように京介の指先が動き、圭志の反応を見て中指も入れられる。
「…思い、出した…だけだ。っあ…!ンッ…お前と初めて…会った日のことっ」
「あぁ…、俺の言った通りになっただろう」
やがて三本目の指が中へと侵入してきて、圭志はその圧迫感に眉を寄せた。ぐちぐちと音を立てて指を呑み込む秘所の中を京介は傷付けぬよう、ばらばらに指を動かす。
「っあ…っ、はっ…ぅ…!」
「ココか…」
すると、圭志の口から一際艶を帯びた声が漏れる。京介はその一点を中心に侵入させた指先で刺激しながら圭志の額に、頬に、唇に…キスを落とす。
「…あっ、ぁ…あ…」
「そろそろ良いか」
秘所から引き抜かれた指先が、とろりと再び蜜を溢し始めた圭志のモノに絡められる。圭志は熱い息を吐きながら京介を見上げた。
「んっ、…いいぜ。来いよ」
力の入らない片手で京介のベルトに指をかけ、圭志は口端を吊り上げる。
その眼差しに隠しきれない欲情の色を見つけ、京介も喉の奥で笑った。
「力抜いてろ」
既に熱を持っていた京介のモノが圭志の秘所に宛がわれ、圭志は意識して力を抜く。それに合わせるように京介は腰を押し進めた。
何度味わっても慣れない感覚に圭志が眉を寄せれば、気を散らすように首筋に寄せられた京介の唇が傷跡をなぞる。
「圭志…お前は俺だけのものだ」
「はっ、はっ…くっ…ぁっ京介」
敏感になっている傷口に唇で触れられ、圭志はビクリと肩を跳ねさせる。肌の上を撫でるように熱い舌が這い、もどかしい愛撫に圭志は身を捩った。
「誰にも触れさせるなよ」
「っ…まえっ…以外に誰がっ…」
同時に前にも刺激を与えられ、圭志は堪らず、力の無い手で京介の頭を抱いた。
「きょう…ぅ、ンっ…」
「は…っ圭…」
はっ…と圭志の体から無駄な力が抜けたのを見計らい、京介は収まりきっていなかった熱塊を一気に最奥まで打ち込んだ。
「あぁっ…ぁっ、くっ…」
その衝撃に圭志は喉を反らし、先端からぱたぱたと蜜を溢す。
「はっ、相変わらず狭いな…」
「…っは、…はっ…」
腹の奥底で蠢く熱い熱塊にずくりと身体の芯が疼く。
圭志は乱れた呼吸を調えると腕に抱いた京介の頭を少し離し、赤みの増した京介の瞳を見つめて自ら距離を詰めた。
熱い息を吐いた京介の唇を挑発するようにぺろりと舐め、ぐずぐずと燻る熱に濡れた瞳を細め、圭志から誘う。
「ン…はっ…も、いいぜ。…俺が…欲しいだろ?」
「…お前もな、圭志」
体を支配する熱に煽られるように共に互いの与える熱に溺れていく。
机に体を押し付けられ、中を深く貫かれる。
繋がった下肢からぐちゅぐちゅと湿った音が立ち、肌のぶつかる乾いた音が室内に響く。
「ぅぁ…っ…ぁ、あ…」
「―っ、圭志…はっ…」
体を揺さぶられ、圭志の口から堪えきれなかった声が漏れる。机に押し倒された時に絡めた指先を握り、余裕を無くした表情で見下ろす京介に圭志は熱に浮かされたままふわりと笑った。
「――っ、圭志っ」
「あっ…あぁっ…!」
どくりといきなり、中で強く脈動した京介の熱に圭志は背をしならせる。
背筋を這い上がる快感に意識を溶かせば、再び首筋に牙が突き立てられた。
「うぁ…ぁっ…あぁ…」
柔肌に沈められた牙が熱い。じゅるじゅると吸い上げられる熱に体が震え、頭の片隅に残っていた理性も一緒にどろどろに溶かされた。
「あつい…」
熱を吐き出しても身体の芯を蝕む熱が、最奥に吐き出された熱が圭志の身を苛む。
首筋から零れた赤い液体を舐めとり、京介は顔を上げた。
「圭志」
「ん…」
黒色に戻った瞳と視線がぶつかり、圭志が口を開く前に京介が喉を鳴らし甘く笑った。
「愛してる。俺の唯一」
「…ずりぃ」
伸ばされた京介の手が圭志の額に張り付いた前髪を払い、髪を撫でてくる。愛しさを込めて触れてきた手に圭志は全てを許してしまう。
「何がだ?」
それを分かった上で京介は圭志にも言葉を促した。
「俺も…。愛してる京介」
唇にキスを落とされ、圭志からもキスをし返す。
軽く触れ合うキスの合間に京介がクツリと吐息まじりに呟いた。
「あと何回…」
「ん?」
圭志は引き寄せられるままに腰を抱かれ、呟かれた言葉に首を傾げる。
「何回繰り返せばお前は俺と同じになるんだろうな」
「あぁ…」
吸血行為を繰り返し、その身に熱を受け入れ続けていればやがて圭志の身も人から京介と同じ存在になる。誓いの通り、永い時を共に生きる為に。
それは黒月家に流れる血がなせる技。
古より神城家と黒月家が繋がっていられる理由。
さらりと差し入れられた指先に髪を梳かれ、圭志は気持ち良さそうに瞳を細める。圭志の身を苛む熱が治まるのを待って二人は脱ぎ散らかした制服を身につけた。
「圭志、寮までは隠しておけ」
ストライプのネクタイをぞんざいにポケットに突っ込もうとした圭志に目を止めて京介が告げる。
「近くにいるのか?」
その台詞に圭志は眉を寄せ、外していたネクタイを緩くだが絞め直して聞き返した。
「気配がする」
京介はちらりと扉の向こう、校舎内のどこかを見据えると舌打ちして言う。
ネクタイを絞め終えた圭志はそんな京介の傍らに立つと、けど…と言葉を紡いだ。
「ハンターなんて俺達の敵じゃねぇだろ」
「ふっ…、そうだな」
かけていた鍵を外し、二人は廊下へ出る。
そして、寮へと向かう道すがら一人の教師と擦れ違った。
「お前―…」
その教師が何かに気付き、目を見開いて二人を振り返る間もなくその体は膝から崩れる。
首筋に落とされた手刀と腹部に打ち込まれた拳が一瞬で教師の意識を断ち切り、動きを封じた。
どさりと地面に倒れ伏した教師をそのままに圭志と京介は何事も無かったかのように歩を進める。
「三年経っても学習能力のねぇ連中だな。あの時だって京介に手も足も出なかったくせに、無駄だってのが分からねぇのか」
「はっ、分からねぇからこうして俺を狩りに来るんだろ」
「お前を狩ろうなんて、命を捨てるのと一緒なのにな」
「くくっ…違いない。アレは後で家の奴に回収させて処理する」
世間話でもするかのように違和感なく会話を交わしながら二人は学園内の寮へと姿を消した。
◇◆◇
日常の中に紛れ込んだ非日常。しかしそれが二人にとっての日常。
闇色に染まり始めた空には、あの日と同じ丸い月が浮かんでいた。
end.
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